スウェーデンが原子力を維持-更新を政府が支援
(GEPR編集部)原子力の啓蒙活動を行う原子力国民会議から投稿をいただきました。GEPRは原子力については、冷静な議論を必要と考え、肯定論、否定論、双方の論考を募集しています。スウェーデンのエネルギーの情報は少ないために掲載します。
スウェーデンのフォーシュマルク原発(wikipediaより)
1・脱原発だったスウェーデンが原発を推進へ
日本では殆どの新聞に載っていませんが、6月10日にスウェーデンの与党(社会民主党、緑の党)、野党(穏健党、中央党、キリスト教民主党)の5党が、「原子力発電に掛けていた高額な税金を廃止して、原子力発電の継続を支える」ことに合意しました。政策目標である「2040年に再生可能エネルギー100%とする」は、原子力の利用継続と矛盾していますが、それは1つの目標であるとし、現在動いている10基の原子炉の運転継続に対して税制上の優遇(後押し)を決定、またその建替えも認めていて、2040年以降の原子力利用を継続することを明言しました。
2・スウェーデンのエネルギー政策
EU諸国はエネルギー政策について、①生態学的持続性(環境に優しく)、②競争力、③安定供給の3つを柱として進めるとしていますが、スウェーデンもこの柱を支持し、エネルギー政策として、2040年には再エネ100%を目標としてあげていました。ドイツは温室効果ガス増加に目をつぶり石炭の利用を選択しましたが、今般、スウェーデンはこの3つの柱を達成する為に、化石燃料に頼ることなく原子力利用を継続し、それをもって2050年には温室効果ガスの排出量をゼロにするという極めて冷静な決断をしたのです。
3・スウェーデンの電源構成
スウェーデンの2013年の国内発電電力量は1532億kWhです。(注・日本は9397億kWh(2013))内訳は水力が40%、原子力が43%、化石燃料による発電比率が2%。バイオマス・廃棄物発電(8%)、風力(6%)、高緯度に位置するため太陽光は0.1%未満となっていて、原子力が重要な発電資源となっています。温室効果ガスを多く発生する化石燃料はたった2%に過ぎないのです。
4・スウェーデンのこれまでの原子力政策
スウェーデンは1979年のスリーマイルアイランド事故翌年の1980年の国民投票により、2010年までに全ての原子炉を閉鎖し、新たな原子炉は建設しない脱原子力政策を決定しました。但し、この脱原子力の決定は、雇用と社会的利益が損なわれないこと、石油と天然ガスの使用量が増加しないことなどを条件としていた為、これまでに閉鎖したのは、12基の炉のうち、2基だけで、現在も10基の原子炉は運転を続けています。その後2010年に政府は脱原子力政策を見直し、運転中の10基の原子炉の建替えに限って新規建設を認める法案が決定されました。
5・今回合意された原子力推進の合意とは
スウェーデンでは、1984年に原子力税が導入され当初1kWhあたり0.2オーレ(約0.03円)、2000年には2.7オーレ(約0.34円)に上昇、同じ年に容量税に変更された後は7オーレ(0.89円)に達していました。その為、二つの発電所を所有するバッテンフォール社は昨年4月、所有する原子力発電所の中では最も古いリングハルス1、2号機の運転期間を短縮し、2018年~2020年に閉鎖するとの方針を発表していました。
早期閉鎖する理由として、採算性の低下と発電コストの上昇を挙げ、今後数年間は市場で電力価格の上昇が見込めない上、新たな安全要件を満たすための投資や原子力発電に課されている税金が重荷になっているとし、「良好に機能している原子炉の閉鎖はもちろん残念だが、これはビジネス上の判断であり避けがたいことだ」とコメントしていました。
また、オスカーシャム原子力発電所を管理するOKG社も、今年の2月に1号機の閉鎖時期を2017年6月に早めるとの方針を発表していましたが、その理由としてやはり長期に亙る電力価格の低迷と増額された原子力税をあげ、安全性によるものではないと強調していました。
今回6月10日にスウェーデンの連立政権が合意したのは、税率の低減、資金提供メカニズムの新設、操業期間制限無しなどの優遇措置を与えるというもので、税率の低減は、1984年に導入されたこの原子力税について、2017年から2年間で段階的に廃止していくというものです。
今回の合意により、これら発電所閉鎖判断の見直しの可能性も出てきました。
6・日本でも環境への負荷等を考え、原子力を活用しよう
残念な事に、日本ではやっと再稼動した原子炉を停止させようとする動きが後を絶たちません。熊本地震による影響が全く無かった川内発電所では、新しい知事が停止の申入れをしました。マスコミは反原子力の話題は国の内外を問わず取り上げますが、今回のスウェーデンの決定については全く取り上げていません。
ノーベル賞の国スウェーデンという日本人が模範としたがる国の情報でも、脱原子力を否定する不都合な動きには目をつぶるのかなと思います。今夏も猛暑です。再生可能エネルギーが原子力の分を賄うことが出来る日が来るとしても、まだまだ先でしょう。スウェーデンを見習って、温暖化、異常気象から目を背けず、原子力を早く再稼動し、化石燃料の消費を抑えるべきです。
参考資料
(1)「スウェーデン政府:エネルギー政策実現で原子力容量税を廃止へ」(日本原子力産業協会)
(2) Framework agreement between the Swedish Social Democratic Party, the Moderate Party, the Swedish Green Party, the Centre Party and the Christian Democrats(スウェーデン政府資料:英語)
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