2026年ウクライナ敗戦で英独仏に右派政権が誕生するシナリオ

2025年12月02日 06:40
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キヤノングローバル戦略研究所研究主幹

ThomasVogel/iStock

2026年にウクライナが敗戦すると、英独仏も無傷ではいられない。以下では、そのようなシナリオを展開してみよう。

ウクライナが敗戦する。すなわちロシアは東部四州とクリミア、さらにオデッサを含む黒海沿岸を領土とする。内陸国となったウクライナは冷戦期のフィンランドのような親ロシア中立国家となり、軍備は制限される。米国トランプ政権はロシアとの国交を正常化する。

このとき、ドイツ・フランス・イギリスでは以下のように政変が起きる。

ドイツ

2025年2月の連邦議会選挙では、CDU/CSUが第1党となり、SPDとの大連立政権(メルツ内閣)が成立した(表)。

現在の大連立はウクライナ支援を継続しているが、ウクライナが敗戦すれば、これまでの対ロ強硬路線に対する国民の強い批判にさらされるだろう。大連立が維持不可能となって総選挙が前倒しされ、投票の結果として右派政党AfDがさらに躍進して首相の座を獲得し、CDU/CSUとの右派連立政権が成立する、というシナリオが考えられる。

AfDはこれまでも明確にロシアとの関係改善を唱えてきた。新しい右派連立政権は、ロシアとの国交を正常化するだろう。

連立与党 AfD
国会議席シェア 52% 24%
支持率(政党支持) 40% 26%
移民政策 比較的寛容 きわめて厳格
ウクライナ支援 積極 消極
ロシア外交 敵対的 融和的
ネットゼロ(脱炭素) 推進 反対

表 ドイツ主要政党の現状比較

注:ドイツ連邦議会の議席数は、CDU/CSUが208議席、SPDが120議席で、両党合計328議席が全630議席の約52%を占める。AfDは152議席で約24%である。また、直近のINSA世論調査(2025年11月中旬、BILD向け)では、政党支持率はCDU/CSUが約24.5%、SPDが約15.0%、緑の党が約11%、AfDが約26%となっている。連立政権であるCDU/CSUとSPDの合計支持率は約40%である。

フランス

ウクライナ支援を積極的に主導してきたマクロン大統領は、敗戦責任を問われて任期満了前の辞任に追い込まれるだろう。前倒しされた大統領選では国民連合(RN)の候補が勝利し、右派政権が成立する。

RNも従来からロシアとの関係改善に前向きであり、EUの対ロ制裁強化にも否定的だった。新しい右派政権は、フランス独自の安全保障観(いわゆるド・ゴール主義)を掲げ、ロシアとの国交を正常化するだろう。

2024年の国民議会選挙では、左派連合NFP、中道のマクロン系連合Ensemble(アンソンブル)、国民連合RNの三極が拮抗する「ねじれ国会」となっている(表)。与党側は明確な安定多数を持たないが、議席数では中道・中道右派ブロック(Ensemble+LR)がRNを今のところ上回っている。

連立与党(Ensemble+LR) 国民連合(RN)
国会議席シェア 34% 25%
支持率(政党支持) 27% 35%
移民政策 比較的寛容 きわめて厳格
ウクライナ支援 積極 消極
ロシア外交 敵対的 融和的
ネットゼロ(脱炭素) 推進 見直し

表 フランス主要政党の現状比較

イギリス

2024年の総選挙で労働党が大勝し、スターマー政権が誕生した。現在は労働党が議会で多数を占めている。しかしウクライナが敗戦すれば、積極的に支援をしてきた労働党政権の責任が厳しく問われ、支持率は低迷し、地方選挙では連敗が続くようになるだろう。

労働党内の中道派は「このままでは次の総選挙で落選する」と判断し、党首スターマーを見限る。内部抗争の結果、議会運営が難しくなり、任期前に総選挙の前倒しが行われる。

右派のReform UKは移民規制や光熱費引き下げを掲げて急速に支持を伸ばし、すでに世論調査では労働党と保守党を大きく上回るようになっている(表)。前倒し総選挙ではReform UKが議会で過半数を占め、新政権が誕生するシナリオがありうる。

Reform UKはこれまでも対ロ制裁の緩和やウクライナ支援の縮小を訴えてきた。新政権はロシアとの国交正常化に動くだろう。

労働党(与党) Reform UK(野党)
国会議席シェア 63% 1%
支持率(政党支持) 20% 31%
移民政策 比較的寛容 きわめて厳格
ウクライナ支援 積極 消極
ロシア外交 敵対的 現実的な対話を志向
ネットゼロ(脱炭素) 推進 廃止

表 イギリス主要政党の現状比較

注:イギリスの政党支持率は、2025年秋時点の複数の世論調査(Poll of Polls)では、労働党がおおむね20%前後、Reform UKが30%前後、保守党が20%弱で推移している。

三大国とも右派政権へ転換し、対ロ国交を再構築するというのは極端な未来図に見えるかもしれない。

しかし、現在の英独仏の政権はいずれも、移民問題や光熱費高騰などの問題によって支持率が低迷し、辛うじて政権運営をしている状態である。ここにウクライナでの敗戦というショックが重なれば、そのまま政権を継続できなくなる可能性は高いのではないか。

2029年シナリオ

以上では、ウクライナ敗戦をきっかけに2026年に一気に政変が起きるシナリオを描いた。しかし、現実にはもっと時間がかかるかもしれない。すなわち、英独仏いずれもレームダック政権になりつつも、形式的には任期満了まで続くという展開である。

この場合でも、イギリスは2024年総選挙から5年以内、遅くとも2029年夏までに次の議会総選挙が行われる。フランスでは、2027年春の大統領選挙と、遅くとも2029年までに予定される国民議会選挙が政権交代の節目になる。ドイツも2025年総選挙から4年後というスケジュールがあり、次の連邦議会選挙は2029年初頭までには行われる。

つまりはタイミングがやや遅くなるだけのことで、2029年には、やはり英独仏のいずれでも右派政権が誕生し、ロシアとの国交を正常化するということが起きうる。

ウクライナの敗戦は「あってはならない」ことであり「支援が必要だ」という教条的な態度だけでは未来を見通せない。本稿で示した2026年シナリオ、2029年シナリオのいずれも、あり得る将来の一つとして想定したうえで、日本の舵取りを考えるべきではなかろうか。

ウクライナにテコ入れし続けることも、ロシアに敵対的な態度を取り続けることも、ネットゼロ(脱炭素)を推進することも、全てが裏目に出るかもしれない。

データが語る気候変動問題のホントとウソ

 

 

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キヤノングローバル戦略研究所研究主幹

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