【映画】ガイアのメッセージ-地球・文明・そしてエネルギー
東日本大震災、福島第一原子力発電所事故から5年間が過ぎた。表向きは停電も電力不足もないが、エネルギーをめぐるさまざまな問題は解決していない。現実のトラブルから一歩離れ、広い視野から思索を深めるドキュメンタリーだ。
文明の行く末を考える、骨太の視線
日本ではエネルギーというと、一般の世論、メディア、政治家は原子力の賛否をめぐる議論、専門家は電力・エネルギーシステム改革の問題ばかりに気を取られてしまう。ところが、世界規模で話題になっているエネルギー問題のテーマはまったく違う。
気候変動問題、そして急増するエネルギー需要の増大の中で、どのように適切なエネルギーシステムを構築するかが問題になっているのだ。
この映画では、ギリシャ神話の地の女神から転じて、「大地」、「地球」という意味を持つ英語の「ガイア」という言葉を切り口に、世界各国を回り、有識者たちの意見を集めている。登場する専門家らの冷静かつ現実的、建設的な主張は大変印象に残る。
地球は生命体のような新陳代謝と再生を繰り返す存在という「ガイア理論」を1960年代から唱えた英国の科学者のジェームズ・ラブロック博士、日本の福島原発、そしてジャーナリストの桜井よしこさん、宇宙飛行士の山崎直子さんなどが登場し、真摯にエネルギーと地球の未来への思索を語る。
取材時点で93才というラブロック博士は、気候変動への懸念を強く訴える。彼の観察してきたガイアという巨大なシステムを崩しかねない問題であるからだ。
「10年後を考えると、化石燃料に替わるエネルギー技術をマスターしていなければ、未熟な再生可能エネルギー技術で社会活動を支えることになりかねません」
「良いエネルギー源があるのに、不適切なものを使うのは愚かです。つまり、私は原子力エネルギーを強く支持します」
「ガイアはいま、地球上のどの生命よりも人類に頼っている。私たちは自らを管理し、地球に役立つことをしなければなりません」
こうした説得力のある議論が展開されている。
電力は文明と民主主義の前提になる
そして作家の川口マーン恵美さんの案内で、エネルギー大改革を勧めるドイツの現状も示される。褐炭の使用増、再エネの大量導入によるエネルギーシステムの混乱の現状を紹介する。
さらに途上国支援活動を行ってきた作家の曽野綾子氏は、電気の役割を強調する。
「アフリカの20数カ国を訪問してきましたが、問題の一つは義務教育が普及していないこと。もう一つは電気がない現実です。電気がなければ、教育も受けられず、文明の恩恵がなかなか得られない。教育と電気は民主主義の前提になります」
こうしたエネルギーの重要性を有識者たちは真剣に語る。
翻ってみると、日本では情緒的な「反原発映画」のみが、福島事故以来つくられ続けてきた。しかし「世界のなかの日本」「文明の継続」という骨太のテーマに向き合った例は、この映画以外にない。日本のエネルギーをめぐる議論の物足りなさを補い、未来への思索を深める作品だ。
上映は11月から全国各地で。情報はフィルムボイスホームページで。
(石井孝明 ジャーナリスト GEPR編集者)
関連記事
-
米国のロジャー・ピールキー・ジュニアが「IPCCは非現実的なシナリオに基づいて政治的な勧告をしている」と指摘している。許可を得て翻訳をした。 非現実的なRCP8.5シナリオ (前回からの続き) さらに悪いことに、3つの研
-
アゴラ研究所の運営するエネルギーのバーチャルシンクタンクGEPR(グローバルエナジー・ポリシーリサーチ)はサイトを更新しました。 1)改革進めるサウジ、その先は?-日本の未来を左右 サウジアラビアのムハンマド副皇太子、ま
-
2021年6月末、北米大陸の太平洋岸北西部で40℃を超える熱波が発生した。カナダのリットンでは6月27日に46.6℃を記録し、カナダでの過去最高気温を84年ぶりに更新した。また、米国オレゴン州のポートランドでも6月28日
-
CO2が増えたおかげで、グローバル・グリーニング(地球の緑化、global greening)が進んでいる。このことは以前から知られていたが、最新の論文で更に論証された(英語論文、英語解説記事)。 図1は2000年から2
-
金融庁、ESG投信普及の協議会 新NISAの柱に育成 金融庁はESG(環境・社会・企業統治)投資信託やグリーンボンド(環境債)の普及に向けて、運用会社や販売会社、企業、投資家が課題や改善策を話し合う協議会を立ち上げた。
-
言論アリーナ「東芝と東電の危機~エネルギー産業はどうなるのか~ 」を公開しました。 ほかの番組はこちらから。 東芝の経営危機が崖っぷちです。原発事業で出た7000億円以上の損失をどう処理するのか不明のまま、四半期決算が延
-
地球温暖化問題、その裏にあるエネルギー問題についての執筆活動によって、私は歴史書、そして絵画を新しい視点で見るようになった。「その時に気温と天候はどうだったのか」ということを考えるのだ。
-
かつて、1970年代後半から80年代にかけて、コンピュータと通信が融合すると言われていた。1977年に日本電気(NEC)の小林宏治会長(当時)が「コンピュータ技術とコミュニケーション技術の融合」を意味する「C&C」という新しい概念を提示し、当時の流行語になったのを覚えている人も多いだろう。
動画
アクセスランキング
- 24時間
- 週間
- 月間