脱炭素に向けた国民運動は世界の流れに逆行しないか
1.2050年カーボンニュートラル及び2030年度削減目標の実現に向け、国民・消費者の行動変容、ライフスタイル変革を強力に後押しするため、新たに「脱炭素につながる新しい豊かな暮らしを創る国民運動」(仮称)を開始します。
2.また、官民連携で効果的な実施につなげるため、国、自治体、企業、団体、消費者等による官民連携協議会を同時に立ち上げます。
3.令和4年10月25日(火)に、この新しい国民運動及び官民連携協議会の発足式を開催しますので、お知らせします。
「脱炭素につながる新しい豊かな暮らしを創る国民運動」(仮称)発足式の開催について | 報道発表資料 | 環境省
近年、欧米を中心とする行き過ぎた脱炭素政策によってエネルギー価格が高騰していた中で、2022年2月のロシアによるウクライナ侵攻によって今日の世界的なエネルギー危機が起きてしまいました。安価で十分なエネルギーがなければ豊かな暮らしなんてできるはずがありません。

MadamLead/iStock
従って、公に脱炭素という看板を下ろしはしないものの一旦棚上げしてまずはエネルギーを確保する、というのが世界の潮流になっています。
世界各国が石炭火力発電に回帰しており、日本を除く先進各国が中国による新疆ウイグル自治区での強制労働の疑いを理由に中国製太陽光パネルの輸入禁止に動き始め、米国では21の州が石炭や石油業界への投資を控えるESG投資家への反対を表明したばかり…、という2022年10月のタイミングで「脱炭素につながる新しい豊かな暮らしを創る国民運動」(仮称)を発表する環境省は世界の流れに逆行していないでしょうか。
今回の発足式では当然ながらCO2削減に向けた様々な取り組みが説明されるはずです。そうであれば同時に、それらの脱炭素政策によって今後どれだけエネルギー価格の高騰が進み国民負担が増えるのか、電力不足が深刻化し停電のリスクが増える見込みなのかもきちんと説明していただきたいものです。
一方で、脱炭素を遅らせるものの、再エネ賦課金の廃止、石炭火力発電のフル稼働、原子力発電の再稼働などを進めることによってどれだけエネルギー価格が下がるのかも公平に示したうえで、産業界や全国民に比較・検討の機会を提供することこそが真の国民運動と言えるのではないでしょうか。
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私の専門分野はリスクコミュニケーションです(以下、「リスコミ」と略します)。英独で10年間、先端の理論と実践を学んだ後、現在に至るまで食品分野を中心に行政や企業のコンサルタントをしてきました。そのなかで、日本におけるリスク伝達やリスク認知の問題点に何度も悩まされました。本稿では、その見地から「いかにして平時にリスクを伝えるのか」を考えてみたいと思います。
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