厳寒ベルリンを襲ったブラックアウト:野放しの極左テロ、沈黙する公共メディア

停電したベルリンの暗い住宅街の様子
Alexander Shelegov/iStock
1月3日午前6時、独ベルリン南部のSteglitz、Zehlendorf、Lichterfelde、Wannsee地域でブラックアウトが発生した。45,000戸の家庭と2,300軒の店舗や事業所が停電。地域暖房も温水供給も停止した。家屋内の温度は刻々と下がり、蛇口からお湯も出ない。
その日の夕方、Lichterfeldeの一部だけは復旧したが、その他の地域では、窓のシェイドが電動なら、昼間も真っ暗なままの時間が続いた(旧東独地域の比較的大きな自治体では、大きな発電所で電気と熱を作り、地域一帯の電気、暖房、温水を一括で供給しているところが多い)。
原因は極左グループの放火テロだ。犯行声明文を出したのは“ヴォルケーノ(火山)グループ“といって、24年3月にベルリン郊外のテスラの工場に電気を供給している送電塔に放火し、1週間も操業を止め、10億ユーロともいわれる多大な被害を出したグループである。これについては当時、プレジデントオンラインで詳しく書いた。
ドイツ進出は完全なリスクになった…「テスラ工場襲撃事件」で過激派を非難できないショルツ政権の末路 善玉のはずのEV工場をなぜか攻撃
https://president.jp/articles/-/79918
ヴォルケーノグループの犯行声明文は、今回もテスラ攻撃の時と同じく支離滅裂だった。「2026年 新年のご挨拶 勇気を!」で始まるそれは、「我々はこれ以上富裕層を養うことはできない」とか、「エネルギーに対する欲で、地球は搾り取られ(略)、虐待され、焼き尽くされ、暴行され、破壊される」とか、「全ての場所は暑さのために住めなくなる」とか、「停電は我々の目的ではない。(攻撃目標は)化石燃料だ」等々。
極左の頭の中では、階級闘争と気候危機が一緒になっているらしい。
発電施設に対するテロは2011年より今回で少なくとも11回目。そして、そのほとんどがベルリン。しかも、やり方はどんどん巧妙になっている。ちなみに前回は昨年9月で、60時間、ベルリンの広範囲が停電となった。
厳寒のベルリンを襲った発電機不足とメディアの沈黙
ただ、9月と今回との決定的な違いは気温だ。折しもドイツは寒波に見舞われており、ベルリンは最高気温が0℃いくか、いかないか。テロリストらはこの寒波を狙ったらしい。しかも、当初の発表では、停電は丸5日後の8日の午後まで続くとのことだった(実際には7日の午後に復旧した)。
次第に冷蔵庫のようになっていく自宅から脱出するには車が必要だろうが、ベルリンでは運悪く雪まで降っていた。充電ができないのでケータイもPCも切れ、EVは動かない。大型の非常用発電機は、大量にウクライナに送ってしまっており、不足していた。
そこで、非常用電源を完備していない病院や老人ホームでは、やむをえず患者、および入居者を他の施設に移送し始めた。しかし、その他の人間は、暖を取りたければ、市の設置した施設まで行かなければならなかった。家から出られない老人は命の危険があるといっても過言ではなかった。
3日目になるとYouTubeでは、当初のうち、キャンプ用のコンロを持ち出してはしゃいだり、「玉ねぎのようにたくさん重ね着すれば大丈夫」など軽口を叩いたりしていた人たちはすっかり消え、その代わり、窮状を伝えるビデオが急増した。
ところが、奇妙なことに、公共メディアはほとんど沈黙したままだったのだ。ブラックアウトは3日の朝6時だったのに、その日の夜8時の第1公共放送のニュースでは、放送時間の半分がベネズエラ問題、そのあとはスイスのディスコの火災、ベルリンのブラックアウトについては最後に1分ほど流れただけだった。ベルリン市長も出てこなければ、メルツ首相も、シュタインマイヤー大統領も、Xで呟くことさえなかった。
インフラの「急所」を熟知したプロの手口
