今週のアップデート — 温暖化と付き合う方法とは?(2012年6月25日)
エネルギーで考えなければならない問題は、原子力だけではありません。温暖化、原発の安全管理、エネルギー供給体制など、さまざまな課題があります。
今週のアップデート
1)GEPR編集部は「地球温暖化とつきあいながら私たちは生きていける・書評「環境史から学ぶ地球温暖化」」で、電力中央研究所主任研究員の杉山大志さんの執筆した本を紹介します。環境史から温暖化、それと一体にあるエネルギー政策を考えた、ユニークな視点の本です。
杉山さんは温暖化をめぐる研究を集める国際組織IPCC(国連気候変動に)の報告書主執筆者の一人であり、温暖化問題の最新の動向も伝えています。
2)GEPR編集部は、MITニュースの翻訳「長期間にわたる放射線被曝についての新しい見解 — MITの研究が示した低線量被曝のDNAへの少ないリスク」を紹介します。米国のMIT(マサチューセッツ工科大学)の研究チームはネズミに5週間、自然放射線の400倍の放射線を浴びせ続けましたが、DNAに大きな損傷は起きませんでした。これは福島事故の対応にも参考になるでしょう。
GEPRでは既に解説記事「低線量被曝に健康への影響はあるのか?― MITレポートと放影研LSS第14報の解説」を提供していますので、これもご一読ください。
3)GEPRが提携するNPO法人国際環境経済研究所(IEEI)から「「脱石油政策」から脱却を—資源枯渇リスクは低下、緊急時対策からも必要に」という石油連盟の寄稿を提供いただきました。
これまでの日本の政策は「脱石油」でした。しかし原発事故後に他のエネルギーの再評価が必要です。石油連盟は業界団体であることを考えなければなりませんが、それでも読者の皆様が考える材料になるでしょう。
今週のリンク
1)経産省は「スマートハウス・ビル標準・事業促進検討会」を設置し、第1回会合を6月22日に開催しました。(ホームページ 概要資料)節電策、新しい産業の形成で注目されるスマートグリッドが実現に向けて、少しずつ動き出しています。
2)経産省・資源エネルギー庁は、今年7月に始まる再生可能エネルギーの固定価格買取制度で、パブリックコメントを集めました。その数は5743件になりましたが、主な質問を165にまとめて回答を公表しました。(ホームページ「なっとく再生可能エネルギー」パブリックコメントの公表)
それを読むと「太陽光で1kW当たり42円など買い取り価格が高すぎるのではないか」「過度の補助金は再生可能エネルギーの健全な成長をゆがめてしまうのではないか」と多くの人が指摘しています。残念なことに回答は「委員会で決定」「妥当である」などポイントを外したものが多いのです。担当の行政機関としての説明責任を適切に果たしていません。
3)国会では6月20日、原子力規制委員会設置法が成立しました。専門家5人で構成する規制委は8月中に発足します。同委員会は国家行政組織法3条に基づく独立性が高い組織とし、事務局に原子力規制庁を新設します。規制委、規制庁は環境省の外局とする。委員5人は国会同意を経て政府が任命します。読売新聞記事「新設される原子力規制委員会の課題は?」
GEPRでは東工大助教で原子力工学が専門である澤田哲生さんに「安易な設立は許されない日本の原子力規制庁ー専門性の確保が安全と信頼を生む」を今年6月18日に寄稿いただいています。ぜひ参考にしてください。
4)また20日原子力基本法が改正されました。そこに「我が国の安全保障に資する」と目的が追加されました。21日の記者会見で、藤村官房長官は「原子力の軍事目的の利用意図はない」と明言しています。これについて2つの新聞の異なる立場の論説があります。
「原子力基本法「安全保障」明記は当然だ」(産経新聞)
「原子力基本法「安全保障目的」は不要」(毎日新聞)

関連記事
-
なぜ浮体式原子力発電所がいま熱いのか いま浮体式原子力発電所への関心が急速に高まっている。ロシアではすでに初号基が商業運転を開始しているし、中国も急追している。 浮体式原子力発電所のメリットは、基本構造が小型原子炉を積ん
-
無資源国日本の新エネルギー源として「燃える氷」と言われるメタンハイドレートが注目を集める。天然ガスと同じ成分で、日本近海で存在が確認されている。無資源国の日本にとって、自主資源となる期待がある。
-
脱炭素社会の実現に向けた新法、GX推進法注1)が5月12日に成立した。そこでは脱炭素に向けて今後10年間で20兆円に上るGX移行債を発行し、それを原資にGX(グリーントランスフォーメーション)に向けた研究開発や様々な施策
-
全国知事会が「原子力発電所に対する武力攻撃に関する緊急要請」を政府に出した。これはウクライナで起こったように、原発をねらって武力攻撃が行われた場合の対策を要請するものだ。 これは困難である。原子力規制委員会の更田委員長は
-
先日3月22日の東京電力管内での「電力需給逼迫警報」で注目を浴びた「揚水発電」だが、ちょっと誤解している向きもあるので物語風に解説してみました。 【第一話】原子力発電と揚水発電 昔むかし、日本では原子力発電が盛んでした。
-
米国では温暖化対策に熱心なバイデン政権が誕生し、早速4月22日に気候サミットを主催することになった。これに前後してバイデン政権は野心的なCO2削減目標を発表すると憶測されている。オバマ政権がパリ協定合意時に提出した数値目
-
原子力の論点、使用済核燃料問題についてのコラムを紹介します。
-
既にお知らせした「非政府エネルギー基本計画」の11項目の提言について、3回にわたって掲載する。今回は第3回目。 (前回:非政府エネ基本計画②:太陽光とEVは解答ではない) なお報告書の正式名称は「エネルギードミナンス:強
動画
アクセスランキング
- 24時間
- 週間
- 月間