格付け機関がESG評価の前提を間違えていた

ムーディーズHPより
去る2026年4月22日、ネブラスカ州、テキサス州、フロリダ州、アラスカ州など米国23州の司法長官が連名で、フィッチ、ムーディーズ、S&Pグローバルの世界3大格付け機関に対し、ESG評価を前提とした格上げ・格下げをやめるよう警告する書簡を送りました。
ヒルガース司法長官が主要信用格付け機関に書簡を送付 ESG方針への懸念を表明 |ネブラスカ州司法長官マイク・ヒルガース
2024年頃から、米国では議会下院やレッドステート各州によってESG、気候カルテルへの取り締まりが強化されています。
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気候カルテル指定はGFANZやNZBAなど金融機関の連合体に始まり、続いて民間のイニシアチブであるSBTi、CDPへと対象が拡大してきました。そして今回は格付け機関が取り締まりの対象となったようです。相変わらず日本語メディアではまったく報じられないので、3回に分けてこの書簡の内容をご紹介します。
書簡の冒頭で、①3大格付け機関が化石燃料企業や化石燃料生産収入のある州・自治体に対しESGやネットゼロなど欠陥のある手法を前提とした「投機的な予測」に基づいて意図的に格下げを行った、②しかもその前提が外れても格付けを十分に見直していない、と指摘されています。
具体的には、格付け機関がESG評価を実施するために用いた前提として
- 政府が年々厳しい気候規制を導入する。
- 石油・ガス需要が早期にピークアウトし、化石燃料投資が座礁資産化する。
- 再生可能エネルギーが急速に市場を奪う。
- ESG投資が拡大し続ける。
という4点を挙げています。
しかしながら、これらの前提に対して現実に起きたことは、
- 各国政府は厳格なESG政策や規制を制定しなかった。
- 化石燃料の需要は減少するどころか増加しており、化石燃料への投資は座礁資産になっていない。
- 社会が再エネへの移行を進めていないため、再エネは化石燃料の市場シェアを侵食していない。
- ネットゼロアライアンスは崩壊した。ESGファンドは資金流出が止まらない。
であると述べ、書簡の中でそれぞれについて詳述しています。以下に概要をまとめます。
a. 各国政府は厳格なESG政策や規制を制定していない
- 格付け機関はESG政策が厳格化されるという見通しにもとづき、石炭火力発電や石油・ガスセクターを格下げした。
- ネットゼロ目標を「法律で」掲げている国はわずか18%。世界で最も排出量の多い3か国に対して「Climate Action Tracker(CAT)」は「著しく不十分」または「極めて不十分」と評価している。
- 中国は世界中の国々の合計よりも多くの石炭火力発電所を建設している。インドは過去最高の石炭生産量を記録し、さらに増産をめざしている。
- ドイツ政府の気候変動アドバイザーがドイツの政策では気候目標を達成できないと認めており、フランスは太陽光発電と風力発電の目標を「大幅に引き下げた」。
- 米国はパリ協定から脱退し、環境保護庁(EPA)による長年の環境リスク認定、ならびに自動車排ガス基準を撤回した。また、石油・ガス会社および天然ガス・石炭火力発電に対する規制を緩和した。さらに、風力発電と太陽光発電に関する規制を厳格化し、プロジェクトの削減や補助金の廃止を実施している。
- 米国の変化は超党派的なものであり、民主党優勢州にも及んでいる。ニューヨーク州知事は「費用がかかり」「達成不可能」な気候目標から脱却すると発表した。カリフォルニア州知事は州内での石油掘削を加速させる法案に署名し「私たちは皆、石油とガスの恩恵を受けている」と認めた。カリフォルニア州議会の民主党議員15人は、州の「キャップ・アンド・インベスト」プログラムが「エネルギー市場を不安定化」させ、消費者に損害を与えると警告した。イリノイ州議会では気候変動対策スーパーファンド法案を審議すら行わずに否決した。
- 国内外の政府機関はこれまで、気候変動による経済的損害が甚大であると主張する著名な科学論文に基づき高額な規制を正当化してきた。しかし、その論文は重大な誤りがあったため最近撤回された。
- 格付け機関は各国政府がネットゼロ目標を採用していないことを認めているにもかかわらず、それに応じて格付けを見直していない。
b. 化石燃料需要は減少するどころか増加しており、化石燃料への投資は「座礁資産」になっていない
