気温を0.85℃下げるために5300兆円かける「脱炭素化」は必要か
エネルギー基本計画の主要な目的はエネルギーの安定供給のはずだが、3.11以降は脱炭素化が最優先の目的になったようだ。第7次エネ基の事務局資料にもそういうバイアスがあるので、脱炭素化の費用対効果を明確にしておこう。

ChatGPT
「2050年ネットゼロ」のコストは34兆ドル
まず「2050年ネットゼロ」には、どの程度のコストがかかるのか。これについてはIEA(国際エネルギー機関)の毎年4.5兆ドル(30年間で135兆ドル)がよく使われる数字だが、今週出たブルームバーグの推計によると、そのコストは25年間で34兆ドル(5300兆円)だという。

Bloombergより
上の図の左が通常の採算ベースで投資した場合のコストで181兆ドル、右が2050年ネットゼロ(カーボンニュートラル)を実現する投資のコストで215兆ドル。差額の34兆ドルが、ネットゼロのための(政府補助などによる)投資コストである。
では脱炭素化にはどんなメリットがあるのだろうか。通常シナリオだと地球の平均気温は、2050年に工業化前から2.6℃上昇するが、ネットゼロだと1.75℃上昇におさえられるという。つまり34兆ドルかけて0.85℃の効果しかないのだ。

Bloombergより
最近は公共投資でも費用便益分析をする。費用対効果(C/B)が大事で、これが1より大きい(費用が便益を上回る)プロジェクトは実施してはいけない。脱炭素化の費用は日本のGDPの9年分だが、便益は東京都と香川県ぐらいの温度差だ。誰が考えても
費用>>>便益
つまり2050年ネットゼロは実施してはいけないプロジェクトである。
最適な気温上昇は2100年に2.6℃
では費用対効果が最適となるのは、どの程度の脱炭素化か。これについては気候変動の経済学でノーベル賞を受賞したノードハウスが、彼のモデルを改訂した2023年の研究がある。それによると最適(費用=便益)となる水準は、2100年に2.6℃上昇する場合である(2050年では2℃上昇)。

Barrage-Nordhaus
そのコストはどれぐらいだろうか。こちらは炭素税で計算しているが、最適の場合でも125ドル/トン、現在価値で59ドル(9000円)である。これはガソリンに換算するとリッター21円ぐらいだ。

Barrage-Nordhaus
ネットゼロ(T<1.5℃)にするためには、4185ドルの炭素税が必要になる。経済的に無理のない炭素税(9000円程度)だと2100年に気温は2.6℃ぐらい上昇するが、2050年ネットゼロを無理に実現しようとすると、その70倍のコストがかかるのだ。
それによって避けられる被害は、先進国ではほとんどない。北半球では凍死が減り、農産物の収穫が増えるメリットのほうが大きい。地球温暖化はグローバルサウスの問題なのだ。
熱帯を救うためには、開発援助で食料や医療援助をすれば数百万人の命を救うことができる。地球の平均気温を0.85℃下げるのとどっちが大事か、熱帯の人々に聞いてみればわかる。
日本が莫大なコストをかけて脱炭素化をやっても国益にはならず、熱帯の人々の利益にもならない。それより途上国が気候変動の被害に適応する援助をしたほうがいい。それがCOP28で損害と賠償損害と賠償としてグローバルサウスが求めたことだ。
脱炭素化とエネルギー安定供給はトレードオフになっているので、国民にとって最適のエネルギーミックスを考えることが大事だ。まずこういう目的関数の設定を考え直してはどうだろうか。

関連記事
-
「40年問題」という深刻な論点が存在する。原子力発電所の運転期間を原則として40年に制限するという新たな炉規制法の規定のことだ。その条文は以下のとおりだが、原子力発電所の運転は、使用前検査に合格した日から原則として40年とし、原子力規制委員会の認可を得たときに限って、20年を越えない期間で運転延長できるとするものである。
-
言論アリーナ「地球温暖化を経済的に考える」を公開しました。 ほかの番組はこちらから。 大停電はなぜ起こったのかを分析し、その再発を防ぐにはどうすればいいのかを考えました。 出演 池田信夫(アゴラ研究所所長) 諸葛宗男(ア
-
9月11日記事。毎日新聞のルポで、福島復興に取り組む東電社員を伝えるシリーズ。報道では東電について批判ばかりが目立つものの、中立の立場で読み応えのある良い記事だ。
-
先日、デンマークの政治学者ビョルン・ロンボルクが来日し、東京大学、経団連、キャノングローバル戦略研究所、日本エネルギー経済研究所、国際協力機構等においてプレゼンテーションを行った。 ロンボルクはシンクタンク「コペンハーゲ
-
アゴラ研究所の運営するエネルギーのバーチャルシンクタンクであるGEPR(グローバルエナジー・ポリシーリサーチ)はサイトを更新しました。
-
【概要】原子力規制委員会の原子力発電所の安全審査ペースが急速に鈍化している。2016年下期に本体施設3基を許可したのをピークに、その後、期ごとの許可実績が2、2、1、0、0基と減っている。 審査している原発が無くなったの
-
台風19号の被害は、14日までに全国で死者46人だという。気象庁が今回とほぼ同じ規模で同じコースだとして警戒を呼びかけていた1958年の狩野川台風の死者・行方不明は1269人。それに比べると台風の被害は劇的に減った。 こ
-
今年も例年同様、豪雨で災害が起きる度に、「地球温暖化の影響だ」とする報道が多発する。だがこの根拠は殆ど無い。フェイクニュースと言ってよい。 よくある報道のパターンは、水害の状況を映像で見せて、温暖化のせいで「前例のない豪
動画
アクセスランキング
- 24時間
- 週間
- 月間