【スマートメーター研究会意見書解説記事】問題だらけの東電スマートメーター発注 — 独占延命を図る「トロイの木馬」??方針転換の意見広がる

東京電力の既存電力メーター(Wikipedia より)。
これが1700万台分、スマートメーターに置き換わる。
スマートメーター大量発注で議論噴出
未来の電力システムの根幹を担う「スマートメーター」。電力の使用情報を通信によって伝えてスマートグリッド(賢い電力網)を機能させ、需給調整や電力自由化に役立てるなど、さまざまな用途が期待されている。国の意向を受けて東京電力はそれを今年度300万台、今後5年で1700万台も大量発注することを計画している。世界で類例のない規模で、適切に行えれば、日本は世界に先駆けてスマートグリッドを使った電力供給システムを作り出すことができる。(東京電力ホームページ)
ところが、その仕様を詳細に検討すると、東電の関係会社がメーターを受注しやすい形になっている。さらにその機能も最小限で利用方法が限定的だ。これに対して、関係業界から批判が噴出。民間有識者などがつくるスマートメーター研究会などが批判を行った。(GEPR記事「東京電力発注のスマートメーター通信機能基本仕様に対する意見書」)
東電、スマートグリッド普及を遅らせる意図あり?
スマートメーターとは、電力の検針と使用情報を通信で知らせるメーター。これがスマートグリッド(賢い電力網)とつながれば、エネルギーの可能性が広がる。例えば、電気は貯めることは難しいが情報を使うことで、需要に会わせた発電を行ったり、利用者の使用抑制をうながしたりすることで、需要を抑制したり、電気使用が短時間に集中する「ピーク」をシフトさせることに役立てることができる。原発の停止によって、日本全国で慢性的に電力が不足する中で、これらはとても重要な営みだ。
さらに電気の使用情報を利用すれば、新しいサービスや産業を生み出す可能性がある。電力の自由化のために新規事業者が使ったり、「見守りサービス」や住宅のエネルギー管理などのサービスに使ったりするなどの利用法が期待されている。
国はスマートメーターの普及のために、2011年度第3次補正予算で300億円の予算を計上。それを受けて東京電力は、今回の発注の仕様を3月に公表した。内閣府や経産省は電力の自由化、さらには需要の抑制のために、今後スマートグリッドの普及を加速させる意向だ。
ところがスマートメーター研究会の上記意見書にあるように、東京電力の発注したメーターの仕様には、多くの問題がある。東電は自社回線を使って情報を配信する。またメーターの情報連絡頻度を30分ごとにするなど、機能を限定している。他の電力会社とのスマートメーターの規格統一にも配慮をしていない。さらに安価なインターネットを使った情報の伝達という手段を使わずに、東電は自社の通信網を利用、さらにそれを再整備する意向だ。
そして発注までのスケジュールがタイトだ。この3月に仕様を説明し、10月に納入を開始する意向だ。この入札は、全世界のメーカーに呼びかけるものだが、東電がこれまで発注してきたメーター会社に有利な形になっている。利権を保持しようとする疑いがある。
国民のためになるスマートメーターを
東京電力は現在、福島原発事故の巨額賠償によって、経営の先行きが危ぶまれている。それなのに、自社の地域独占を維持する有利な状況をスマートメーターの発注を機に作り出そうとしているとしか思えない。この発注について、ギリシャ神話にちなみ、独占を維持するという東電の本当の意図を隠した「トロイの木馬」という批判が関係者から噴出している。
現在、東京電力の活動は原子力損害賠償機構、経産省の同意がない限り進められない。通信、電気機器メーカーからの批判を受け、機構と同省は発注方法の見直しを勧める意向と、報道などで伝えられている。
スマートメーターの問題は一般には問題点が知られていないが、決して小さな問題ではない。これはスマートグリッドシステムの形を決め、さらには、今後の電力とエネルギー供給体制と日本の経済、国民生活の未来にも結びつく。
GEPRは、スマートメーター研究会とともに、現在の東京電力のスマートメーターの発注に関して、撤回と抜本的な再検討を求める。そして国民の皆様と一緒になって、スマートグリッドの適切な形を考えていく。
GEPR連絡先 info@gepr.org
GEPRが提供したスマートグリッド関連記事
スマートグリッドが切り開く、新生スマートニッポン(村上憲郎)
一般家庭への拙速なスマートメーター導入への懸念 ― 日本におけるスマートグリッドの現状(新谷隆之)
アゴラ研究所池田信夫所長による論考
スマートメーターは電力自由化を阻む「トロイの木馬」−電力業界は「ガラパゴス」携帯の失敗を繰り返すのか(JBPRESS)
値上げと同時に値下げする電気代に隠された電力会社のトリック(NewsWeek Japan)

関連記事
-
猪瀬直樹氏が政府の「グリーン成長戦略」にコメントしている。これは彼が『昭和16年夏の敗戦』で書いたのと同じ「日本人の意思決定の無意識の自己欺瞞」だという。 「原発なしでカーボンゼロは不可能だ」という彼の論旨は私も指摘した
-
2011年3月11日に起こった東京電力福島第一原子力発電所の事故は、2万人近い死者・行方不明を出した東日本大震災と同時に起こったため、非常に大きな事故という印象を与えているが、放射能による死者は1人も出ていない。原発の地下室で津波によって作業員2人が死亡したが、致死量の放射線を浴びた人はいない。それなのに原発事故がこれほど大きな問題になり、東電の経営が破綻するとみられているのはなぜだろうか。
-
新潟県知事選挙では、原発再稼動が最大の争点になっているが、原発の運転を許可する権限は知事にはない。こういう問題をNIMBY(Not In My Back Yard)と呼ぶ。公共的に必要な施設でも「うちの裏庭にはつくるな」
-
前回に続いてルパート・ダーウオールらによる国際エネルギー機関(IEA)の脱炭素シナリオ(Net Zero Scenario, NZE)批判の論文からの紹介。 A Critical Assessment of the IE
-
日本の核武装 ロシアのウクライナ侵攻で、一時日本の核共有の可能性や、非核三原則を二原則と変更すべきだとの論議が盛り上がった。 ロシアのプーチン大統領はかつて、北朝鮮の核実験が世界のメディアを賑わしている最中にこう言い放っ
-
資産運用会社の大手ブラックロックは、投資先に脱炭素を求めている。これに対し、化石燃料に経済を依存するウェストバージニア州が叛旗を翻した。 すなわち、”ウェストバージニアのエネルギーやアメリカの資本主義よりも、
-
学術的知識の扱い方 学界の常識として、研究により獲得された学術的知識は、その創出、伝達、利用の3点での適切な扱いが望ましい。これは自然科学社会科学を問わず真理である。ところが、「脱炭素」や「地球温暖化」をめぐる動向では、
-
2022年にノーベル物理学賞を受賞したジョン・F・クラウザー博士が、「気候危機」を否定したことで話題になっている。 騒ぎの発端となったのは韓国で行われた短い講演だが、あまりビュー数は多くない。改めて見てみると、とても良い
動画
アクセスランキング
- 24時間
- 週間
- 月間