活断層、放射能安全基準報道の迷走 — おやおやマスコミ
GEPR編集部より。このサイトでは、メディアのエネルギー・放射能報道について、これまで紹介をしてきました。読者の皆様の関心も高く、それをまとめる記事を今後配信していきます。今回は、エネルギーフォーラム5月号に掲載された、科学ジャーナリストの中村政雄氏のまとめと解説を紹介します。転載を許諾いただきました中村政雄様、エネルギーフォーラム様に感謝を申し上げます。
活断層調査での「耳を疑う失態」
「開いた口が塞がらない。耳を疑う失態だ」
東京大学地震研究所の教授らによる活断層調査での誤りについて3月30日付産経新聞社説は、厳しい書き出しで批判した。工場跡地の中に打ち込ませていた杭を、首都直下地震につながる立川断層の破砕層と見誤ったのだ。
「偶然が重なったとはいえ、失敗学の好事例となりそうな初歩的かつ重大なミスである。調査現場を見学した部外者の指摘がなければ、とんでもない間違いが大手を振ってまかり通り続けるところだった」
この間違いをやらかした佐藤比呂志東京大学教授は、原子力規制委員会で原子力発電所敷地内の活断層を調査する有識者のひとりである。「見たいと思っていたので見えてしまった」と告白している。先入観で決められてはたまらない。
日本原子力発電敦賀原発の活断層調査では、偏った人選の専門家会合で、活断層と認定する結論をまとめた。日本原電側に反論さえ許さなかった。活断層誤認を糾弾した産経の社説は「仲間内だけの調査には、思いがけない陥穽(かんせい)が口を開けて待っている。何人もの専門家が現場を観察しているにもかかわらず、見抜けなかった。活断層調査を舞台にした『集団催眠』といえる」と酷評した。
地震学者はこれまで巨額の国費を使いながら、ろくな成果も挙げていない。東日本大震災も阪神淡路大震災も予知できなかったし、「明日起きてもおかしくない」と言ってきた東海大地震はまだだ。
規制委員会の行動に甘い朝日新聞
原発にからむことだとささいなことをほじくって大きく書き立てる朝日新聞は、この件については素直に書いた。3月29日朝刊は「東通原発の敷地内の断層の調査では、5人の専門家が一緒に現地をみて意見が一致しており問題ない」という規制委の見解を素直に載せていた。規制委は反原発、身内だというのだろうか。(編集部注・5月15日、同委員会は敦賀原発に活断層があると認めた)
1ミリシーベルト基準への批判が遅すぎる
リスクの判断は難しい。航空機や車をはじめ、あらゆる工学システムにゼロリスクはない。民主党政権は原発にだけゼロリスクを強要しようとした。その矛盾の一端が除染における年間1ミリシーベルト目標という被ばく線量の厳しさに表れている。
被災者の帰還の遅れや農水産物の風評被害の根本の原因ともなっている。(産経新聞3月12日付社説)。読売新聞も3月9日に同様趣旨の社説を載せ、「福島県の佐藤雄平知事も、今では『達成できる数値を示してほしい』と政府に求めている。政府は除染目標を見直し、1ミリシーベルトが危険と安全の境界ととらえられている現状を変えていくべきだ」と主張。
こういう社説はもっと早く書いてほしい。あれから2年たってからでは遅すぎる。自分から言い出す自信はなかったが、環境省が避難指示解除に腰を上げるのを見て、元気を出したように見える。朝日新聞は3月12日付朝刊で、福島県伊達市の除染担当、半沢隆宏さんにインタビューで次のように語らせている。
「病気だって、症状に応じた治療をしますよね。何でも手術をしてたら、逆に体がもたない。除染だって、線量や状況に応じてやるべきじゃないですか」
「除染費用を払うのは私たちではなく、子どもや孫なのです。現状を見据え、合理的、計画的に除染を進めていくべきです。必要なのはバランス感覚です」。その通りだが。
世界保健機関は福島原発事故の健康影響報告書を発表、各紙に出た。がん患者増の可能性はゼロに近いのに、朝日の見出しは「一部乳児がんリスク増」「見えぬ敵、闘い続く」とオーバーだった。
(2013年5月20日掲載)

関連記事
-
国会事故調査委員会が福島第一原発事故の教訓として、以前の規制当局が電気事業者の「規制の虜」、つまり事業者の方が知識と能力に秀でていたために、逆に事業者寄りの規制を行っていたことを指摘した。
-
はじめに 映画「Fukushima 50」を観た。現場にいた人たちがフクシマ・フィフティと呼ばれて英雄視されていたことは知っていたが、どんなことをしていたのかはもちろんこの映画を観るまで知らなかった。 中でも胸を打ったの
-
原子力の始まりが、政治の主導であった歴史を紹介している。中曽根氏の演説は格調高いが、この理想はなかなか活かされなかった。
-
福島第一原発の事故は我国だけでなく世界を震撼させた。電力会社に在籍したものとして、この事故の意味を重く受け止めている。
-
日本は数多くの国と原子力協定を結んでいるが、そのうちで日米原子力協定は歴史も古く、かつ最も重要な協定である。日本の原子力開発は、黎明期から米国との協力を通じて進められ、日米協定はその枠組みを設けるものであった。
-
2月4日に公開したアゴラ研究所の運営するインターネット放送「言論アリーナ」の番組「原子力規制委員会は何を審査しているのか」の要旨を紹介する。
-
ドナルド・トランプ新大統領は、グリーンエネルギー事業は同国経済にとって悪材料だと主張している。だが、そのトランプに異議を唱えたい人たちにとっては歓迎すべきデータが発表された。
-
日本のこれまでの核燃料サイクル政策について解説する。アゴラ研究所・GEPRの運営するインターネットの映像コンテンツ「言論アリーナ」の記事『原発は「トイレなきマンション」か??核廃棄物』を提供した。その理解を深めるための記事だ。
動画
アクセスランキング
- 24時間
- 週間
- 月間