低線量における放射線作用の生物学的メカニズム — 国連科学委員会の将来の事業計画の指針白書(要旨和訳)
(GEPR編集部より)国連科学委員会の中の一部局、原子放射線の影響に関する国連科学委員会は、昨年12月に報告書をまとめ、国連総会で了承された。その報告書の要約要旨を翻訳して掲載する。迂遠な表現であるが、要旨は国連の報告書間で整合性が取れていないこと、また低線量被曝についてのコンセンサスがないことを強調している。
この問題に関して、GEPRは要旨を読み込んだ米国のWNNニュースの翻訳要旨『国連、福島の放射能の人体被害を確認せず-海外の論調から』を掲載している。また日本経済新聞の米経済誌フォーブスからの転載である『放射能と発がん、日本が知るべき国連の結論』にリンクしている。ただし国連は、低線量被曝の健康被害は確認されていないことを述べたのみで、LNT仮説(しきい値なし仮説)を否定するなどの強い主張はしていない。LNT仮説は放射線防護に使われる仮説で、低線量被曝でも放射線による健康被害が起こり得る事を前提にする仮説。LNT仮説は放射線防護に使われる仮説で、説明はGEPR論文『放射線の健康影響 ― 重要な論文のリサーチ』を参照。
(以下要約)
第59回会議(2012年5月21日〜25日開催)において、UNSCEAR(原子放射線の影響に関する国連科学委員会、以下委員会)は、低線量における放射線作用の生物学的メカニズムに関する報告書について検討した。その報告書は、委員会の通常の完全な評価とは異なり、包括的になるように意図されておらず、どちらかというと、この分野での主要な進歩に重点を置き、委員会の将来の事業計画を開発するための指針を提供するように意図された。この報告書は広く関心を寄せられるものであろうため、委員会は事務局に公用文書としてそのウェブサイト上に掲載する方法を調査するよう要請した。
この報告書は、いわゆる非標的および遅発効果といわれるメカニズムについての理解は進んでおり、また高および低線量被曝による遺伝子とたんぱく質の発現量の応答差の証拠もあるが、これまでの報告書間には一貫性や統一がかけている、という結論が示されている。今のところこのような現象と放射線関連疾患の因果関係を示す兆候)はない。放射線を浴びる事による免疫応答と炎症反応などを伴う疾病とは、より明瞭な関連がある。
しかし、それらの生理学上のプロセスについて、放射線被曝の影響、特に低線量についてのコンセンサスがない。この報告書は発がんに関連するメカニズムに注目する一方、検討されたプロセスのいくつかは組織反応についても検証している。またいくつかの分野での進歩も紹介している。低線量および長期間に渡って放射線にさえあされた場合に、疾病の潜在的リスクの評価に役立つ可能性がある。
また委員会は以下の結論に達した。
(a) ヒトの疾病に寄与する可能性のある低線量の放射線作用の機構的理解についての研究促進を続ける。
(b) リスクアセスメントに機構的データを統合するため、生物学に基づいたリスクモデルおよびシステム生物学フレームワークを更に開発することを検討する。
(c) 報告書を公に利用可能とする。
(d) 3〜4年ごと適宜本件について再吟味する。
(2013年1月21日掲載)

関連記事
-
1.メディアの報道特集で完全欠落している「1ミリシーベルトの呪縛」への反省 事故から10年を迎え、メディアでは様々な事故関連特集記事や報道を流している。その中で、様々な反省や将来に語り継ぐべき事柄が語られているが、一つ、
-
経営再建中の東芝は、イギリスで計画中の原子力発電所の受注を目指して、3年前に買収したイギリスの企業をめぐり、共同で出資しているフランスの企業が保有する、すべての株式を事前の取り決めに基づいて買い取ると発表し、現在、目指している海外の原子力事業からの撤退に影響を与えそうです。
-
電力システム改革の論議で不思議に思うことがある。電力会社や改革に慎重な人たちが「電力価格の上昇」や「安定供給」への懸念を述べることだ。自由化はそうした問題が起こるものだ。その半面、事業者はがんじがらめの規制から解き放たれ、自由にビジネスができるようになる。わざわざ規制当局の代弁をする必要はないだろう。
-
商品先物市場を運営する東京商品取引所(TOCOM)の社長に浜田隆道氏が就任した。経済産業省出身で同社専務から昇格した。「総合エネルギー市場」としての発展を目指すという。抱負を聞いた。
-
福島第一原発事故は、日本人が原子力とともに生きるかどうかの選択を突きつけています。他方、化石燃料には温暖化や大気汚染などのリスクもあり、私たちの直面している問題は単純ではありません。十分なエネルギーを利用し、豊かな環境を維持しながら、私たちは持続可能な文明を構築できるのでしょうか。
-
NHK1月9日記事。慢性的な電力不足に悩まされるインドで、エネルギー分野の日本の先端技術をどう普及させるかについて話し合う会議が開かれた。
-
以下、読者の皆さんに役立つ発言の要旨を抜粋します。福島20km圏からの緊急避難者の震災時の外部被曝は5mSvと低線量で、福島県全体としても震災元年の線量は概して5mSv以下。また放射性ヨウ素の吸引などによる甲状腺の内部被曝は40mSv以下と低線量。
-
福島の原発事故では、原発から漏れた放射性物質が私たちの健康にどのような影響を与えるかが問題になっている。内閣府によれば、福島県での住民の年間累積線量の事故による増加分は大半が外部被曝で第1年目5mSv(ミリシーベルト)以下、内部被曝で同1mSv以下とされる。この放射線量では健康被害の可能性はない。
動画
アクセスランキング
- 24時間
- 週間
- 月間