今週のアップデート — 福島原発事故対策、放射能パニックの沈静化、具体的な行動が広がる(2012年3月26日)
福島第一原発事故をめぐり、社会の中に冷静に問題に対処しようという動きが広がっています。その動きをGEPRは今週紹介します。
今週のコラム
各国の政府や国際機関に放射線をめぐる規制措置を勧告する民間団体である国際放射線防護委員会(ICRP)は、福島の原発事故の後に日本への知的な面からの支援活動を行っています。
2012年2月には福島県伊達市で第2回ICRPダイアログセミナーが行われました。各国の研究者による研究成果の提供と、福島の住民、地方自治体当局者の意見交換です。残念ながら、日本のメディアはICRPの取り組みをあまり伝えていません。
京都女子大学の水野義之教授は、「放射線防護の専門知を活かし、福島の生活再建に「連帯」を ― 第2回伊達市ICRPダイアログセミナーの経緯と結論・勧告の方向性」を寄稿いただきました。
水野教授はこのセミナーに参加しています。またこの寄稿ではウクライナのチェルノブイリ近郊で行われた、エートスプロジェクトについて、紹介しています。
水野教授は放射能防護の正しい知識を、福島などで紹介しています。水野教授、そして福島の復興のために努力を続ける関係者の皆さまにGEPRは深い敬意を持ちます。
2)福島原発事故の後で、放射能をめぐるパニックが社会に広がりました。その中には、非科学的な行動もありました。例えば、山梨県では、昨年6月に、福島県から避難した子供が県内の保育園への入園を拒否されたことが、同県法務局によって報告されています。
このような異常な思考の背景には何があるのか。日本の政治思想史、死生学の研究家である石川公彌子日本学術振興会特別研究員から、ユニークな視点によるコラム「穢れ思想とつくられた母親像から見えた放射能問題 —「現代化」問われる日本社会」を寄稿いただきました。
1930年代に軍国化に向かう日本で、「母子心中」など母親が子供に異常な形で関与する出来事が数多く発生しました。現在の放射能パニックの背景に似た面がありますが、その背景に、いずれの時代でも母親への過度な育児の負担があるのではないかと、指摘しています。
3)アゴラ研究所フェローの石井孝明は転換する「日本のエネルギー政策、今起こっていること−リスクはらみながら進む「脱原発」「ガスシフト」」を提供します。4月からの新年度を前に、エネルギー政策を概観します。
今週のリンク
1)1986年に起こった旧ソ連のチェルノブイリ原発事故の後のベラルーシなどで、住民参加型の除染、放射能防護の取り組みエートスプロジェクトが行われました。住民が自主性を持って放射能防護体制をつくり、生活と環境の回復にかかわる取り組みでした。日本でも福島の復興に応用するために、民間の有志が翻訳などの情報を提供しています。ETHOS IN FUKUSHIMA
2)同サイトで紹介されたベラルーシでのエートスプロジェクトの報告。
3)同サイトで紹介された、水野教授の寄稿の中にあるダイアログセミナーの結論と勧告。
今週のニュース
1)福島に最大の地熱発電、原発4分の1基分 出光など 日本経済新聞(2012年3月23日)
ランニングコストの安さから自然エネルギーの中で関心の高まる地熱発電で福島県での開発計画が浮上しています。
2)1キロワット時40円、期間20年間 太陽光買い取りで事業者要望 SANKEIBIZ(2012年3月19日)
再生可能エネルギーの強制買取制度(フィードインタリフ:FIT)が日本でも今年の夏から始まる予定です。事業者が要望を出していますが、ソフトバンクの孫正義社長は「40円を下回った場合、自治体が要望した二百数十カ所のほとんどで事業を断念せざるをえない」と主張し、期間は20年とすべきだとの考えも示しています。
3)ドイツの太陽光発電設備メーカーの倒産が相次ぐ 電気事業連合会(2012年3月22日)
ドイツは財政負担が拡大したため、FITを2013年から見直し、補助金を大幅減額しました。その影響で倒産が続いています
関連記事
-
・本稿では先月に続いて2020年度に迫ったFIT法の抜本改正をめぐる議論の現状を紹介したい。具体的には、5月30日、6月10日にそれぞれ開かれた第14回・第15回再生可能エネルギー大量導入・次世代電力ネットワーク小委員会
-
文藝春秋の新春特別号に衆議院議員の河野太郎氏(以下敬称略)が『「小泉脱原発宣言」を断固支持する』との寄稿を行っている。その前半部分はドイツの電力事情に関する説明だ。河野は13年の11月にドイツを訪問し、調査を行ったとあるが、述べられていることは事実関係を大きく歪めたストーリだ。
-
アゴラ研究所の運営するエネルギーのバーチャルシンクタンクであるGEPR(グローバルエナジー・ポリシーリサーチ)はサイトを更新しました。
-
けさの「朝まで生テレビ!」は、3・11から7年だったが、議論がまるで進歩していない、というより事故直後に比べてレベルが落ちて、話が堂々めぐりになっている。特に最近「原発ゼロ」業界に参入してきた城南信金の吉原毅氏は、エネル
-
12月8日記事(再掲載)。14日に衆議院選挙が行われ、事前の予想通り、自民党、公明党の連立与党が安定多数を確保。エネルギー分野では問題が山積しているのに、大きな変化はなさそうだ。
-
年明けからエネルギー価格が世界的に高騰している。その理由は様々な要素が複雑に重なっており単純には説明できないが、コロナ禍からの経済回復により、世界中でエネルギー需要が拡大するという短期的な要因に加えて、長期的な要因として
-
脱原発が叫ばれます。福島の原発事故を受けて、原子力発電を新しいエネルギー源に転換することについて、大半の日本国民は同意しています。しかし、その実現可能な道のりを考え、具体的な行動に移さなければ、机上の空論になります。東北芸術工科大学教授で建築家の竹内昌義さんに、「エコハウスの広がりが「脱原発」への第一歩」を寄稿いただきました。竹内さんは、日本では家の断熱効率をこれまで深く考えてこなかったと指摘しています。ヨーロッパ並みの効率を使うことで、エネルギーをより少なく使う社会に変える必要があると、主張しています。
-
1. 寒冷化から温暖化への変節 地球の気候現象について、ざっとお浚いすると、1970~1980年代には、根本順吉氏らが地球寒冷化を予測、温室効果ガスを原因とするのではなく、予測を超えた変化であるといった立場をとっていた。
動画
アクセスランキング
- 24時間
- 週間
- 月間