気候変動とエネルギー:混乱の中の世界のリーダーたち

Cimmerian/iStock
エネルギー、気候変動、経済の関係性を鋭く分析する、世界的な講演者でもあるスティーブ・ゴーハム氏は、「気候現実主義(Climate Realism)」を象徴する論客である。イリノイ大学で電気工学の修士号を、シカゴ大学でMBAを取得。技術とビジネスの両面からエネルギー産業の構造を熟知しており、ハイテク企業の幹部を歴任した実務派としての顔も持っている。
その彼が、気候変動とエネルギーについての30年間を振り返った記事をリリースしたので、ご紹介する。
Climate Change and Energy: World Leaders in Turmoil – Master Resource
序論:30年間のエネルギー政策の転換点
本論文は、過去30年間にわたり国連(UN)、世界経済フォーラム(WEF)、国際エネルギー機関(IEA)などが推進してきた「脱炭素・再生可能エネルギーへの移行」という世界的な潮流が、いま重大な岐路に立たされていることを指摘している。
1990年代以降、世界のリーダーたちは「ネットゼロ(温室効果ガス排出実質ゼロ)」を掲げ、何千もの法律を制定し、10兆ドルを超える巨額の資金を再生可能エネルギーに投じてきた。しかし、ゴーハム氏は、これらの努力が地球の気候に有意な影響を与えたという証拠はなく、大気中の二酸化炭素濃度は過去50年間、政策の如何にかかわらず上昇し続けていると批判した。
現在、世界の指導者たちは、理想として掲げたエネルギー転換の現実的な困難さと、経済・安全保障上の必要性との間で「混乱」に陥っている。
化石燃料への回帰と現実
論文の核心的な指摘は、世界が「脱石炭・脱石油」を叫びながらも、実際には過去最高の消費量を記録しているという矛盾である。
- 石炭の支配:2024年時点で、石炭火力発電は世界の電力供給の34%を占める筆頭電源だ。現在、世界中で6,500以上の石炭火力発電所が稼働しており、さらに1,000以上の新設計画が進んでいる。指導者たちが「石炭の終焉」を宣言する一方で、実際の石炭消費量は2024年に過去最高を更新した。
- IEAの予測変更:国際エネルギー機関(IEA)は2021年、「気候危機を真剣に考えるなら、新規の石油・ガス・石炭投資は即刻停止すべきだ」と主張していた。しかし、直近の「世界エネルギー展望」では、石油需要が今後も増加し続けるとの予測に転じている。
これは、再生可能エネルギー(風力・太陽光)の不安定性と低エネルギー密度が、現代社会の膨大なエネルギー需要を単独で賄うには不十分であることを露呈している。
新たなエネルギー需要の波:AIとデータセンター
論文は、2020年代半ばから急速に浮上した「AI革命」が、エネルギー政策をさらに混乱させていると分析している。
先進国(米国、中国、欧州)の間でAIの主導権争いが激化する中、データセンターの建設が急増している。AI処理には膨大な電力が必要であり、これまでの「省エネ・脱炭素」のシナリオは根底から覆された。
テック企業や政府は、クリーンエネルギーの目標を維持したいと考えつつも、AI競争に勝ち残るためには、24時間365日安定して電力を供給できる火力発電や原子力発電に頼らざるを得ない状況に追い込まれている。
米国の政策転換:トランプ政権の影響
ゴーハム氏は、米国の政治情勢が世界の気候変動運動に与えた壊滅的な打撃についても詳しく述べている。
トランプ大統領の第2期政権において、米国は再びパリ協定および国連気候変動枠組条約(UNFCCC)から離脱した。これにより、気候変動関連団体への資金提供が打ち切られ、バイデン政権下で進められた過進的なグリーン政策は停止された。
世界最大の経済国であり、エネルギー生産国でもある米国のこの転換は、他の諸国に対しても「ネットゼロ」という無理な目標を再考させる大きな契機となっている。
エネルギー格差と人道的視点
論文はまた、エネルギー政策の「正義」についても触れている。米国エネルギー長官クリス・ライト氏の言葉を引用し、先進国の国民が1人あたり年間約13バレルの石油を消費する一方で、発展途上国ではわずか3バレルにとどまっている現状を指摘する。
何十億人もの人々が依然として「エネルギー貧困」に喘いでいる中で、安価で信頼性の高い化石燃料の使用を制限することは、途上国の発展を阻害し、人道的な不利益をもたらすものであるとゴーハム氏は主張する。
結論:感傷的な政策から現実的な適応へ
