文句だけの新聞はいらない — おやおやマスコミ

2014年02月17日 14:00
科学ジャーナリスト(元読売新聞論説委員)

(GEPR編集部)GEPRは日本のメディアとエネルギー環境をめぐる報道についても検証していきます。エネルギーフォーラム2月号の記事を転載します。筆者の中村氏は読売新聞で、科学部長、論説委員でとして活躍したジャーナリストです。転載を許可いただいたことを、関係者の皆様には感謝を申し上げます。

秘密保護法案と原発

12月15日付朝日新聞朝刊に、社会部編集委員が大きなスペースを使って書いていた。小泉純一郎元首相から電話でメシに誘われ3時間近く雑談したというだけのこと。(朝日新聞記事(ザ・コラム)小泉元首相の変節「オレたちにウソ言ってきた」大久保真紀編集委員)(有料記事)

どうしてこんなことが大きな記事になるのか。元首相にメシに誘われたのがうれしくて感激したのか。脱原子力にからめばなんでもニュース価値があるのか。

朝日は秘密保護法への不安を煽(あお)っていた。同法の施行によって原発情報の公開も制限されかねないとして福島原発事故を例に挙げ「緊急時迅速放射能影響予測ネットワークシステム(SPEEDI)の情報が適切に公開されず、町民が放射線量の高い地域に避難した」と11月26日付社説で書いた。(朝日新聞記事「秘密保護法案—福島の声は「誤解」か」)

政府の発表が遅れたことは確かだが、米国防総省は早い段階から独自調査による同じ内容を公表していた。私のようなOBでさえ入手できた資料を、現役の記者が取材せず、政府に「発表が遅いぞ」と文句を言うだけとは情けない。秘密保護以前だ。新聞はいらない。

「秘密だらけの法、残したくない」「これは民主主義への軽蔑だ」と朝日は書いたが、週刊文春12月12日号「飯島勲の激辛インテリジェンス」がズバリ指摘している。

「(海江田万里代表が)『暴挙に怒りを禁じ得ない』とコメントしていたけど、とんでもないのは民主党の方だぜ。強行採決を憲政史上、まれにみる勢いで連発してあ然とさせたのは当の民主党。あの鳩山由紀夫内閣だったんだから。2009年の臨時国会では最大野党の自民党欠席のままでの強行採決が6回もあったのよ」

「国家として秘密保護法制が必要だって号令して検討を始めたのは誰だったの? 菅直人内閣で仙谷由人官房長官が旗を振って動き出したんだろ。この一件(中国漁船の巡視船体当たり事件)を教訓に秘密保護法制が不可欠だって騒いだのは民主党自身だろ。今さら何よ」朝日も参考にしたら。

素人と自称する規制委員会

12月7日付産経新聞で、安倍晋三首相は次のように語っている。(単刀直言「安倍晋三首相 特定秘密保護法を語る」)

「(平成)22年の中国漁船衝突で衝突映像を流した元海上保安官、一色正春氏について当時の毎日新聞は『国家公務員が政権の方針と国会の判断に公然と異を唱えた倒閣運動』と激しく非難し、朝日新聞は『政府や国会の意思に反することであり許されない』と書いている。現在の姿勢とのダブルスタンダードにはあ然とします」

「問題は、誰がどのようなルールで秘密を決めるかであり、衝突映像はそもそも秘密にすべきものではなかった。日本の国益のためにはむしろ、国際社会に示さなければならなかった。菅政権は全く誤った、致命的な判断ミスをした」

秘密に指定したのは菅首相なのか仙谷官房長官なのか不明だが、安倍首相にこんなことを言われて恥ずかしくないか。

原子力発電の是非にとって最も重要なのは、原子力施設の安全性を科学的かつ公正に判断できる組織であるかどうかが問われている。この問題を12月19日付読売新聞社説が次のように書いた。

「規制委は現在、原子力発電所の安全審査に注力している。ところが、田中俊一委員長と委員4人の中で原子炉に詳しいのは1人しかいない。専門的な議論が尽くされているわけではない。実際、規制委の議論でも『私は素人なので』『専門の委員にお任せする』といったやりとりは珍しくない」

こんな重要なことを朝日などの脱原発新聞やNHKは取り上げない。なぜか。

(2014年2月17日掲載)

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科学ジャーナリスト(元読売新聞論説委員)

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