- すべての格付け機関は化石燃料需要の縮小を誤って予測していた。
- 昨年、IEA(国際エネルギー機関)はエネルギー安全保障が「最重要課題」となり、世界は「エネルギーを渇望している」と認めた。石油、天然ガス、石炭消費量は過去最高を記録した。
- IEAの最新シナリオでは「石油と天然ガスの需要は2035年までに16%増加し、2050年まで需要も価格も上昇する」とされた。IEAの石炭需要ピークも、2023年の政策シナリオでは「今後数年間」とされていたが、2025年の現行政策シナリオでは「2030年以前」へと先送りされた。
- IEAは、化石燃料プロジェクトが潜在的な「座礁資産」ではなく、増大する市場需要を満たすための不可欠な要素であることを明確にしている。また、石炭が「2040年まで最大の電力源であり続ける」と予測している。
c. 再生可能エネルギーによる化石燃料の市場シェア侵食は起きていない
- 格付け機関は、社会全体が急速に再生可能エネルギーへ移行すると誤って予測していた。
- 2025年、世界のエネルギー需要は引き続き増加しているにもかかわらず企業のクリーンエネルギー購入は減少した。
- BPは再生可能エネルギー資産を約50億ドル減損処理した。EVの需要が低迷したため自動車メーカーの損失は約700億ドルに達した。これは、フォード(470億ドル)とGM(680億ドル)の時価総額合計を上回る。フォードのCEOが述べたように、「顧客は意思表示をした」のだ。昨年米国で販売された小型車のうち、EVは8%未満だった。
- 調査によると、消費者は持続可能性を重視すると公言していても、環境に配慮した製品に高い価格を支払わなければならない場合、そうした価値観は実際の購買決定には反映されないことがわかっている。
- クリーンエネルギーへの補助金も減少した。米国政府は「グリーンエネルギー」に対する多くの補助金を打ち切った。活動家から「不十分」(「極めて不十分」や「危機的に不十分」ではなく)と評価されているEU(筆者註:CATで「十分」と評価されている国はほとんどないため、比較的評価が高いという意)でさえ、太陽光発電への補助金は削減されている。
- 再生可能エネルギーの利用が増加したとしても、化石燃料への需要が依然として高いため、従来のエネルギー企業は利益を伸ばしている。エネルギー需要の急増に伴い、石油・ガス企業の純利益は増加し、 2026年3月末時点でエネルギーセクターはS&P500指数を史上最大の差で上回った。石炭も近年復活を遂げ、2022年には価格が過去最高値を記録し、現在も2020年初頭の石炭価格の約2倍となっている。
d. 「ESG投資義務化の拡大」は逆転した
- S&Pは2021年末までにNZAMイニシアチブに参加した。しかし1年後にバンガードが脱退し、ブラックロックとステート・ストリートも続いた。NZAMは活動を停止し、ごく最近になって、より限定されたコミットメントとより少ない資産運用会社数で「再始動」した。同様に、アメリカの大手銀行はすべてNZBAに参加したが、2025年1月頃にはすべて脱退し、組織は解散した。NZIAもネットゼロ目標に沿って活動することをめざしたが、各州の司法長官が懸念を表明し、大手保険会社が脱退した後に解散した。
- 株主総会における環境関連提案に対する投資家の支持は劇的に低下している。S&Pが2021年に石油・ガスセクターの格付けを広範囲に引き下げた際、環境関連の提案に対する株主の支持率は中央値で49%にとどまった。 前回の株主総会シーズンでは、環境関連の提案に対する支持率は平均15%に過ぎず、 過半数の支持を得た提案はなかった。
- 投資家はESGファンドから離れつつある。昨年、世界のサステナブルファンドは840億ドルの純流出を記録した。米国では、サステナブルファンドが3年以上連続で純流出を記録している。
上記は米国23州の司法長官が格付け機関に対して表明した書簡に書かれている内容で、冒頭のリンク先からどなたでもご覧になれます。
さらにこの書簡では、SEC(米国証券取引委員会)登録機関として、規定された法の遵守および利益相反の回避に関する連邦法に抵触するだけでなく、虚偽表示および情報隠蔽を禁止する州の消費者保護法にも抵触すると警告されています。この辺りについては次回ご紹介します。
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