IPCC報告の論点⑬:モデルはアフリカの旱魃を再現できない

2021年09月25日 07:00
アバター画像
キヤノングローバル戦略研究所研究主幹

IPCCの報告がこの8月に出た。これは第1部会報告と呼ばれるもので、地球温暖化の科学的知見についてまとめたものだ。何度かに分けて、気になった論点をまとめてゆこう。

cinoby/iStock

アフリカのサヘル地域では1980年代に旱魃が起きて大きな被害が出た。では、地球温暖化の影響予測に使われる気候モデルは、これを再現できているだろうか。

ここで言うサヘル地域とは、下図(IPCC報告のFigure 10.11)の(b)で四角い枠に囲まれた地域である。1950年代に比べると雨量が20%から30%も減ったという。

雨量の推移は(a)にあるように、1950年代には多く、1980年代は少なかった。縦軸はmm/dayだから1日あたりミリメートル。1955年から1984年の平均のゼロとしてそこからの差分を示してある。1980年代は最大で -1 mm/day程度まで下がっているから、年間300ミリぐらいのマイナスになっていた訳だ。

それでは気候モデルはこれを再現できただろうか。下記(d)に、今回のIPCC報告がフル活用している第6世代気候モデルの計算結果が示してある。赤とピンクがその結果で、1950年以降の減少傾向と、1980年以降の増加傾向は、大雑把には捉えることが出来ている。これがCO2等の温室効果(青)とエアロゾルの効果(灰色)の和で起きた、とされている。

ところが、(a)と(d)を見比べると、縦軸のスケールが全然違う。(a)は最大で1.0であるところ、(d)は0.3になっている。つまりモデルは観測値よりもかなり小さな雨量の変動しか示していない。

そこでモデルと観測値を比較したのが(e)である。左側が1984年までの雨量減少期間、右側が1985年以降の雨量増大期間。一番上の××とあるのが観測値で(黄色ハイライトは著者による)、それ以外は全てモデル計算結果である。横軸は雨量の変化傾向を10年当たり何%かで示している。

左側の減少期を見ると、観測値は10年あたり15%もの急激な雨量減少を示しているのに対して、モデル計算はほぼゼロ%の周りに分布していて、観測値とは大きく外れている。右側の増大期には、観測値は10年当たり10%程度の急激な増大を示しているのに、モデル計算の大半はもっと緩やかな増大にしかなっていない。

ということは、旱魃をもたらした主な要因はCO2等ではなく、何かモデルで捉え切れていない自然変動の効果が大きかったのかもしれない。このことはIPCC報告でもあれこれ議論されている。

「地球温暖化によって旱魃が酷くなる」という予測がよく報道される。けれどもその予測を信じる前に、そこで使われているモデルは、そもそも過去をどの程度再現できているのか、注意深い検証が必要だ。

1つの報告書が出たということは、議論の終わりではなく、始まりに過ぎない。次回以降も、あれこれ論点を取り上げてゆこう。

次回:「IPCC報告の論点⑭」に続く

【関連記事】
IPCC報告の論点①:不吉な被害予測はゴミ箱行きに
IPCC報告の論点②:太陽活動の変化は無視できない
IPCC報告の論点③:熱すぎるモデル予測はゴミ箱行きに
IPCC報告の論点④:海はモデル計算以上にCO2を吸収する
IPCC報告の論点⑤:山火事で昔は寒かったのではないか
IPCC報告の論点⑥:温暖化で大雨は激甚化していない
IPCC報告の論点⑦:大雨は過去の再現も出来ていない
IPCC報告の論点⑧:大雨の増減は場所によりけり
IPCC報告の論点⑨:公害対策で日射が増えて雨も増えた
IPCC報告の論点⑩:猛暑増大以上に酷寒減少という朗報
IPCC報告の論点⑪:モデルは北極も南極も熱すぎる
IPCC報告の論点⑫:モデルは大気の気温が熱すぎる
IPCC報告の論点⑬:モデルはアフリカの旱魃を再現できない
IPCC報告の論点⑭:モデルはエルニーニョが長すぎる
IPCC報告の論点⑮:100年規模の気候変動を再現できない
IPCC報告の論点⑯:京都の桜が早く咲く理由は何か
IPCC報告の論点⑰:脱炭素で海面上昇はあまり減らない
IPCC報告の論点⑱:気温は本当に上がるのだろうか
IPCC報告の論点⑲:僅かに気温が上がって問題があるか?
IPCC報告の論点⑳:人類は滅びず温暖化で寿命が伸びた
IPCC報告の論点㉑:書きぶりは怖ろしげだが実態は違う
IPCC報告の論点㉒:ハリケーンが温暖化で激甚化はウソ
IPCC報告の論点㉓: ホッケースティックはやはり嘘だ
IPCC報告の論点㉔:地域の気候は大きく変化してきた
IPCC報告の論点㉕:日本の気候は大きく変化してきた

クリックするとリンクに飛びます。

「脱炭素」は嘘だらけ

This page as PDF
アバター画像
キヤノングローバル戦略研究所研究主幹

関連記事

  • 「ブラックアウト・ニュース」はドイツの匿名の技術者たちがドイツの脱炭素政策である「エネルギーヴェンデ(転換)」を経済自滅的であるとして批判しているニュースレター(ドイツ語、一部英語、無料)だ。 そのブラックアウト・ニュー
  • 福島第一原発の事故は我国だけでなく世界を震撼させた。電力会社に在籍したものとして、この事故の意味を重く受け止めている。
  • IPCCの報告がこの8月に出た。これは第1部会報告と呼ばれるもので、地球温暖化の科学的知見についてまとめたものだ。何度かに分けて、気になった論点をまとめてゆこう。 前回、論点㉔で、地域ごとに見ると気温は大きく変動してきた
  • 電力自由化は、送電・配電のネットワークを共通インフラとして第三者に開放し、発電・小売部門への新規参入を促す、という形態が一般的な進め方だ。電気の発電・小売事業を行うには、送配電ネットワークの利用が不可欠であるので、規制者は、送配電ネットワークを保有する事業者に「全ての事業者に同条件で送配電ネットワーク利用を可能とすること」を義務付けるとともに、これが貫徹するよう規制を運用することとなる。これがいわゆる発送電分離である。一口に発送電分離と言ってもいくつかの形態があるが、経産省の電力システム改革専門委員会では、以下の4類型に大別している。
  • 国内の原発54基のうち、唯一稼働している北海道電力泊原発3号機が5月5日深夜に発電を停止し、日本は42年ぶりに稼動原発ゼロの状態になりました。これは原発の再稼動が困難になっているためです。
  • 温暖化問題について冷静な議論を促すGlobal Warming Policy Foundation のウェブサイトに興味深いクイズが掲載された。地球温暖化をテーマに以下の12の三択問題が掲げられており、大変面白いので、温
  • 「法則」志向の重要性 今回は、「ドーナツ経済」に触れながら、社会科学の一翼を占める経済学の性格について、ラワースのいう「法則の発展を目的としない」には異論があるという立場でコメントしよう。すなわち「法則科学か設計科学か」
  • 台湾が5月15日から日本からの食品輸入規制を強化した。これに対して日本政府が抗議を申し入れた。しかし、今回の日本は、対応を間違えている。台湾に抗議することでなく、国内の食品基準を見直し、食品への信頼感を取り戻す事である。そのことで、国内の風評被害も減ることと思う。

アクセスランキング

  • 24時間
  • 週間
  • 月間

過去の記事

ページの先頭に戻る↑