ペロブスカイトの可能性と課題:「石油危機だから再エネを」論を問い直す
筆者は先日、エネルギー安全保障における石油の「原料としての側面」を論じた。
脱炭素は何を見落としているのか:ホルムズ危機が示す化石燃料の価値
今回のホルムズ海峡の事実上の封鎖を受け、再エネ推進を主張する論調が一部メディアや投資家の間で散見される。その流れの中で、ペロブスカイト太陽電池への関心が語られることもある。この論調には一定の合理性がある一方で、化学工学の視点から見過ごせない盲点も存在する。本稿では両面を率直に検討したい。

Iaremenko/iStock
なぜ今、ペロブスカイトが注目されるのか
今回の中東危機が浮き彫りにした最大の問題は、日本の原油輸入の9割以上が中東に依存しているという構造的脆弱性である。
そしてもう一つ、あまり語られないが重要な問題がある。従来の太陽光パネルの大半が中国製であり、その一部は新疆ウイグルにおける強制労働との関連が指摘されている原材料(ポリシリコン等)を含む可能性が否定できない。
この点において、ペロブスカイト太陽電池には明確な優位性がある。主原料のヨウ素は日本が世界シェアの約3割を占め、国産調達が可能である。フィルム型の軽量・フレキシブルという特性は、従来のシリコン系では設置できなかった建物壁面や耐荷重の低い屋根への展開を可能にする。
政府が「国産エネルギー源」として経済安全保障と人権問題の両面から推進する根拠は、それなりに理解できる。
「ナフサ」を原料とする製品でもある
問題はここからである。ペロブスカイト太陽電池は、それ自体が石油化学製品の複合体でもある。フィルム基材(ポリイミド等)、封止材、接着層、配線被覆——これらはいずれもエチレン・プロピレンを経由したナフサ由来の素材である。
今この瞬間、日本の石化産業は「ナフサショック」の渦中にある。国内12基のエチレン設備のうち6基が減産体制に入り、国内大手石化メーカー各社が相次いで操業を絞っている。
「石油が入ってこないから太陽電池を増産しよう」という掛け声は、原料が逼迫しているまさにその素材を大量に使う製品の増産を求めることを意味する。
加えて、先行する国内メーカーが目指す2027年度の生産能力は100MW規模である。日本の電力需要は約1億kW規模であり、桁が2つ以上異なる。今この供給危機を補う規模には遠く及ばない。
技術的な課題は?
ペロブスカイト太陽電池の課題のうち、一定の解決が進んだ領域としては、まず変換効率が挙げられる。
単セルでシリコン並み、タンデムではそれを上回る水準に到達し、性能面の優位性はほぼ確立された。また、封止技術や界面制御の進展により、耐久性も実験室レベルでは大きく改善している。さらに、印刷プロセスの高度化により、大面積化や量産への道筋も見え始めている。
一方で、今後も継続的に取り組むべき本質的課題が残っている。最大の課題は長期耐久性であり、屋外環境で20年以上安定稼働する信頼性は未確立。加えて、鉛を含む材料構造は環境規制や社会受容の面で不確実性を抱えており、鉛フリー化は依然として技術的ハードルが高い状況にある。さらに、イオン移動や材料劣化といった物性レベルの問題も完全には解決されておらず、量産時の歩留まりや品質安定性にも影響する。
したがって本技術は、性能面では成熟しつつある一方、信頼性と社会実装の段階ではなお慎重な検証が必要な段階にあり、今後の技術開発の成果が待たれる。
二つの問いを読者に
整理すると、ペロブスカイト太陽電池を巡る議論には、本質的に異なる二つの問いが混在している。
一つは「中長期的なエネルギー安全保障と人権問題の回避」という観点である。ここでペロブスカイトは、国産原料・国内製造・ウイグル問題からの脱却という観点で、真剣に推進を検討すべき技術選択肢である。
もう一つは「今この石油危機への対応」という観点である。ここでペロブスカイトは、規模・原料依存・製造時間のいずれを見ても、現在の供給途絶の解決策にはならない。
市場や一部メディアがこの二つを混同しているとすれば、政策判断と投資判断の双方が歪む可能性がある。読者はこの二つの問いを分けて考えることが、現在の情報環境では特に重要ではないだろうか。
なお、中長期の技術選択肢としても、太陽光という電源が持つ間欠性という本質的な制約は変わらない。ペロブスカイトがどれほど普及しても、夜間・曇天・雨天には発電できず、バックアップ電源(LNG火力など)が不可欠である。この問題はシリコン系と全く同じであり、ペロブスカイトによって解決されるわけではない。エネルギー安全保障を真剣に議論するならば、この点も忘れてはならないだろう。
いずれにせよ、エネルギーとしてだけでなく原材料の源としての化石燃料の重要性は、ペロブスカイトの普及によっても失われるものではない。
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