小泉進次郎氏は原発処理水の問題を打開できる
大阪市の松井市長が「福島の原発処理水を大阪に運んで流してもいい」と提案した。首長がこういう提案するのはいいが、福島第一原発にあるトリチウム(と結合した水)は57ミリリットル。それを海に流すために100万トンの水を大阪湾までタンカーで運ぶのは、膨大な無駄である。
国や自治体がカネを出す気なら、もっと効果的な方法がある。今や障害は福島県漁連しか残っていない。彼らは福島第一原発の沖では操業していないが、今も「風評被害」を理由にして海洋放出に反対している。
彼らが(暗に)求めているのは漁業補償の上積みだが、それを誰も言い出せない。東電はすでに休業補償を出したので、2度カネを出すことができない。だから漁業補償とは違う形で、カネを出すしくみを作ればいいのだ。
簡単なのは、大阪市が福島の魚を買い上げることだ。言論アリーナで澤田さんがいっていたが、今でも福島沖で操業することは禁止されていないので、魚をとっている船(漁協の組合員)がある。8年間も魚をとっていないので、漁業資源は非常に豊かだという。
魚の放射性物質を計測しても、検出できない。原発近海の濃度は1kgで10ベクレル以下と飲料水の水質基準を満たしており、トリチウムは生物濃縮されないからだ。そういう船のとった魚を大阪市が買い上げ、大阪で売ればいい。
これに小泉進次郎氏も協力できる。彼が復興政務官時代、福島のリンゴを食べたように、福島第一原発の沖でとれた魚を食べて「福島の魚は安全だ」とPRして風評被害を払拭すれば、県漁連が反対する理由もなくなる。

ANNニュースより:編集部
漁協にとって一番いいのは、漁ができるようになることだ。これを行政が買い上げて(農産物のように)品質保証すればいいのだ。風評被害が消えれば、処理水を流すことができるようになる。
処理水問題が混乱する最大の原因は、誰が水を流すと決めるのかという責任の所在がわからないことだ。これは形式的には東電だが、実質的には国である。ところがその国の中でも、どこの役所が責任をもつのかがわからない。
原子力規制委員会も経済産業省も「薄めて流すしかない」という結論は一致しているが、「決めるのは東電で役所はアドバイスするだけだ」という。この無責任体制では、いつまでたっても決着がつかない。
風評は科学の問題ではないので、論理的に説得するより小泉氏のようなヒーローが「処理水を流しても福島の魚は安全だ」とPRするほうが効果的だ。これに大阪市や全国のボランティアが協力して、福島の魚を食べるキャンペーンをやってはどうだろうか。

関連記事
-
エネルギーのバーチャルシンクタンク「GEPR」(グローバルエナジー・ポリシーリサーチ)を運営するアゴラ研究所は、インターネット放送「言論アリーナ」という番組を公開している。8月27日は午後8時から1時間にわたって、『原発は「トイレなきマンション」か? — 核廃棄物を考える』を放送した。
-
はじめに 欧州の原子力発電政策は国ごとにまちまちである。昔は原子力発電に消極的だったスウェーデンが原子力発電を推進する政策を打ち出しているのもおどろきだが、ドイツの脱原発政策も異色である。 原子力発電政策が対照的なこの2
-
著名なエネルギーアナリストで、電力システム改革専門委員会の委員である伊藤敏憲氏の論考です。電力自由化をめぐる議論が広がっています。その中で、ほとんど語られていないのが、電力会社に対する金融のかかわりです。これまで国の保証の下で金融の支援がうながされ、原子力、電力の設備建設が行われてきました。ところが、その優遇措置の行方が電力自由化の議論で、曖昧になっています。
-
世界的なエネルギー危機を受けて、これまでCO2排出が多いとして攻撃されてきた石炭の復活が起きている。 ここ数日だけでも、続々とニュースが入ってくる。 インドは、2030年末までに石炭火力発電設備を約4分の1拡大する計画だ
-
筆者は数年前から「炭素クレジット・カーボンオフセットは本質的にグリーンウォッシュ」と主張してきました。具体的な問題点についてはこちらの動画で整理していますのでぜひご覧ください。 さて、ここ半年ほどESGコンサルや金融機関
-
米国の「進歩的」団体が、バイデン政権と米国議会に対して、気候変動に中国と協力して対処するために、米国は敵対的な行動を控えるべきだ、と求める公開書簡を発表した。 これは、対中で強硬姿勢をとるべきか、それとも気候変動問題を優
-
北海道はこれから冬を迎えるが、地震で壊れた苫東厚真発電所の全面復旧は10月末になる見通しだ。この冬は老朽火力も総動員しなければならないが、大きな火力が落ちると、また大停電するおそれがある。根本的な問題は泊原発(207万k
-
以前、米国のメディアは分断されており、共和党寄りのFox News等と、民主党系のCNN、MSNBC、ABC、CBS、およびNBC等に分かれていて、有権者はそれぞれ自分の属する党派のニュースが正しいと信じる傾向にあること
動画
アクセスランキング
- 24時間
- 週間
- 月間