日本の電力網が「くし形」である理由 ?「電力会社の陰謀で連系が弱い」は本当か?

2012年06月04日 15:00

(GEPR編集部より)GEPRはNPO法人国際環境経済研究所(IEEI)と提携し、相互にコンテンツを共有します。民間有志からつくる電力改革研究会のコラムを提供します。日本の電力網が相互に連携していないことについての専門家からの説明です。

「くし形」の日本、「メッシュ状」の欧州

日本の電力系統の特徴にまず挙げられるのは、欧州の国際連系が「メッシュ状」であるのに対し、北海道から 九州の電力系統があたかも団子をくし刺ししたように見える「くし形」に連系していることである。

「メッシュ状」系統は、各部の「流れやすさ」に応じて電気が勝手に流れるため、いったん事故が起きると連鎖的に事故が拡大して広域停電が起きやすい一方、「くし形」系統は、電気の流れを監視・制御しやすいため広域 停電が起きにくいことがメリットといわれる。

他方、欧州では国際的な電気取引が活発で、それが風力や太陽光 などの再生可能エネルギーの普及に好影響があったとの主張がある。特に震災後においては、「くし形」系統を構築してき たのは、電力会社間の競争と、再生可能エネルギー普及による販売電力量の減少を嫌った電力会社の陰謀だ、と いった批判がある。


(図1)日本と欧州の系統構成

「くし形」系統の経緯

日本が「くし形」系統になっているのは、次の2つの理由による。

(1)日本の国土が縦長であること。 (2)水資源は全国にほぼまんべんなく存在するが、化石燃料、原子燃料の大半を海外からの輸入に依存してい ること。
そもそも(1)の理由により、隣接する地域以外との連系は著しく困難であり、隣接地域との連系を2点、3 点と増やしていっても「縦長」の形態にならざるを得ない。また、(2)の理由により各地域でそれぞれに需給を バランスさせることが比較的容易であったことから、戦後に各電力会社の地域割りがなされた。

そうしてできた 地域ごとの電力会社は、発電所とネットワークからなる強固な電力系統を構築する一方で、他地域には補完的な役 割を期待することとなった。その結果、隣接地域とは1点、ないしは2、3点で連系されるにとどまり、日本の 電力系統は、「各電力会社内の系統は密、隣接会社間の連系は疎」の「くし形」系統となっているのである。

震災以降、エネルギーの地産地消がよくいわれるが、これまでは各社がそれぞれに地産地消をはかってきたのであり、その結果として現状、必要最低限の地域間連系線しか存在しないことは、これまでの電力システムの構 造のなかでもっとも効率的な投資行動を行ってきた結果だといえる。

隣接会社間の連系は本当に疎なのか

ところで「隣接会社間の連系は疎」といっても、実際のイメージは少々異なる。図2は各地域の需要規模と地域間連系線の設計上の送電容量を示したものだが、各地域の需要規模に対し、最も小さい北海道においても約1 割の送電容量を有している。欧州でも国際連系線の送電容量を各国需要規模の1割程度にすることを目指しているのであり、日本は連系線の容量が少ないというのは実際にはあたらない。

ただし、設備故障時における周波数、電圧、安定度などの電気的制約条件により実際に送電できる容量は制限される。また容量の一部を電力会社が 系統異常時の対応用として常時は使わずにマージンとして確保していることに加えて、電力会社による広域的な 電源開発にともなう電気がすでにかなりの分量を占めており、新たな電力取引等に使える量はそう多くないので ある。

冒頭にも紹介した通り連系線の送電容量を大きくすると電力会社間の競争につながりやすいため、電力会社に 増強へのインセンティブが働かないのではないかという声は、自由化をはじめてから根強く存在している。この ため、第3回で紹介した電力系統利用協議会(ESCJ)が連系線の拡大を電力会社に勧告できる仕組みになっている。今まですでに、東日本と西日本をつないでいる周波数変換設備や北海道本州連系設備の増強、中部電力・関 西電力間の連系線増強が勧告されている。


