遺伝子組み換え作物って何?

2016年08月16日 18:04
アバター画像
アゴラ研究所所長

今年5月、全米科学アカデミーは、「遺伝子組み換え(GM)作物は安全だ」という調査結果を発表しました。これは過去20年の約900件の研究をもとにしたもので、長いあいだ論争になっていたGMの安全性に結論が出たわけです。

遺伝子組み換えというのは、バクテリアなどを使って植物の遺伝子を操作する品種改良のことです。遺伝子を改良するのは今までの交配による品種改良と同じですが、特定の遺伝子を変えて自然界にはない性質の植物をつくることができます。みなさんの食べている野菜も自然のままではないので同じことですが、遺伝子組み替えというと放射能みたいにきらう人がいるので、論争が続いてきました。

よくGMを農薬と勘違いする人がいますが、これは農薬ではありません。それは農薬を減らす技術なのです。次の写真はGMのダイズと普通のダイズに除草剤をまいたもので、右側の普通のダイズは雑草といっしょに枯れていますが、左側のGMダイズに農薬をまいても平気です。

20110712002

GMダイズ(左)と普通のダイズ(農業生物資源研究所)

これはGM作物が、農薬で枯れないからです。上の写真でまいたのはラウンドアップという強力な除草剤ですが、このGM作物の遺伝子はラウンドアップで枯れない性質をもっているので、雑草だけが枯れるのです。

農家の仕事でいちばん大変なのは、草取りです。農薬を大量にまくと作物まで枯れてしまうので、少しずつ何回もまいて雑草を取ります。雑草だけ枯らす農薬はないので、最終的には農家の人が取らないといけません。これは農地が広くなると重労働なので、農薬をヘリコプターからまくなど危険なことをやっています。

除草剤は、たくさん飲んだら人も死ぬ毒物です。みなさんの食べる野菜や果物にもたくさん除草剤がかかっているので、ミカンやレモンの皮は食べてはいけません。しかしGM作物なら雑草だけを枯らすことができるので、農薬をまく回数が少なくてすみます。だからGMは農作業の負担を減らして生産性を上げるだけでなく、普通の作物より安全なのです

GMは日本でも安全性が認められており、輸入される大豆の9割、トウモロコシの8割がGM作物ですが、国内では誰も栽培していません。それは農薬でもうける農協や反対派が「GMは危険だ」と嘘をついて、北海道などで実質的に栽培が禁止されているからです。規制のない県で栽培しようと思えばできますが、反対派がGM作物の畑をトラクターで踏みつぶしたりするので、農家はこわがって栽培しません。

でもこれは逆に考えると、ビジネスチャンスです。トウモロコシを原料に使う企業などが、規制のない地域でGM作物をつくればいいのです。今は全国に休耕田があるので、それを借りれば株式会社でも農業ができます。草取りの手間がかからないのでコストが安く、ビジネスとしても成り立ちます。

「日本は土地がせまいから農業は向いてない」という人がいますが、世界一の農産物輸出国(1人あたり)は、日本より国土のせまいオランダです。付加価値の高い農産物をつくれば、農業は成長産業になるのです。法律で認められているのに誰もつくらないGM作物は、新しい産業になる可能性があります。

アゴラこども版

This page as PDF

関連記事

  • 広島高裁は、四国電力の伊方原発3号機の再稼動差し止めを命じる仮処分決定を出した。これは2015年11月8日「池田信夫blog」の記事の再掲。 いま再稼動が話題になっている伊方原発は、私がNHKに入った初任地の愛媛県にあり
  • 先日、欧州の排出権価格が暴落している、というニュースを見ました(2022年3月4日付電気新聞)。 欧州の排出権価格が暴落した。2日終値は二酸化炭素(CO2)1トン当たり68.49ユーロ。2月8日に過去最高を記録した96.
  • アゴラ研究所・GEPRは12月8日にシンポジウム「持続可能なエネルギー戦略を考える」を開催しました。200人の方の参加、そしてニコニコ生放送で4万人の視聴者を集めました。
  • 2023年12月にドバイで開催されたCOP28はパリ協定後、初めてのグローバルストックテイクを採択して閉幕した。 COP28での最大の争点は化石燃料フェーズアウト(段階的廃止)を盛り込むか否かであったが、最終的に「科学に
  • 地球温暖化の「科学は決着」していて「気候は危機にある」という言説が流布されている。それに少しでも疑義を差しはさむと「科学を理解していない」「科学を無視している」と批判されるので、いま多くの人が戦々恐々としている。 だが米
  • 4月3日は、台風並みの暴風雨が全国的に吹き荒れた。交通機関などの混乱にとどまらず、全国で死者3人、けが人は300人を超える被害を引き起こしている。東京電力のウェブサイトによれば、23時現在、同社サービスエリア内で約2100軒が停電中という。電気が止まってしまったご家庭はさぞ心細い思いをされているだろうと心配しつつ、同時に、嵐の中で必死に復旧作業にあたっているであろう、かつての同僚の顔が目に浮かぶ。私は昨年末まで同社に勤めていた。
  • 途上国の勝利 前回投稿で述べたとおり、COP27で先進国は「緩和作業計画」を重視し、途上国はロス&ダメージ基金の設立を含む資金援助を重視していた。 COP27では全体決定「シャルム・エル・シェイク実施計画」、2030年ま
  • 地球温暖化予測に使う気候モデルは、上空(対流圏下部)の気温も海水面温度も高くなりすぎる、と言う話を以前に書いた。 今回は地上気温の話。米国の過去50年について、観測値(青)とモデル計算(赤)の夏(6月から8月)の気温を比

アクセスランキング

  • 24時間
  • 週間
  • 月間

過去の記事

ページの先頭に戻る↑