地球の平均気温が上がると世界の死者は減る
権威ある医学誌The Lancet Planetary Healthに、気候変動による死亡率の調査結果が出た。大規模な国際研究チームが世界各地で2000~2019年の地球の平均気温と超過死亡の関連を調査した結果は、次の通りである。
- 「最適でない気温」によって、全世界で毎年508万人の超過死亡が出た。
- このうち寒さによる死者は459万人で、全死者の9.43%にあたる。
- 暑さによる死者は49万人で、0.91%である。
- 20年間に寒さによる超過死亡率は0.51%減り、暑さによる超過死亡率は0.21%増えた。
- 合計すると、気候変動で世界の超過死亡率は0.3%減った。
この20年の気候変動で、世界の死者は毎年15万人以上減った。この調子で今後も気温が上がると、温暖化で死者が増える以上に寒冷化で死者が減り、全死者は減るだろう。この論文はこう結論している。
世界の平均気温は10年ごとに0.26°C上昇し、寒さによる死者は大幅に減ったが、暑さによる死者はやや増えた。この結果は、地球温暖化が正味の気温に関連する死者をわずかに減少させる可能性があることを示している。
ただ地域的な片寄りが大きい。寒さによる死亡率が世界でもっとも高いのは、サブサハラのアフリカである。これは意外だが、アフリカでも冬は寒いので、気温を保つ住宅がないと死ぬのだ。東欧では、暑さで超過死亡率が世界平均の5倍以上である。
この20年の変化をみると、図のように寒さによる超過死亡率(青い部分)は、世界のほとんどの地域で減った。減少率が最大だったのは、東南アジアとオセアニアである。暑さによる超過死亡率(赤い部分)はほとんどの地域で増えたが、オセアニアと東欧で増加率が大きかった。

世界各地の10年間の超過死亡率の変化(%)
地球の平均気温はまだ「最適気温」より低い
今後については、この研究は「長期的には死亡負担が増えると予想される」と書いているが、「死亡負担」とは何のことか説明がない。過去20年で気温が0.5℃上がって死亡率が0.3%下がったのだから、今後しばらくは温暖化で死亡率は下がると予想される。
今回の調査には温暖化で起こる洪水などの災害による死者は含まれていないが、これも雪や氷河の災害が減るメリットとどっちが大きいかはわからない。今後、温暖化の死亡率が相対的に増えるとしても、それが寒冷化の死亡率を上回る日が、近い将来に来るとは考えられない。
気候変動で騒ぐ人々は、暗黙のうちに現在の気温が最適だと想定しているが、地球の平均気温が上がって死者が減るのは、地球の平均気温はまだ最適気温より低いことを示している。
最適気温はこの超過死亡率が下げ止まる気温だが、寒さによる死亡率は暑さの9倍。これが逆転するには、あと3℃以上の気温上昇が必要だろう。巨額のコストをかけて温暖化を止めるのは、無益というより有害なのだ。

関連記事
-
ポルトガルで今月7日午前6時45分から11日午後5時45分までの4日半の間、ソーラー、風力、水力、バイオマスを合わせた再生可能エネルギーによる発電比率が全電力消費量の100%を達成した。
-
スワッ!事故か!? 昨日1月30日午後、関西電力の高浜原子力発電所4号機で原子炉が自動停止したと報道された。 関西電力 高浜原発4号機が自動停止 原因を調査 「原子炉内の核分裂の状態を示す中性子の量が急激に減少したという
-
北海道寿都町が高レベル放射性廃棄物最終処分場選定の文献調査に応募したことを巡って、北海道の鈴木知事が4日、梶山経済産業大臣と会談し、「文献調査」は『高レベル放射性廃棄物は受け入れがたい』とする道の条例の制定の趣旨に反する
-
米ホワイトハウスは、中国などCO2規制の緩い国からの輸入品に事実上の関税を課す「国境炭素税」について、支持を見合わせている(ロイター英文記事、同抄訳記事)。(国境炭素税について詳しくは手塚氏記事を参照) バイデン大統領は
-
混迷と悪あがき ロシアのウクライナ侵攻後、ドイツの過去10年に亘るエネルギー政策「エネルギーヴェンデ(大転換)」が大失敗したことが明々自白になった。大転換の柱は、脱原発と脱石炭(褐炭)である。原発と褐炭を代替するはずだっ
-
地球温暖化に関する報道を見ていると、間違い、嘘、誇張がたいへんによく目につく。そしてその殆どは、簡単に入手できるデータで明瞭に否定できる。 例えば、シロクマは地球温暖化で絶滅する、と言われてきたが、じつは増えている。過去
-
1. 太陽光発電・風力発電の導入拡大には系統用の蓄電池が必要 アメリカのGWPF(地球温暖化政策財団)アメリカン・フレンズの会長である、フランシス・マントン氏が「エネルギー貯蔵の難問」および「エネルギー貯蔵の大失敗-いつ
-
トランプ政権のエネルギー温暖化対策やパリ協定への対応に関し、本欄で何度か取り上げてきたが[注1]、本稿では今年に入ってからのトランプ政権の幹部人事の影響について考えて見たい。 昨年半ば、米国がパリ協定に残留するか否かが大
動画
アクセスランキング
- 24時間
- 週間
- 月間