城南信金の知らない「リスク」の意味
けさの「朝まで生テレビ!」は、3・11から7年だったが、議論がまるで進歩していない、というより事故直後に比べてレベルが落ちて、話が堂々めぐりになっている。特に最近「原発ゼロ」業界に参入してきた城南信金の吉原毅氏は、エネルギー問題の基礎知識なしにトンチンカンな話を繰り返して辟易した。
彼が「太陽光エネルギーは4円/kWhぐらいになって原発より安い」というので、私が「それならFIT(固定価格買い取り)で21円/kWhで買い取る必要はない。マーケットで競争すればいいでしょ」と質問すると、しどろもどろになった(1:03~)。三浦瑠麗氏も、私が同じ質問をすると話をすりかえて逃げ回る。

固定価格買い取り制度(FIT)の太陽光買い取り価格(円/kWh)
この答は簡単だ。図のように全量買い取り価格が当初40円に設定されたのは、再生可能エネルギーの価格が火力や原子力(10円)より高かった(20~30円程度)からだ。今は買い取り価格は21円に下がったが、吉原氏のいうように太陽光の原価が4円だとすると、原発より安いのだからFITは必要ない。飯田哲也氏も認めたように、ドイツはFITをやめて市場にまかせる制度になった。原発がマーケットで淘汰されれば「原発ゼロ」運動なんか必要ない。
笑えるのは、吉原氏が「事故の確率に損害をかけてリスクを計算する」というので、私が「福島では3基の事故処理コストが21兆円だから、1基7兆円。500炉年に1回という事故の確率をかけたらいくらになるのか」と質問すると、何をきかれているのかわからない(1:53~)。これはリスクを計算して融資する信金の経営者としては信じられない。
事故処理コストに確率をかけたリスクは、資源エネルギー庁の原発コスト計算では「事故リスク対策費用」0.3円や「政策経費」1.3円として計上されている。kWh単価でいうと2円弱で、今のエネルギー政策に織り込まれている。
これが信金が融資するときも考えるリスク・プレミアムつまり金利である。損害保険もこういう確率計算で、原発にかかっている。その確率の計算さえ知らないで「事故の確率がゼロでなければ原発は即時ゼロだ」という城南資金は、倒産する確率のゼロでない中小企業への融資はすべてやめるべきだ。

関連記事
-
はじめに:なぜ気候モデルを問い直すのか? 地球温暖化対策の多くは、「将来の地球がどれほど気温上昇するか」というシミュレーションに依存している。その根拠となるのが、IPCCなどが採用する「気候モデル(GCM=General
-
アゴラ研究所の運営するエネルギーのバーチャルシンクタンク「GEPR」(グローバルエナジー・ポリシーリサーチ)はサイトを更新しました。
-
北極の氷がなくなって寂しそうなシロクマ君のこの写真、ご覧になったことがあると思います。 でもこの写真、なんとフェイクなのです! しかも、ネイチャーと並ぶ有名科学雑誌サイエンスに載ったものです! 2010年のことでした。
-
化石賞 日本はCOP26でも岸田首相が早々に化石賞を受賞して、日本の温暖化ガス排出量削減対策に批判が浴びせられた。とりわけ石炭火力発電に対して。しかし、日本の石炭火力技術は世界の最先端にある。この技術を世界の先進国のみな
-
地球温暖化に関する報道を見ていると、間違い、嘘、誇張がたいへんによく目につく。そしてその殆どは、簡単に入手できるデータで明瞭に否定できる。 例えば、シロクマは地球温暖化で絶滅する、と言われてきたが、じつは増えている。過去
-
はじめに 台湾政府は2017年1月、脱原発のために電気事業法に脱原発を規定する条項を盛り込んだ。 しかし、それに反発した原発推進を目指す若者が立ち上がって国民投票実施に持ち込み、2018年11月18日その国民投票に勝って
-
英国で面白いアンケートがあった。 脱炭素政策を支持しますか? との問いには、8つの政策すべてについて、多くの支持があった(図1)。飛行機に課金、ガス・石炭ボイラーの廃止、電気自動車の補助金、・・など。ラストの1つは肉と乳
-
気候研究者 木本 協司 地球温暖化は、たいていは「産業革命前」からの気温上昇を議論の対象にするのですが、じつはこのころは「小氷河期」にあたり、自然変動によって地球は寒かったという証拠がいくつもあります。また、長雨などの異
動画
アクセスランキング
- 24時間
- 週間
- 月間