プルトニウムの保有はエネルギー自給率向上のため
GEPRフェロー 諸葛宗男
はじめに
日本は約47トンのプルトニウム(Pu)を保有している。後述するIAEAの有意量一覧表に拠れば潜在的には約6000発の原爆製造が可能とされている。我が国は「使用目的のないプルトニウムは保有しない」と公言しているが、Pu保有は一体何のためなのか、また、保有しているPuで本当に原爆が作れるのかなどについて考察した。
IAEAの有意量一覧表では8kgのPuで原爆が出来るとしている
国際原子力機関(IAEA)は各国が持っている核物質が核爆弾に転用されていないかどうかを常にチェックしている。それを保障措置活動と呼んでいる。この保障措置での施設の重要性の物差しは「有意量(Significant Quantity)[注1]」一覧表だけで決まる。有意量とは、原爆製造に転用されたか否かを判別するための核物質量のことである。有意量以上の核物質が見付らない時は原爆製造に転用された可能性が高いと判定されるのである。
その有意量一覧表では、Pu-238の含有割合が80%以下のPuは8kg、ウラン(U)-235が20%以上の高濃縮Uは25kgとされている。したがって、核燃料サイクル施設の中でPuと高濃縮Uが単独で存在する可能性のある再処理施設とウラン濃縮施設が保障措置で重要とされているのである。
軽水炉から取り出したPuで兵器を製造できるのか
原子炉級プルトニウム(Reactor Grade – Plutonium ;R-Pu)で核兵器を作ることができるのかどうかについては我が国の保障措置の権威の一人である今井隆吉氏が(社)原子燃料政策研究会向けに作成した報告書[i]に詳しく記載されている。結論から言えば「R-Puは核兵器の製造には向いていないが、原爆製造に必要な量は兵器級プルトニウム(Weapon Grade Plutonium ; W-Pu)より僅かに25%多いだけなので、R-Puを原料とする核爆発装置を設計し使用することは可能である。」としている。言い換えるとR-Puは核兵器製造には不向きで爆発力は大幅に低下し、fizzle yieldと呼ばれる現象が起きる可能性が高いが、それでも1キロトンもの破壊力が発生させる可能性があり、潜在的危険性は無視しえないのである。
R-Puは自発核分裂を起こす確率が高い偶数番同位体(Pu-242、Pu-240、Pu-238等)の含有割合が高い。このため次に示す、核兵器製造には都合の悪い3つの特性を持っている。①発熱量が高くなる。(今井[注2] は「単位質量あたり6ないし10倍の熱を発生し、8kgの原子炉級プルトニウムは優に100ワット以上の熱を発生する。」としている。)②自発核分裂があるため、連鎖反応を早く始めてしまい、爆発力が計画より大幅に低下する。③Pu-241から半減期14年で発生するアメリシウム(Am)-241が、強い放射線を発生し、作業者の被ばく量を高める。
R-Puはこの3つの特性があるため、実際に核兵器を作る場合はPu-239など奇数番同位体Puが多く含まれるW-Puを使う。国連から厳しい制裁を受けている北朝鮮ですらW-Puを使っていることを見てもこのことは専門家にとっては常識なのである。
米国ですら北朝鮮での軽水炉建設を許容した
R-Puでは原爆製造が出来ないことを証明する何よりの根拠は1994年10月21日に米国と北朝鮮が締結した合意だ。この中で米国は北朝鮮がW-Puを容易に生産できる北朝鮮の電気出力5 MW黒鉛炉と、電気出力50 MWおよび200 MWの原子炉を閉鎖し、2003年までに2基の1000 MW軽水炉を建設する、としている。米国がもしR-Puで原爆製造の可能性があると考えていたら、北朝鮮に2基の1000 MW軽水炉を建設する筈がない。これが米国はR-Puでは原爆を製造できない、核拡散リスクは増大しないと考えている何よりの証拠である。
日本がどれだけR-Puを保有しても核の脅威にはならない
我が国が保有するR-Puが増えると頭の体操としての潜在的原爆製造能力は高まるかも知れないが、実際に日本が兵器としての原爆を保有するリスクはほとんど増えない。もし、日本が本当に核保有しようとしたら原子炉で核燃料を短期間だけ燃焼させた後、再処理してPu-239などの奇数番同位元素の割合を高くした、兵器級プルトニウム(W-Pu)を使うからである。日本がR-Puの保有量を増加させるのは、専ら将来高速炉を実用化させるときの燃料を備蓄するために過ぎない。もんじゅの廃炉で高速炉の開発は変更を余儀なくされるかもしれないが、日本がエネルギー自給率の向上を目指して高速炉開発を目指す立場には変わりがない。
[注1] IAEA「IAEA SAFEGUARDS GLOSSARY 2001 Edition」INTERNATIONAL NUCLEAR VERIFICATION SERIES No. 3,p.23,Table Ⅱ,2002.6
[注2] 今井隆吉「原子炉級プルトニウムと兵器級プルトニウム調査報告書」,(社)原子燃料政策研究会,2001.5
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