大林ミカさんと私

Koldunov/iStock
ちょっとした不注意・・・なのか
大林ミカさん(自然エネルギー財団事務局長)が一躍時の人となっている。中国企業の透かしロゴ入り資料が問題化されて深刻度を増しているという。
大林さんは再生可能エネルギーの普及拡大を目指して規制の見直しなどを審議する内閣府のタスクフォース(TF)の委員だったが、この透かしロゴ問題の責任を取る形で委員を辞任した。問題の本質は、中国国有企業の透かしロゴ資料が〝中国が日本のエネルギー政策に影響を及ぼし果ては安全保障上の脅威〟となっていることの証左だとされている。
私はこの社会問題化された事態を見て、何を今更言っているのだと正直思った。
そもそも大林さんと河野太郎氏は、大林さんがIRENAの事務局に入る以前から懇意であったし、2011年に孫正義氏が『アジアスーパーグリッド(ASG)構想』を高らかに謳いあげた時にこの稀代の政商は日本の電力インフラを汎アジア主義のもと、中国支配下に置くつもりだなと感じた。
要するに、とうの昔に孫―大林―河野トライアングルは大林さんを軸に出来上がっていたわけだし、孫氏がそもそも自然エネルギー財団を立ち上げたのはASGのためであったし、大林さんはその政策的側面を、また河野氏はこの構想の政治的受け皿を担うことが運命付けられていた訳である。

2010年頃
©️福島みずほのどきどき日記(2010/4/28)より
このロゴ透かし問題は、社会問題化し国会で河野太郎規制改革担当大臣の責が問われる形となった。大臣は「チェック体制の不備」つまりちょっとした不注意だったと強調した。
大林ミカさんと私
大林さんと最初に出会ったのは、私が東工大時代に主宰した『学術フォーラム・多価値化の世紀と原子力』の公開講演会に、大林さんが何度か聴講しに来ていた2003、4年頃だったと記憶する。
最初の印象は、「笑顔に好感のもてるちょっとコケティッシュなひとだなあ」というものであった。原子力資料情報室の頃から存在は知っていたので、高木仁三郎仕込みの理論家かと勝手に思っていたがそんな感じは全くなく、どこかホンワカしていて、ややおっちょこちょい的なとこも垣間見えていた。
(大林ミカさんが世に出る前に何をしていたかやその頃の心情や様子は、原子力産業新聞の2007年11月8日第2403号に詳しい——大林さんの過去は謎でもなんでもない)
そんなことであるから、今回の事態にもあまり驚かなかったし、ミカさんらしいなあとも思った次第である。
こんな感じのする大林さんは2000年に副所長として、飯田哲也さんと環境エネルギー研究所を立ち上げた頃から、才能が一気に花咲いていった。2008年から2009年まで駐日英国大使館で気候変動政策アドバイザー、2010年から2011年まで国際再生可能エネルギー機関(IRENA)のアジア太平洋地域の政策・プロジェクトマネージャーと駆け上がっていった。
今次、大林さんはTF委員として河野規制改革担当相の知恵袋であり実働隊であったから、世間はこの期に一気にこの失態につけ込む形になった。
なお、河野太郎氏は外務大臣だった2018年にIRENAの年次総会にわざわざ出向いていって外務大臣としては異例の演説を行っている。外務大臣の所掌ではないという批判もあったがものともしなかった。大臣は演説のなかで日本の再エネ普及のレベルの低さを大いに批判し、世界に嘆いて見せたのである。

