トリチウム水を止めているのは福島県漁連だ
福島第一原発に貯蔵された「トリチウム水」をめぐって、経産省の有識者会議は30日、初めて公聴会を開いた。これはトリチウム貯蔵の限界が近づく中、それを流すための儀式だろう。公募で選ばれた14人が意見を表明したが、反対意見が多数を占め、福島県漁連の野崎会長は「海洋放出されれば福島の漁業は壊滅的な打撃となる」と反対した。
福島第一原発で1000基近いタンクに貯水されているトリチウム水は92万トン。それを毎日5000人が取水してタンクに貯水する作業をしている。他の原発ではトリチウムを環境基準以下に薄めて流しており、福島だけまったく流さないことには科学的根拠がない。
これに反対しているのは正体不明の「風評」ではなく、県漁連である。彼らはすでに漁業補償も得ているが、東電には重過失があったので、多少の追加出費はしょうがない。これ以上、無意味な作業で時間が空費されるよりましだ。カネで解決できるものはすればいい。それでも県漁連がいやだというなら流せばいい。法的には県漁連に拒否権はない。
問題は、誰が放出の意思決定をするのかだ。形式的な決定権は東電にあるが、その「親会社」である原子力損害賠償・廃炉等支援機構の経営権を握っているのは国である。原子力規制委員会の更田委員長は「原発内に貯水できるのはあと2、3年程度で、タンクの手当に2年以上かかる」といっており、今年中に結論を出さないと貯水タンクが足りなくなる。
東電をスケープゴートにして問題を先送りしていると、また大地震が来たら貯水タンクが決壊し、第二の福島第一原発事故が起こる可能性もある。まず安倍内閣が覚悟を決め、原子力規制委員会が東電に正式に勧告すべきだ。

関連記事
-
いろいろ話題を呼んでいるGX実行会議の事務局資料は、今までのエネ庁資料とは違って、政府の戦略が明確に書かれている。 新増設の鍵は「次世代革新炉」 その目玉は、岸田首相が「検討を指示」した原発の新増設である。「新増設」とい
-
GEPRはエネルギー問題をめぐる情報を集積し、日本と世界の市民がその問題の理解を深めるために活動する研究機関です。 福島の原発事故以来、放射能への健康への影響に不安を訴える人が日本で増えています。その不安を解消するために
-
アゴラ研究所の運営するエネルギーのバーチャルシンクタンクGEPRはサイトを更新しました。 1)ウランは充分あるか? エネルギー・コンサルタントの小野章昌氏の論考です。現在、ウランの可能利用量について、さまざまな議論が出て
-
米軍のイラク爆撃で、中東情勢が不安定になってきた。ホルムズ海峡が封鎖されると原油供給の80%が止まるが、日本のエネルギー供給はいまだにほとんどの原発が動かない「片肺」状態で大丈夫なのだろうか。 エネルギーは「正義」の問題
-
丸川珠代環境相は、除染の基準が「年間1ミリシーベルト以下」となっている点について、「何の科学的根拠もなく時の環境相(=民主党の細野豪志氏)が決めた」と発言したことを批判され、撤回と謝罪をしました。しかし、この発言は大きく間違っていません。除染をめぐるタブーの存在は危険です。
-
「原発、国民的合意を作れるか? — 学生シンポジウムから見たエネルギーの可能性」を GEPR編集部は提供します。日本エネルギー会議が主催した大学生によるシンポジウムの報告です。
-
東京大学公共政策大学院教授の関啓一郎氏に、「電力・通信融合:E&Cの時代へ — 通信は電力市場へ、電力は通信融合に攻め込めもう!」というコラムを寄稿いただきました。関教授は、総務官僚として日本の情報通信の自由化や政策作成にかかわったあとに、学会に転身しました。
-
原子力発電の先行きについて、コストが問題になっています。その資金を供給する金融界に、原発に反対する市民グループが意見を表明するようになっています。国際環境NGOのA SEED JAPANで活動する土谷和之さんに「原発への投融資をどう考えるか?--市民から金融機関への働きかけ」を寄稿いただきました。反原発運動というと、過激さなどが注目されがちです。しかし冷静な市民運動は、原発をめぐる議論の深化へ役立つかもしれません。
動画
アクセスランキング
- 24時間
- 週間
- 月間