北海道の植林は温暖化対策にならない?

Yuuji/iStock
問題:北緯60度から70度の間の世界の森林(シベリアやアラスカなど)を全部伐採したら、地球はどれだけ温暖化するか?
答え:0.4℃、気温が下がる(上がるのではない!)
あれ? 温暖化対策のために、植林しているんじゃなかったの!?
こんな衝撃的な論文が出たので紹介しよう。
下の図は、森林を伐採したらどれだけ地球の気温が変化するか、見積もったものだ。一番右のCのところで、60-70Nは-0.4℃となっているのが、上記の問答に該当するデータ。
森林を伐採すると、たしかにCO2は放出される。けれども、雪が多い地方では、太陽光を雪面がよく反射するようになるので、かえって地球は冷える、という訳だ。
ちなみに、森林は、いくつもの複雑な方法で地球の気温に影響する。
- 温室効果ガスであるCO2を固定する
というのはよく知られているが、他にも、
- 太陽光の反射量を変える(図中Albedo)
- 水分の蒸発散の量を変える(図中ET, Evaporation & Transpiration)。これは雲の形成にも影響する。
- 風の流れを変える(上下方向に空気が混ざり易くなる)(図中、Roughness)
などがある。
北緯60-70度だと、CO2を固定する効果よりも、太陽光の反射量を変える効果の方がはるかに大きいというのだ(図のA,B)。
そういえば、冬、畑が一面銀世界だととても眩しいが、森林になっていればそうでもない。森林があれば、太陽光はよく吸収されて、地球が温まる、という訳だ。
なお雪の無い熱帯(北緯30度から南緯30度)では、CO2を固定する効果が、上記の3, 4のメカニズムでむしろ増強される(図のA)。
これまで、植林による温暖化対策というと、単純にCO2の固定量を勘定するのが普通だった。それで、排出権売買までやっていたぐらいだ。
だが、じつは植林をすると地球が暖かくなるとすれば、一体どうなってしまうのか?
図を見ると、北緯40度から50度の間も、CO2固定の効果を太陽光の反射量の変化等が相殺してしまい、ほとんど温暖化対策にならない。
日本だと、これはちょうど北海道のある場所だ。北海道での植林が温暖化対策になっているのかどうか、あらためて検討してみる必要がありそうだ。
■

関連記事
-
菅政権の下で「2030年CO2を46%減、2050年にCO2ゼロ」という「脱炭素」の目標が発表された。 しかしながら、日本は製造業の国である。製造業は石油、ガス、石炭などを燃やしてエネルギーを得なければ成り立たない。 特
-
おそらくGEPR読者の方の多くは、福島第一原発事故による放射線被害はほぼ無いものと理解され、心配もしていないことだろう。しかしながら、社会の一部にまだ心配が残るようだ。事故からもう2年近くになる。さまざまな方が、不安を払拭するための努力を行っている。この原稿でもその試みを行いたい。
-
6月の公開前後にニューヨーク・タイムス、ワシントンポストなど主要紙の他、NEI(原子力エネルギー協会)、サイエンティフィック・アメリカン(Scientific American:著名な科学雑誌)、原子力支持および反原子力の団体や個人などが、この映画を記事にした。
-
小泉元首相の「原発ゼロ」のボルテージが、最近ますます上がっている。本書はそれをまとめたものだが、中身はそれなりの知識のあるゴーストライターが書いたらしく、事実無根のトンデモ本ではない。批判に対する反論も書かれていて、反原
-
アゴラ研究所の運営するエネルギーのバーチャルシンクタンクのGEPRは、サイトを更新しました。
-
スマートグリッドと呼ばれる、情報通信技術と結びついた新しい発送電網の構想が注目されています。東日本大震災と、それに伴う電力不足の中で、需要に応じた送電を、このシステムによって実施しようとしているのです。
-
今年も台風シーズンがやってきた。例年同様、被害が出る度に、「地球温暖化のせいで」台風が「激甚化」している、「頻発」している、といったニュースが流れるだろう。そこには毎度おなじみの“専門家”が登場し、「温暖化すれば台風が激
-
福島原発事故以来、環境の汚染に関してメディアには夥しい数の情報が乱れ飛んでいる。内容と言えば、環境はとてつもなく汚されたというものから、そんなのはとるに足らぬ汚染だとするものまで多様を極め、一般の方々に取っては、どれが正しいやら混乱するばかりである。
動画
アクセスランキング
- 24時間
- 週間
- 月間