情報はもっぱら独立系のメディアがwebで流しており、たとえば、いったい電気系統に何が起こったのかということについては、6日、TE(Tichys Einblick)がかなり詳しく報じていた。
ヴォルケーノグループが放火したのは、ベルリン南西部で、本ケーブルと予備ケーブルが束になって渡河している部分だった。他の部分のケーブルはほとんど地中に埋設されていたが、ここだけは川底を通すことが難しかったのか、架空線で橋のように川を跨いでいた。
ここを通る電気を作っているのは、近郊Lichterfeldeのガスタービンコンバインドサークル発電所だ。ガスタービンと蒸気タービンを組み合わせた最新の発電所で、2019年の完成以来、30万kWの電気と60万kWの熱を、11万ボルトの高圧ケーブルにより、ベルリン南西部に効率的に供給していた。そして、破壊された場所は、ここを切断すれば予備電力も全滅する上、補修が極度に難しいといういわゆる急所だった(それについては後述)。
放火に使われたのは灯油などではなく、激しい発熱反応(テルミット反応)を誘発する化学物質で、当然、極度の高熱になった。要するに犯人はプロで、ベルリンの発電、および系統システムの弱点を正確に知っていたと思われる。
電気というのは、常に、需要量に供給量を瞬時に合わせなければならないが、この朝、突然、ケーブルが破壊されたことで、電気の行き場がなくなった。そこで、ボイラーの爆発やケーブルの火災を防ぐため、安全装置が次々に働き、その結果、一瞬でブラックアウトが起きた。
では、なぜこれほど復旧に時間がかかっているのか?
その理由は、この火災現場のすぐそばに、70年代に敷かれた旧式のケーブルと、新式ケーブルが地中でぶつかる部分があったからだ。そして、その接続部分が、やはり火災で損傷してしまっていた。
旧式ケーブルは頑丈で、品質に瑕疵もないが、ただ、新式のケーブルとの接続は、1箇所につき、熟練の作業員が2人がかりで30〜40時間を要するという至難の作業だった。
しかも、旧ケーブルはその性質上、氷点下では作業ができない。ところが、ベルリンは前述のように寒波の襲来で、日中でも0度。そのため、地中の現場ではヒーターを回しながらの作業だった。
その上、再び11万ボルトを通電する際、接続部分に少しでも湿気や塵埃が混じっていると、爆発が起こる危険があった。つまり技術者は、穴蔵のような場所で、ヒーターを回しながら、高級時計を作るほどの精密な神経戦を戦っていたわけだ。犯人らはおそらく全て知っていて、わざわざこの部分を狙ったのである。
技術者の奮闘と政治家による「責任転嫁」
結果から言うと、技術者たちはその使命を晴れて完遂し、1日早く通電に成功した。技術国ドイツの面目を保ったのであった。
7日の13時ごろ、ベルリンには唐突に電気が戻った。夜の公共放送のニュースでは、住民の一人が電気のスイッチを入れると、部屋がパッと明るくなり、感動の歓声を挙げている瞬間の映像まで出たが、これが完全なヤラセに見えたのは私だけだっただろうか。しかし、その放送ではそれを、あたかもベルリンの政治家の手柄のように報道していた。
ただ、呆れたのは、その後、社民党の政治家が、今回のテロはロシアとAfDの合作ではないかと言い出したことだ。ドイツでは昨今、悪いことは全てプーチン大統領とAfDのせいだが、それをさもありなんとして報道するメディアもメディアだ。
これでは、本当の犯人を庇うことにしかならない。案の定、ヴォルケーノグループの方は、被害が想定外に大きくなったためか、出回っている犯行声明文は偽物で、自分たちは事件とは関係ないと主張し始めている。
なお、ベルリンという町の特異性、そして、いかに真っ赤な町であるかということは、ブラックアウトの始まった直後、noteへの投稿で触れたので、興味のある方はそちらをお読みいただきたい。
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