加州の製油所閉鎖からみる「エネルギー安全保障」とは

米国カリフォルニア州で、製油所の閉鎖が相次いでいる。1980年代には40カ所以上あった製油所が、最近のPhillipsとValeroの閉鎖によって、現在は7カ所まで減少したという。
米国のRonald Stein氏(プロフェッショナル・エンジニア)らは、この問題を単なるガソリン価格の問題ではなく、エネルギー安全保障の問題として取り上げている。
California is handing control of its fuel supply to foreign refineries

カリフォルニア州と日本の比較
※GDPは名目値。人口・自動車保有台数・GDPはIMF、米商務省、カリフォルニア州運輸局、国土交通省等の公表データに基づく概算値。カリフォルニアの製油所数は米国のRon Stein氏らの記事、日本の製油所数はEIA資料に基づく推計。
構造的な脆弱性
カリフォルニアは、いわば「エネルギー・アイランド」である。シエラネバダ山脈を越えて、他州から大量の輸送用燃料をパイプラインで運ぶことは容易ではない。
一方で、カリフォルニアの製油所は州内だけでなく、アリゾナ州の輸送用燃料需要の45%、ネバダ州の88%も供給しているという。
精製能力の崩壊
相次ぐ製油所の閉鎖の原因は過酷な規制と罰金とされる。にもかかわらず州大気資源局は、キャップ・アンド・インベスト制度の改定で、シェブロンに約5億ドル、PBFに約3.4億ドルの追加負担を課そうとし、しかも海外の精製業者はこの負担を免れる仕組みだったため、2026年初頭に主要各社が規制当局に共同で警告を発する事態となった。
こうした排出量取引制度は、もともと発電部門の脱炭素化を主眼に設計されたものであったが、輸送用燃料をつくる精製部門にもそのまま当てはめようとした結果とも言える。
輸入依存の規模
州内需要は1日あたりジェット燃料1,100万ガロン、ディーゼル1,000万ガロン、ガソリン3,700万ガロンの計5,800万ガロン。今後さらなる製油所閉鎖が見込まれる。
では、不足する燃料をどうするのか。記事では、今後さらに製油所の閉鎖が進めば、アジアの製油所からの輸入への依存度が高まると指摘している。
ここには一つの皮肉がある。カリフォルニアでは厳しい環境規制によって州内の製油所に負担を求めている。しかし、州内で製造できない燃料を海外から輸入すれば、その燃料は別の国の製油所で製造され、さらにタンカーで太平洋を輸送しなければならない。記事は、結果として排出が国外へ移されるだけではないか、と問題提起している。
また、そうしたアジアの国々も、中東からの原油に依存している。イラン戦争やホルムズ海峡の封鎖が長期化すれば、アジア域内でも原油や石油製品の供給が制約され、自国の需要を優先することで、米国向けの輸出が減少するリスクも考えられる。
エネルギー転換とは?
さらに興味深いのは、「エネルギー」を三つに分けて考えるべきだという指摘である。すなわち、①輸送用燃料、②石油などからつくられる製品、③電力である。
現在の「エネルギー転換」では、風力や太陽光による発電量を増やすことが盛んに語られる。しかし、それによって航空機や大型トラック、船舶、建設機械などが必要とする液体燃料を直接供給できるわけではない。また、記事は、原油を原料としてつくられる6000以上の製品にも言及している。
つまり、「再生可能エネルギーを増やすこと」と「化石資源への依存をなくすこと」は、同じ意味ではないということだ。
電力は重要である。しかし、現代社会を動かしているエネルギーは電力だけではない。輸送用燃料がなければ、物流も建設も航空も海運も成り立たない。そして、石油は燃料であると同時に、さまざまな製品をつくるための原料でもある。
これは日本にとっても、決して他人事ではない。日本はカリフォルニアのようにアジアから石油製品を大量に輸入しているわけではないが、国内で使用する原油の多くを中東からの輸入に依存している。
中東からの原油供給が滞れば、アジアの製油所だけでなく、日本の製油所も影響を受ける。ホルムズ海峡の封鎖などが長期化すれば、原油価格の上昇だけでなく、供給そのものが制約され、国内の物流や産業活動に影響が及ぶ。
エネルギー安全保障とは、単に電力を安定して確保することではない。原油を確保し、それを国内で燃料や化学製品などに加工する「精製能力」もまた、重要な社会基盤なのである。
おわりに
Stein氏らは、この状況がカリフォルニア(米国第4位の経済規模)の国家安全保障上のリスクになると位置づけ、風力・太陽光への投資が化石燃料由来製品や輸送燃料の代替にはならない点(既存風力タービンだけで将来1億4,500万トンのコンクリート・鉄筋、550万トンのブレード廃棄物を生む試算も紹介)を強調した。
最終的に、カリフォルニアが自国生産を放棄し続けるなら、トランプ大統領に国防生産法(DPA、1950年)の発動を求めるべきだと主張して締めくくっている。
カリフォルニアで起きている製油所閉鎖は、私たちに一つの問いを投げかけている。「エネルギー転換」と呼んでいるものは、本当にエネルギー全体の転換なのだろうか。電力だけを見てエネルギー政策を考えると、燃料と原料という、もう一つの重要な側面を見落としてしまうのではないだろうか。
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