PV expoから見るポストFITサービス

2019年03月12日 19:00
アバター画像
エネルギーコンサルタント

2/27から3/1にかけて東京ビッグサイトにおいて太陽光発電の展示会であるPV expoが開催された。

ここ2年のPVexpoはFIT価格の下落や、太陽光発電市場の縮小を受けてやや停滞気味だったが、今年は一転「ポストFIT」を見据えてこれまでにないアプローチの展示が増え、苦境の中でも新しい市場を切り開いていこうという業界の強い意志が見られて大変見所が多かった。

このコラムでは何度か「ポストFIT」の住宅太陽光発電事業の経済性について議論してきたところであるが、今回は視点をより将来に移して、PV expoの中で当方が独断と偏見で選んだ「時代を先取りしたサービス」を紹介することにしたい。なお予め言っておくが本記事は広告記事ではない。

本題に入るが、今回紹介するのは、東京電力パワーグリッド(以下「東京電力PG」)とインフォマティクス社が共同して進めている「うちワケ」という卒FIT太陽光発電システムを抱える住宅向けの宅内IoTサービスだ。

上の写真は東京電力PGがPvexpoで掲げていたパネルだが(画像はPv expoでの同社の頒布資料を画像化した)、この「うちワケ」というサービスの特徴は、目的の明確さと、機器構成のシンプルさにある。

目的に関しては「家庭での電力の販売―使用状況を、負荷レベルまで落としこんで明らかにする」ということに特化しており、機器構成は分電盤に「インフォマティクス社の電力センサーを取り付けるのみ」である*。施工・設定も20分程度で済むとのことだ。(*マンションの高圧一括受電の場合はPLCでの通信アダプタも必要になる)

この電力センサーは4チャンネルの入力口が用意されており、このうち2chで家庭内の電力使用状況を解析するための基礎情報を取得し、残りの2chは太陽光発電や蓄電池などの外部電源と接続することが想定されている。こうして取得された家庭での電力の使用情報は、東電PGとインフォマティクス社の合弁会社であるエナジーゲートウェイ社が提供するIoTプラットフォームのAI基盤により解析され、個別の家電・負荷レベルにまで使用情報が分解される。もちろん解析結果は、以下のようなシンプルな画面でスマホやタブレットで確認可能だ。

(Pv expoにおいて筆写撮影)

(Pv expoにおいて筆者撮影)

留意点を言えば、負荷別の電力使用情報は直接個別の家電から電力消費情報を取得しているわけではなく、あくまで一定のアルゴリズムによって推測がなされるにすぎないので、正確なものではなく担当者によれば「だいたい80%くらいの正確性」に留まるという点であろう。ただそれでも家の電力消費パターンの傾向を掴むには十分であろうし、また今後性能が向上する中で改善していくことも見込まれる。

この「うちワケ」を利用した今後のビジネス展開の方向について聞いてみたところ、担当者は「こうした電力使用情報提供サービス自体でユーザーからサービス料を取るというよりも、このプラットフォームで取得できる情報を活用し、他業種と連携したサービスを作り出すことを主眼に置いている」と話していた。

(“うちワケ”パンフレットより筆者作成)

(“うちワケ”パンフレットより筆者作成)

これはあながち絵空事というわけではなく、実証実験の段階ですでに「電力消費情報を見ていたら、家に誰もいないはずの時間帯でテレビが使われていて、子供が学校をサボっていることが判明した」「家電の消費パターンを変えることで太陽光発電の自家利用を増やした」というような声が上がってきているそうだ。こうした利用方法は、現在ユーザーの自助努力で行われているわけだが、他のサビース業種と本格的に連携すれば、見守り、エネルギーマネジメント、故障検知、など様々な可能性が生まれていくことになるだろう。

余談ではあるが、東日本大震災以来暗いニュースが多かったであろう東京電力PGにおいてこのような新しい動きが起きていることを知り、改めて社会全体として次世代のエネルギー産業を作り出す時期に来ているのだな、と強く感じ大変感慨深かった。随所で指摘されていることだが2019年は「次世代エネルギー産業元年」になるのかもしれない。

This page as PDF

関連記事

  • 最新鋭の「第3世代原子炉」が、中国で相次いで世界初の送電に成功した。中国核工業集団(CNNC)は、浙江省三門原発で稼働した米ウェスチングハウス(WH)社のAP1000(125万kW)が送電網に接続したと発表した。他方、広
  • 原発事故から3年半以上がたった今、福島には現在、不思議な「定常状態」が生じています。「もう全く気にしない、っていう方と、今さら『怖い』『わからない』と言い出せない、という方に2分されている印象ですね」。福島市の除染情報プラザで住民への情報発信に尽力されるスタッフからお聞きした話です。
  • 世界の太陽光発電事業は年率20%で急速に成長しており、2026年までに22兆円の価値があると予測されている。 太陽光発電にはさまざまな方式があるが、いま最も安価で大量に普及しているのは「多結晶シリコン方式」である。この太
  • エネルギー戦略研究会会長、EEE会議代表 金子 熊夫 GEPRフェロー 元東京大学特任教授  諸葛 宗男 周知の通り米国は世界最大の核兵器保有国です。640兆円もの予算を使って6500発もの核兵器を持っていると言われてい
  • はじめに 原発は高くなったと誤解している人が多い。これまで数千億円と言われていた原発の建設費が3兆円に跳ね上がったからである。 日本では福島事故の再防止対策が膨らみ、新規制基準には特重施設といわれるテロ対策まで設置するよ
  • 1. メガソーラーの実態 政府が推進する「再生可能エネルギーの主力電源化」政策に呼応し、全国各地で大規模な太陽光発電所(メガソーラー)事業が展開されている。 しかし、自然の中に敷き詰められた太陽光パネルの枚数や占有面積が
  • 東日本大震災とそれに伴う津波、そして福島原発事故を経験したこの国で、ゼロベースのエネルギー政策の見直しが始まった。日本が置かれたエネルギーをめぐる状況を踏まえ、これまでのエネルギー政策の長所や課題を正確に把握した上で、必要な見直しが大胆に行われることを期待する。
  • 大阪市の松井市長が「福島の原発処理水を大阪に運んで流してもいい」と提案した。首長がこういう提案するのはいいが、福島第一原発にあるトリチウム(と結合した水)は57ミリリットル。それを海に流すために100万トンの水を大阪湾ま

アクセスランキング

  • 24時間
  • 週間
  • 月間

過去の記事

ページの先頭に戻る↑