世界の炭素クレジット市場の創始者が詐欺罪で告訴される

Olga Rakovets/iStock
1996年に世界銀行でカーボンファンドを開始し、2005年には京都議定書クリーン開発メカニズム(CDM)に基づく最初の炭素クレジット発行に携わるなど、この30年間炭素クレジット市場を牽引し、一昨年まで世界最大のボランタリー炭素クレジット認証機関であるVerraの取締役も務めていたケン・ニューカムという人物がいます。
いわば世界の炭素クレジット市場の創始者、カーボン・オフセットビジネスの創業社長のような人物ですが、炭素クレジットをめぐる詐欺の疑いで昨年10月に米国司法省(DOJ)と連邦捜査局(FBI)から刑事告訴され、米国証券取引委員会(SEC)と米国商品先物取引委員会(CFTC)から民事告訴をされました。
米国の司法機関がプレスリリースをしているのに、日本国内ではまったく報じられていません。
以下、DOJとCFTCから引用します。
U.S. Attorney Announces Criminal Charges In Multi-Year Fraud Scheme In The Market For Carbon Credits
ニューヨーク州南部地区連邦検事ダミアン・ウィリアムズと連邦捜査局(以下「FBI」)ニューヨーク支局担当次長ジェームズ・E・デネシーは本日、ケン・ニューカムとトリディップ・ゴスワミに対して、炭素市場における不正行為スキームとの関連で、告発状を公開した。彼らの会社であるCQC Impact Investors LLC(以下「CQC」)は、数千万ドル相当の炭素クレジットを不正に取得し、1億ドルを超える投資を詐欺的に得た。
ケン・ニューカムとトリディップ・ゴスワミは、操作された誤解を招くデータを使用して、炭素クレジットを不正に取得するための複数年にわたる計画に従事した。その後、彼らはそのクレジットを、数十億ドル規模のカーボンクレジットの世界市場で、疑うことを知らない買い手に販売した。
陰謀のメンバーは、データを操作して、実際よりもはるかに炭素排出量の削減に成功しているかのように見せかけた。例えば、2021年8月頃に、CQCはマラウイの2つのプロジェクトとザンビアの2つのプロジェクトの調査データを受け取った。調査データは、CQCが予想していた排出削減の約半分だった。ニューカム、ゴスワミ、スティールは調査データを操作することに同意した。
米商品先物取引委員会(CFTC)は本日、ワシントンD.C.を拠点とする炭素クレジットプロジェクト開発者の元最高経営責任者(CEO)で大株主であるカリフォルニア州のケン・ニューカム氏に対して、ニューヨーク南部地区連邦地方裁判所に、ボランタリー炭素クレジットに関する詐欺および虚偽の疑いで告訴した。
他方、2023年5月にはVerraのCEOを15年間務めたDavid Antonioli氏が、理由の説明なく突然辞任しました。Verraの炭素クレジット認証に対しては、森林のCO2削減効果を誇張しているのではないかという指摘が後を絶ちません。
CEO辞任の翌月には、ブラジル連邦捜査局から詐欺の捜査を受けてVerraはブラジル・アマゾンでの熱帯雨林プロジェクトにかかわるクレジット発行を停止しました。Verraの認証を受けたプロジェクトからは5人の逮捕者も出ました。
また別の分析によれば、Verraの炭素クレジットの90%以上が無価値であることが判明し、ディズニー、シェル、グッチなどの大企業が使用している炭素オフセットはほとんど価値がなく、地球温暖化を悪化させる可能性がある、との指摘もみられます。
事程左様に、世界では炭素クレジット=グリーンウォッシュという認識が急速に広まっています。グッチやネスレなどの有名企業がカーボン・オフセットを中止しました。日本国内でも武田薬品工業が一部のボランタリークレジット利用を中止したそうですが、これは英断だと思います。
創業社長が詐欺罪で訴えられたビジネスを継続したり、顧客として参加したいと考える人はいないはずです。J-クレジットの説明資料でクレジット購入者を「もっと(実態以上に)排出削減した“ことにしたい”者」と呼んでいるのは、ある意味で本質をついているのかもしれません。
グリーンウォッシュに手を染める日本企業がなくなることを切に願います。
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