「1ミリシーベルトの神話」が風評被害を生む
きのう「福島県沖の魚介類の放射性セシウム濃度が2年連続で基準値超えゼロだった」という福島県の発表があった。これ自体はローカルニュースにしかならなかったのだが、驚いたのはYahoo!ニュースのコメント欄だ。1000以上のコメントがつき、その上位は「信用できない」というコメントで埋め尽くされ、しかも2000以上の「いいね」がついている。
最上位のコメントは「セシウムだけ調べても意味がないし、100ベクレルの基準もおかしい。原発事故前の厳しい基準で判断すべき」などと書いているが、これは誤りである。セシウムだけ調べているのは、食品中の残存量が最大で測定が容易だからで、セシウムが基準値以上検出されない魚から他の放射性物質が検出されることはありえない。
100ベクレル/kgの基準は2012年6月に民主党政権が決めたもので、当初の暫定規制値500ベクレルから5倍きびしくなった。「原発事故前の厳しい基準」というのも誤りで、事故前には食品中の放射性物質の基準は存在しなかった。こんな単純な事実誤認はマスコミではもう出てこないが、ネットでこういう匿名アカウントに多くの支持がいまだに集まる状況は考えさせられる。
100ベクレル/kgという基準値は、科学的にも法的にも根拠のない年間1ミリシーベルトの被曝量から計算した値だが、これは自然放射線の範囲である。図のように干し昆布は2000ベクレル/kgの放射性物質を含んでおり、福島県の基準を適用すると全国で販売禁止しなければならない。
民主党政権がドタバタで決めた1ミリシーベルト基準が今も風評被害を生み、福島の人々を苦しめている。政権が盤石になった安倍政権は、来年は勇気をもってこの問題に取り組んでほしい。

関連記事
-
ドイツ東部の都市、ライプツィヒに引っ越して、すでに4年半が過ぎた。それまで38年間も暮らしたシュトゥットガルトは典型的な西ドイツの都市で、戦後、メルセデスやポルシェなど自動車産業のおかげで急速に発展し、裕福になった。 一
-
スマートグリッドと呼ばれる、情報通信技術と結びついた新しい発送電網の構想が注目されています。東日本大震災と、それに伴う電力不足の中で、需要に応じた送電を、このシステムによって実施しようとしているのです。
-
英国ではボリス・ジョンソン保守党政権が脱炭素(ネット・ゼロ)政策を進めている。だが、家庭用のガス使用禁止やガソリン自動車の禁止等の具体的な政策が明らかになるにつれ、その莫大な経済負担を巡って、与党内からも異論が噴出してい
-
米ニューヨーク・タイムズ、および独ARD(公営第1テレビ)などで、3月7日、ノルドストリームの破壊は親ウクライナ派の犯行であると示唆する報道があった。ロシアとドイツを直結するバルト海のガスパイプラインは、「ノルドストリー
-
政府は、7月から9月までの3カ月間という長期にわたり、企業や家庭に大幅な節電を求める電力需要対策を決定しました。大飯原子力発電所3、4号機の再稼働が認められないがゆえに過酷な状況に追い込まれる関西電力では、2010年夏のピーク時に比べて15%もの節電を強いられることになります。電力使用制限令の発令は回避されたものの、関西地域の企業活動や市民生活、消費に大きなマイナス要因です。ただでさえ弱っている関西経済をさらに痛めつけることになりかねません。
-
コロナ後の経済回復を受けて米国で石炭ブームになっている。米国エネルギー省の見通しによると、今年の石炭生産量は6億1700万トンに上り、1990年以降最大になる見通しである(p47 table 6)。 更に、アジアでの旺盛
-
エネルギー政策について、原発事故以来、「原発を続ける、やめる」という単純な話が、政治家、民間の議論で語られる。しかし発電の一手段である原発の是非は、膨大にあるエネルギーの論点の一つにすぎない。
-
名古屋大学環境学研究科・教授 中塚 武 現在放送中のNHK大河ドラマ『鎌倉殿の13人』でも詳しく描かれた「石橋山から壇ノ浦までの5年間に及ぶ源平合戦の顛末」は、幕末と戦国に偏りがちなNHKの大河ドラマの中でも何度も取り上
動画
アクセスランキング
- 24時間
- 週間
- 月間