論文の結論として、著者は以下の提言を行っている。
- 「気候ヒステリー」からの脱却:世界のリーダーたちは、科学的根拠が乏しく経済を破壊する「ネットゼロ」の幻想を捨て、冷静なエネルギー政策に戻るべきである。
- エネルギーの三要素の再構築:「持続可能性」ばかりを優先するのではなく、「安価(Affordable)」「信頼性(Reliable)」「安全性(Secure)」を基盤としたエネルギー供給体制を再構築する必要がある。
- 適応(Adaptation)へのシフト:人類は歴史を通じて気候の変化に適応してきた。巨額の資金を「気温抑制」という不確かな目標に投じるよりも、変化する環境に対するインフラの強化や技術革新などの「適応策」に注力すべきである。
総評
本論文は、現在の環境政策が「理想」という名のドグマに縛られ、現実の物理的・経済的制約を無視してきた結果、世界的な混乱を招いたと厳しく批判している。エネルギー政策の主役が「気候変動対策」から「エネルギー安全保障と経済成長」へと回帰している現状を、2026年という時間軸から鋭く描写した、現実主義的なエネルギー論と言えよう。
著者:スティーブ・ゴーハム(Steve Goreham)の現在
現在は非営利団体「気候科学連合(CSCA)」の執行理事を務めている。彼は、主流の「二酸化炭素による壊滅的な温暖化説」に対し、科学的データと歴史的視点から異を唱え続けている。代表作『Green Tyranny(緑の暴政)』や『The Mad, Mad, Mad World of Climatism』では、脱炭素政策が個人の自由と経済的繁栄をいかに損なっているかを厳しく批判した。
彼の視点は、CO2を「汚染物質」ではなく「植物の成長に不可欠な糧」と捉える点にある。2026年の本論文においても、理想論に走る世界のリーダーたちが、AIによる電力需要増や安全保障という「物理的な現実」に直面して混迷する様子を、一貫した現実主義的立場から解き明かしている。
関連記事
-
世界的に化石燃料の値上がりで、原子力の見直しが始まっている。米ミシガン州では、いったん廃炉が決まった原子炉を再稼動させることが決まった。 米国 閉鎖済み原子炉を再稼働方針https://t.co/LILraoNBVB 米
-
「本当のことを言えば国民は喜ぶ、しかし党からはたたかれる」 石破が首班指名され、晴れてゲル首相になったのちに野党の各党首を表敬訪問した。 このふと漏らしたひとことは、前原誠司氏を訪れたときに口をついて出た。撮り鉄・乗り鉄
-
エネルギー政策の見直しの機運が高まり、再生可能エネルギーへの期待が広がる。国連環境計画金融イニシアティブ(UNEP・FI)の特別顧問を務め、環境、エネルギー問題のオピニオンリーダーである末吉竹二郎氏の意見を聞いた。
-
今年7月からはじまる再生可能エネルギーの振興策である買取制度(FIT)が批判を集めています。太陽光などで発電された電気を電力会社に強制的に買い取らせ、それを国民が負担するものです。政府案では、太陽光発電の買取額が1kWh当たり42円と高額で、国民の負担が増加することが懸念されています。
-
規制委の審査には、効率性だけでなく科学的、技術的な視点を欠くとの声も多い。中でも原発敷地内破砕帯などを調べた有識者会合は、多くの異論があるなか「活断層」との判断を下している。この問題について追及を続ける浜野喜史議員に聞く。
-
前回はESG投資商品と通常の投資商品に大きな違いがないことを論じましたが、今回は銘柄選定のプロセスについて掘り下げてみます。 いわゆる「ESG投資」というのは統一された定義がなく、調査会社や投資商品によって選定基準が異な
-
小泉・細川“原発愉快犯”のせいで東京都知事選は、世間の関心を高めた。マスコミにとって重要だったのはいかに公平に広く情報を提供するかだが、はっきりしたのは脱原発新聞の視野の狭さと思考の浅薄さ。都知事選だというのに脱原発に集中した。こんなマスコミで日本の将来は大丈夫かという不安が見えた。佐伯啓思・京大教授は1月27日付産経新聞朝刊のコラムで「原発問題争点にならず」と題して次のように書いた。
-
先日3月22日の東京電力管内での「電力需給逼迫警報」で注目を浴びた「揚水発電」だが、ちょっと誤解している向きもあるので物語風に解説してみました。 【第一話】原子力発電と揚水発電 昔むかし、日本では原子力発電が盛んでした。
動画
アクセスランキング
- 24時間
- 週間
- 月間