©️外務省
大林さんと河野大臣は、遅くとも2004年頃までには環境エネルギー政策研究所(ISEP)をベースにして繋がっていたと見る。2004年にはISEP所長の飯田さんらが中心となって、原子力政策の抜本的見直しを迫る『19兆円の請求書』を世に問うた。ここに、飯田さんや吉岡斉さんや鈴木達治郎さんらとともに名を連ねている。
また、このことを河野大臣は、2011年の3.11後に自身のブログ「ごまめの歯ぎしり」において、原子力政策の分かれ道と題してレビューするなかで原子力政策の見直しを強く主張している(2011.03.27)。
原子力政策の抜本的見直しと再エネの革新的推進は表裏一体なのである。
反原発思想?戸籍まで?
大林ミカさんと私は、ともに酒好き蕎麦好きで、大岡山の蕎麦屋やもつ焼き屋で仲間を交えて痛飲談笑することしばしばであった。それを聞き及んだ飯田さんが自分も呼ぶべしと言っていたことが思い出される。
最近大鶴義丹までが大林さんをネタにしているのを見て、私は思わずニンマリしてしまった。
世間はすぐに学歴や職歴を問いたがるが、フザケルナ——と言いたい。高木仁三郎の魂が入っているから反原発は当たり前だろう。しかし戸籍まで問われるとは尋常ではない。
私は大林さんのような〝謎めいた過去をもつ〟女性がもっとこの国に出てきて活躍すればこの日本も少しは変わって行くように思う。特に残念なのは原子力の世界にはそういうような市民目線の女性のリーダーが見当たらないということである。
大林さんならこの〝難局〟をも飄々として乗り切って行くのではないだろうか・・・
いや、そもそも難局とも思ってないかもしれない。ASGがそもそも尊師の提唱であり、その底流には中国の一帯一路構想が頑としてあるからである。彼女にとっては世の必然の流れを示しただけかもしれない。
そのことに世間が覚醒するべく絶好の材料を与えてくれたのではないかと私は思っている。
関連記事
-
米国21州にて、金融機関を標的とする反ESG運動が始まっていることは、以下の記事で説明しました。 米国21州で金融機関を標的とする反ESG運動、さて日本は? ESG投資をめぐる米国の州と金融機関の争いは沈静化することなく
-
アメリカでは「グリーン・ニューディール」をきっかけに、地球温暖化が次の大統領選挙の争点に浮上してきた。この問題には民主党が積極的で共和党が消極的だが、1月17日のWSJに掲載された炭素の配当についての経済学者の声明は、党
-
アメリカのトランプ大統領が、COP(気候変動枠組条約締約国会議)のパリ協定から離脱すると発表した。これ自体は彼が選挙戦で言っていたことで、驚きはない。パリ協定には罰則もないので、わざわざ脱退する必要もなかったが、政治的ス
-
福島県内で「震災関連死」と認定された死者数は、県の調べで8月末時点に1539人に上り、地震や津波による直接死者数に迫っている。宮城県の869人や岩手県の413人に比べ福島県の死者数は突出している。除染の遅れによる避難生活の長期化や、将来が見通せないことから来るストレスなどの悪影響がきわめて深刻だ。現在でもなお、14万人を超す避難住民を故郷に戻すことは喫緊の課題だが、それを阻んでいるのが「1mSvの呪縛」だ。「年間1mSv以下でないと安全ではない」との認識が社会的に広く浸透してしまっている。
-
IPCCの報告がこの8月に出た。これは第1部会報告と呼ばれるもので、地球温暖化の科学的知見についてまとめたものだ。何度かに分けて、気になった論点をまとめてゆこう。 京都の桜の開花日が早くなっているという図が出ている(図1
-
丸川珠代環境相は、除染の基準が「年間1ミリシーベルト以下」となっている点について、「何の科学的根拠もなく時の環境相(=民主党の細野豪志氏)が決めた」と発言したことを批判され、撤回と謝罪をしました。しかし、この発言は大きく間違っていません。除染をめぐるタブーの存在は危険です。
-
福島第一原子力発電所の災害が起きて、日本は将来の原子力エネルギーの役割について再考を迫られている。ところがなぜか、その近くにある女川(おながわ)原発(宮城県)が深刻な事故を起こさなかったことついては、あまり目が向けられていない。2011年3月11日の地震と津波の際に女川で何が起こらなかったのかは、福島で何が起こったかより以上に、重要だ。
-
6月29日のエネルギー支配(American Energy Dominance)演説 6月29日、トランプ大統領はエネルギー省における「米国のエネルギーを束縛から解き放つ(Unleashing American Ener
動画
アクセスランキング
- 24時間
- 週間
- 月間
















