今週のアップデート — 原子力をめぐる知られざる論点、金融、核兵器、規制(2012年12月25日)
今週のアップデート
1)原子力発電の先行きについて、コストが問題になっています。その資金を供給する金融界に、原発に反対する市民グループが意見を表明するようになっています。
国際環境NGOのA SEED JAPANで活動する土谷和之さんに「原発への投融資をどう考えるか?–市民から金融機関への働きかけ」を寄稿いただきました。
反原発運動というと、過激さなどが注目されがちです。しかし冷静な市民運動は、原発をめぐる議論の深化へ役立つかもしれません。
2)日本の原子力の未来を巡って、使用済核燃料の処分とそれを利用する核燃料サイクルが常に問題になります。そこに使うプルトニウムが核兵器の材料になるためです。そのために、この問題を考える際に、同盟国であり、核兵器の拡散抑止を外交政策の中心に据える米国の動向を注視する必要があります。
GEPR編集部は、「海外の論調から「安全のためにいくつ核兵器が必要なのか」−米紙ワシントンポスト掲載コラム」を提供します。
米国は現在核兵器の見直しを検討していますが、そのコストと効果の分析をしっかり行っていないという疑問を投げかけた記事の紹介です。米国の政策にも、非合理な側面がかなりあるようです。
3)GEPRは投稿も受け付けています。ある企業のビジネスパーソンからの投稿を公開します。
「原子力規制委員会の活断層評価に思う — 行政訴訟による法的決着も視野に入れ、適正な判断をうながせ(一般投稿)」
同委員会が、日本原電敦賀原発、東北電力東通原発に活断層があると認定し、原発の先行き、そして両社の経営不安が起こっています。日本の電力供給体制が、少数の委員の議論を尽くさない早急な決定で、決められていいのかという疑問です。この問題についてGEPRは意見を募集しています。info@gepr.org まで。
4)国連の気候変動枠組み条約第18回締約国会議(COP18)が今年12月18日まで開催されました。国際環境経済研究所所長で、COPの交渉にも経産省の行政官としてかかわってきた澤昭裕氏のコラムを紹介します。「温暖化交渉:COP18を越えて、日本が取るべき交渉スタンスを考える」
今週のリンク
1)「浜岡原子力発電所の今、これから」。中部電力ホームページ。12月20日に公表された浜岡原発の追加安全対策について説明しています。
従来計画で海抜18メートルとしていた防潮堤の高さを4メートルかさ上げし、22メートルにすると発表しています。内閣府が今夏、南海トラフ巨大地震による浜岡原発付近の最大津波高を19メートルと予想したことを受けた措置です。
GEPR編集部では「政治に翻弄される浜岡原発」を8月に掲載しています。紹介した安全対策に加えて、さらに追加工事をすることになりました。
2)「How many nukes does it take to be safe?(安全のためにいくつ核兵器が必要なのか)」
米紙ワシントンポストの12月17日掲載の安全保障問題のコラムです。今回のGEPRではその要旨を公開しました。
3)「電力会社の主要株主およびPRI署名機関に向けた公開質問状
回答結果」
国際環境NGO「A SEED JAPAN」に今年6月に行った調査。今回のGEPRで取り上げました。原発についての見解を電力会社に聞いています。各社、各組織とも回答に消極的ですが、この動きが今後、金融市場から原発に影響を与えていく可能性があります。
4)「原子力規制委員会「東通原子力発電所敷地内破砕帯の調査に関する有識者会合」における第1回評価会合に対する当社コメントについて」。東北電力が稼動を目指す東通原発(青森県)について、構内に活断層があるとした原子力規制庁の意見で、「活動していない」と反論。その主張を続けるとしています。
5)日本エネルギー経済研究所「短期エネルギー需給見通し-13年度のエネルギー需給予測」
20日発表のリポート。原子力規制委員会が来年7月策定する新安全基準で再稼働が見込める原発が50基中9基にとどまる結果、同年度の貿易収支はマイナス6・3兆円と、3年連続の大幅赤字に陥るとの試算をまとめています。
火力発電用燃料の輸入額が高止まりするためで「原発再稼働に関する先行きの不透明さが日本経済復調の重しとなる」と指摘しています。
安全審査の進んだ9基が13年度下期に稼働すると想定。その結果、電力各社が輸入する原油や液化天然ガス(LNG)などの燃料費は24年度の7・3兆円(推定)から6・8兆円に0・5兆円ほど圧縮される見込みです。一方で、火力燃料費は、原発事故の影響が限定的だった11年度(3・7兆円)と比べて貿易収支を圧迫し、赤字幅は12年度が7・1兆円、13年度は6・3兆円と見込んでいます。
詳細を産経新聞が20日付で伝えています。「原発9基再稼働でも来年度は大幅貿易赤字 輸入燃料高止まりで、エネ研」。
6)「ドイツ:再生エネ普及で電気代高騰、戸惑う国民 野党批判、首相「想定外」と釈明」毎日新聞12月22日記事。再生可能エネルギーが水力も含めると、発電に占める割合が20%を越えたドイツで、電力料金が高騰。来年の選挙の争点になりつつあります。その解説記事です。
7)「原発・エネルギー政策―「変わった」自民を見せよ」
朝日新聞12月24日社説。原発ゼロを唱える同社の社説で、記事で提示された主張の中には問題があります。しかし、何も決められない現状が、福島と日本経済に悪影響を与えているという主張は同意します。新政権には、方向付けが期待されます。
関連記事
-
3月9日、大津地方裁判所は、福井県の高浜原発3・4号機の運転差し止めを求める仮処分決定を行なった。その決定には、これまでにない特徴がみられる。
-
実は、この事前承認条項は、旧日米原子力協定(1988年まで存続)にもあったものだ。そして、この条項のため、36年前の1977年夏、日米では「原子力戦争」と言われるほどの激しい外交交渉が行われたのである。
-
国際環境経済研究所(IEEI)版 衝撃的な離脱派の勝利 6月24日、英国のEU残留の是非を問う国民投票において、事前の予想を覆す「離脱」との結果が出た。これが英国自身のみならず、EU、世界に大きな衝撃を与え
-
3月12日、愛知県の渥美半島沖の海底で、「燃える氷」と呼ばれる「メタンハイドレート」からメタンガスを取り出すことに世界で初めて成功したことが報じられた。翌13日の朝日新聞の朝刊にも、待望の「国産燃料」に大きな期待が膨らんだとして、この国産エネルギー資源の開発技術の概要が紹介されていた。
-
ウクライナ戦争の帰趨は未だ予断を許さないが、世界がウクライナ戦争前の状態には戻らないという点は確実と思われる。中国、ロシア等の権威主義国家と欧米、日本等の自由民主主義国家の間の新冷戦ともいうべき状態が現出しつつあり、国際
-
評価の分かれるエネルギー基本計画素案 5月16日の総合資源エネルギー調査会でエネルギー基本計画の素案が了承された。2030年の電源構成は原発20-22%、再生可能エネルギー22-24%と従来の目標が維持された。安全性の確
-
菅首相の所信表明演説を受けて、政府の温暖化対策見直しの作業が本格化すると予想される。いま政府の方針は「石炭火力発電を縮小」する一方で「洋上風力発電を拡大」する、としている。他方で「原子力の再稼働」の話は相変わらずよく見え
動画
アクセスランキング
- 24時間
- 週間
- 月間














