IPCC報告の論点⑲:僅かに気温が上がって問題があるか?
IPCCの報告がこの8月に出た。これは第1部会報告と呼ばれるもので、地球温暖化の科学的知見についてまとめたものだ。何度かに分けて、気になった論点をまとめてゆこう。

towfiqu ahamed/iStock
正直言ってこれまでの報告とあまり変わり映えのしない今回のIPCC報告だが、下記の表(Table SPM.1)は初見参だった。
これを見ると、今後、排出量がどうなろうとも、2021年から2040年の間に1.5℃になる。
1.5℃が世界の終わりだと信じている人にはショックであろう。
しかし前回の図1を見ると2020年にすでに1.26℃だった。
だが大雨も強くなっていないし(連載⑥)、台風も強くなっていない。地球温暖化による災害の激甚化など何も起きていない(拙著「地球温暖化のファクトフルネス」)。
あと僅か0.24℃上がって1.5℃になったらいきなり破局になるとは到底思えない。
では今世紀末はどうか。2081年から2100年の気温上昇は、表の最下段SSP5-8.5シナリオだと4.4℃となっている。だがこのシナリオの排出量は非現実的で多すぎることは以前の記事で述べた。ここでは図だけ再掲しておこう:
この図を見ると、2019年時点の政策を特段深堀しなくても、世界の排出量はSSP2-4.5(図中の赤い線)に概ね沿って推移すると複数の機関(米国エネルギー省EIA、国際エネルギー機関IEA、BP社、ExxonMobil社)が予測している。改めて表を見ると、ならば気温上昇は2.7℃となっている。
2020年に1.26℃だったところ、あと1.44℃高くなるということだ。
あと1.44℃という、これまでと同じ程度の気温上昇で、いきなり破局的な事が起きるとも思い難い。何しろ、これまで何も災害の激甚化など無かったのだから。
なお付言すると、表は気候モデルの計算に主に基づいた予測である。だが連載③及び連載⑫で述べた様に気候モデルはその大半が過去の大気(対流圏)の気温上昇を過大評価しているなど、課題が多い。この表の数字も気温上昇を過大に推計している可能性が高いと思われる。
■
1つの報告書が出たということは、議論の終わりではなく、始まりに過ぎない。次回以降も、あれこれ論点を取り上げてゆこう。
次回:「IPCC報告の論点⑳」に続く
【関連記事】
・IPCC報告の論点①:不吉な被害予測はゴミ箱行きに
・IPCC報告の論点②:太陽活動の変化は無視できない
・IPCC報告の論点③:熱すぎるモデル予測はゴミ箱行きに
・IPCC報告の論点④:海はモデル計算以上にCO2を吸収する
・IPCC報告の論点⑤:山火事で昔は寒かったのではないか
・IPCC報告の論点⑥:温暖化で大雨は激甚化していない
・IPCC報告の論点⑦:大雨は過去の再現も出来ていない
・IPCC報告の論点⑧:大雨の増減は場所によりけり
・IPCC報告の論点⑨:公害対策で日射が増えて雨も増えた
・IPCC報告の論点⑩:猛暑増大以上に酷寒減少という朗報
・IPCC報告の論点⑪:モデルは北極も南極も熱すぎる
・IPCC報告の論点⑫:モデルは大気の気温が熱すぎる
・IPCC報告の論点⑬:モデルはアフリカの旱魃を再現できない
・IPCC報告の論点⑭:モデルはエルニーニョが長すぎる
・IPCC報告の論点⑮:100年規模の気候変動を再現できない
・IPCC報告の論点⑯:京都の桜が早く咲く理由は何か
・IPCC報告の論点⑰:脱炭素で海面上昇はあまり減らない
・IPCC報告の論点⑱:気温は本当に上がるのだろうか
・IPCC報告の論点⑲:僅かに気温が上がって問題があるか?
・IPCC報告の論点⑳:人類は滅びず温暖化で寿命が伸びた
・IPCC報告の論点㉑:書きぶりは怖ろしげだが実態は違う
・IPCC報告の論点㉒:ハリケーンが温暖化で激甚化はウソ
・IPCC報告の論点㉓: ホッケースティックはやはり嘘だ
・IPCC報告の論点㉔:地域の気候は大きく変化してきた
・IPCC報告の論点㉕:日本の気候は大きく変化してきた
■

関連記事
-
先日、「今更ですが、CO2は地球温暖化の原因ですか?」という記事を寄稿した。 今回の記事では、その疑問に対して、物理化学の基礎知識を使ってさらに詳しく回答する※1)。 大気の温度は人類が放出する物質の温度で変化する 水に
-
けさの日経新聞の1面に「米、日本にプルトニウム削減要求 」という記事が出ている。内容は7月に期限が切れる日米原子力協定の「自動延長」に際して、アメリカが余剰プルトニウムを消費するよう求めてきたという話で、これ自体はニュー
-
先日アゴラで紹介されていた動画を見ました。12月19日の衆議院国会質疑で、質問者は参政党北野裕子議員。質疑の一部を抜粋します。 日本の脱炭素政策に疑問! 北野裕子議員が電気料金高騰を追及 北野議員:2030年46%削減、
-
これはもう戦争なのか 中華人民共和国政府は、東電福島第一原発から海に放流されたALPS処理水を汚染水と称し、日本産の生鮮海産物のみならず水産加工品の禁輸に踏み切った。それに加えて、24日の放流開始後から福島県や東北圏内の
-
岸田首相肝いりのGX実行会議(10月26日)で政府は「官民合わせて10年間で150兆円の投資でグリーン成長を目指す」とした。 政府は2009年の民主党政権の時からグリーン成長と言っていた。当時の目玉は太陽光発電の大量導入
-
先日、「ESG投資がインデックス投資よりもCO2を排出?」という記事を書きました。Investment Metrics社のレポートで「欧州の気候変動ファンドがMSCIワールド・インデックスよりも炭素排出量への影響が大きい
-
日本が議長を務めたG7サミットでの重点事項の一つは気候変動問題であった。 サミット首脳声明では、 「遅くとも2025年までに世界の温室効果ガス排出量(GHG)をできるだけ早くピークにし、遅くとも2050年までにネット・ゼ
-
昨年3月11日以降、福島第一原子力発電所の事故を受け、「リスクコミュニケーション」という言葉を耳にする機会が増えた。
動画
アクセスランキング
- 24時間
- 週間
- 月間