【映画】ガイアのメッセージ-地球・文明・そしてエネルギー

2016年11月18日 10:46

screenshot監督:太田洋昭 製作:フィルムボイス 2016年

東日本大震災、福島第一原子力発電所事故から5年間が過ぎた。表向きは停電も電力不足もないが、エネルギーをめぐるさまざまな問題は解決していない。現実のトラブルから一歩離れ、広い視野から思索を深めるドキュメンタリーだ。

文明の行く末を考える、骨太の視線

日本ではエネルギーというと、一般の世論、メディア、政治家は原子力の賛否をめぐる議論、専門家は電力・エネルギーシステム改革の問題ばかりに気を取られてしまう。ところが、世界規模で話題になっているエネルギー問題のテーマはまったく違う。

気候変動問題、そして急増するエネルギー需要の増大の中で、どのように適切なエネルギーシステムを構築するかが問題になっているのだ。

この映画では、ギリシャ神話の地の女神から転じて、「大地」、「地球」という意味を持つ英語の「ガイア」という言葉を切り口に、世界各国を回り、有識者たちの意見を集めている。登場する専門家らの冷静かつ現実的、建設的な主張は大変印象に残る。

地球は生命体のような新陳代謝と再生を繰り返す存在という「ガイア理論」を1960年代から唱えた英国の科学者のジェームズ・ラブロック博士、日本の福島原発、そしてジャーナリストの桜井よしこさん、宇宙飛行士の山崎直子さんなどが登場し、真摯にエネルギーと地球の未来への思索を語る。

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取材時点で93才というラブロック博士は、気候変動への懸念を強く訴える。彼の観察してきたガイアという巨大なシステムを崩しかねない問題であるからだ。

「10年後を考えると、化石燃料に替わるエネルギー技術をマスターしていなければ、未熟な再生可能エネルギー技術で社会活動を支えることになりかねません」

「良いエネルギー源があるのに、不適切なものを使うのは愚かです。つまり、私は原子力エネルギーを強く支持します」

「ガイアはいま、地球上のどの生命よりも人類に頼っている。私たちは自らを管理し、地球に役立つことをしなければなりません」

こうした説得力のある議論が展開されている。

 電力は文明と民主主義の前提になる

そして作家の川口マーン恵美さんの案内で、エネルギー大改革を勧めるドイツの現状も示される。褐炭の使用増、再エネの大量導入によるエネルギーシステムの混乱の現状を紹介する。

さらに途上国支援活動を行ってきた作家の曽野綾子氏は、電気の役割を強調する。

「アフリカの20数カ国を訪問してきましたが、問題の一つは義務教育が普及していないこと。もう一つは電気がない現実です。電気がなければ、教育も受けられず、文明の恩恵がなかなか得られない。教育と電気は民主主義の前提になります」

こうしたエネルギーの重要性を有識者たちは真剣に語る。

翻ってみると、日本では情緒的な「反原発映画」のみが、福島事故以来つくられ続けてきた。しかし「世界のなかの日本」「文明の継続」という骨太のテーマに向き合った例は、この映画以外にない。日本のエネルギーをめぐる議論の物足りなさを補い、未来への思索を深める作品だ。

上映は11月から全国各地で。情報はフィルムボイスホームページで。

(石井孝明 ジャーナリスト GEPR編集者)

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  • 日経ビジネス
    6月21日記事。ドイツ在住の日系ビジネスコンサルタントの寄稿。筆者は再エネ拡充と脱原発を評価する立場のようだが、それでも多くの問題を抱えていることを指摘している。中でも電力料金の上昇と、電力配電系統の未整備の問題があるという。
  • 経産省
    経産省・資源エネルギー庁。経産省が2001年からメタンハイドレートの開発研究を、有識者を集めて行っています。現在、「第3フェーズ」と名付けられた商業化の計画が練られています。
  • 自民党河野太郎衆議院議員は、エネルギー・環境政策に大変精通されておられ、党内の会議のみならずメディアを通じても積極的にご意見を発信されている。自民党内でのエネルギー・環境政策の強力な論客であり、私自身もいつも啓発されることが多い。個人的にもいくつかの機会で討論させていただいたり、意見交換させていただいたりしており、そのたびに知的刺激や新しい見方に触れさせていただき感謝している。
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  • 福島第一原発(資源エネルギー庁サイトより)
    ネット上で、この記事が激しい批判を浴びている。朝日新聞福島総局の入社4年目の記者の記事だ。事故の当時は高校生で、新聞も読んでいなかったのだろう。幼稚な事実誤認が満載である。 まず「『原発事故で死亡者は出ていない』と発言し
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  • 燃料電池自動車の市場化の目標時期(2015年)が間近に迫ってきて、「水素社会の到来か」などという声をあちこちで耳にするようになりました。燃料電池を始めとする水素技術関係のシンポジウムや展示会なども活況を呈しているようです。

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