(図2)各地域の需要規模と地域間連系線の設計上の送電容量
(出典)地域間連系線等の強化に関するマスタープラン研究会 中間報告書

今後の広域運用・取引の拡大に向けて

連系線の整備には時間とコストがかかる。例えば、現在電力システム制度改革専門委員会の下に「地域間連系 線等の強化に関するマスタープラン研究会」を設置して、主に周波数変換設備の増強に関する検討・議論を行っているが、それによると周波数変換設備を90万kW増強するのに、10年程度から20年以上の工期と、1300 ~3600 億円の工事費を要するということだ。

したがって当面は、全国大の電力供給・取引、再生可能エネルギーの普及などを推進するため、スマートグリッドなど新たな技術も活用して、まずはマージンを、次に設計上の送電容量いっぱいまで地域間連系線を利用することを考えていくべきだ。さらに多額の費用を要する地域間連系線の増強を行うか否かは、国、ESCJ、電力会社、新電力などその他の事業者、学術者などの関係者で、発電設備投資のスケジュールやロケーションについての計画と調整を図りつつ、費用対効果や費用負担などもよく検討・議論した上で、決定していくべきであろう。

電力システム制度改革専門委員会では、全国的なネットワークの運用・計画を行う中立的な広域系統運用機関 の設立も議論されているようだ。この機関が、こうした役割を担っていくかどうかも注目したい。

This page as PDF

関連記事

  • 北朝鮮の1月の核実験、そして弾道ミサイルの開発実験がさまざまな波紋を広げている。その一つが韓国国内での核武装論の台頭だ。韓国は国際協定を破って核兵器の開発をした過去があり、日本に対して慰安婦問題を始めさまざまな問題で強硬な姿勢をとり続ける。その核は実現すれば当然、北だけではなく、南の日本にも向けられるだろう。この議論が力を持つ前に、問題の存在を認識し、早期に取り除いていかなければならない。
  • 田中 雄三 国際エネルギー機関(IEA)が公表した、世界のCO2排出量を実質ゼロとするIEAロードマップ(以下IEA-NZEと略)は高い関心を集めています。しかし、必要なのは世界のロードマップではなく、日本のロードマップ
  • パリ気候協定への2035年の数値目標の提出期限は2月10日だったのだが、ほとんどの国が間に合っていない。期限に間に合った先進国は、米国、スイス、英国、ニュージーランドの4か国だけ。ただしこの米国は、バイデン政権が約束した
  • 言論アリーナ「今度こそ日本版ライドシェアの時代は来るか?~電気自動車はどうなる~」を公開しました。 番組はこちらから。 日本の規制緩和で特に“岩盤”が厚いのが、ライドシェア。Uberの隆盛する海外に比べ大きく立ち遅れてい
  • 不正のデパート・関電 6月28日、今年の関西電力の株主総会は、予想された通り大荒れ模様となった。 その理由は、電力商売の競争相手である新電力の顧客情報ののぞき見(不正閲覧)や、同業他社3社とのカルテルを結んでいたことにあ
  • 東電は叩かれてきた。昨年の福島第一原発事故以降、東電は「悪の権化」であるかのように叩かれてきた。旧来のメディアはもちろん、ネット上や地域地域の現場でも、叩かれてきた。
  • 前回お知らせした「非政府エネルギー基本計画」の11項目の提言について、3回にわたって掲載する。まずは第1回目。 (前回:強く豊かな日本のためのエネルギー基本計画案を提言する) なお報告書の正式名称は「エネルギードミナンス
  • 日本のエネルギーに対する政府による支援策は、原発や再生可能エネルギーの例から分かるように、補助金が多い形です。これはこれまで「ばらまき」に結びついてしまいました。八田氏はこれに疑問を示して、炭素税の有効性を論じています。炭素税はエネルギーの重要な論点である温暖化対策の効果に加え、新しい形の財源として各国で注目されています。

アクセスランキング

  • 24時間
  • 週間
  • 月間

過去の記事

ページの先頭に戻る↑