炭素税で「炭素の配当」を実現する提言
アメリカでは「グリーン・ニューディール」をきっかけに、地球温暖化が次の大統領選挙の争点に浮上してきた。この問題には民主党が積極的で共和党が消極的だが、1月17日のWSJに掲載された炭素の配当についての経済学者の声明は、党派を超えた経済学者のコンセンサスといえよう。

1951年以降の地球の気温上昇(NASAウェブサイトより)
この提言は4人のFRB議長経験者と27人のノーベル賞受賞者を含む3508人によるもので、経済学者の政策提言としては史上最大である。これは炭素税を課税してその税収を国民に還元することを提言し、そのメリット(炭素の配当)はコストより大きいとしている。提言は次の5項目である(強調は引用者)。
- 炭素税は、必要な規模とスピードで炭素排出量を削減するもっとも費用対効果の高い方法である。 よく知られている市場の失敗を修正することによって、炭素税は強力な価格シグナルを送り、市場の目に見えない手を利用して経済主体を低炭素の未来に向かわせるだろう。
- 炭素税は、排出削減の目標が達成されるまで毎年増やし、税収中立にして政府の規模をめぐる議論を避けるべきである。 絶えず上昇する炭素価格は技術革新と大規模なインフラ開発を促進する。 それは炭素効率の高い財・サービスの普及も促進するだろう。
- 十分強力で徐々に増える炭素税は、効率の悪いさまざまな炭素規制の必要性を置き換えるだろう。 面倒な規制の代わりに価格シグナルを使用すると経済成長が促進され、企業がクリーンエネルギー技術に長期投資するために必要な規制の確実性が確保される。
- 炭素の漏出を防ぎ、アメリカの競争力を守るために、国境を越えた炭素調整システムを確立する必要がある。 このシステムは世界の競合企業よりエネルギー効率の高いアメリカ企業の競争力を強化するだろう。 それは他の国々にも同様の炭素価格を設定するインセンティブとなる。
- 増加する炭素税の公正さと政治的実行可能性を最大にするため、すべての税収は一律の払い戻しとしてアメリカ市民に直接返還されるべきである。 もっとも弱い立場にある人々を含む大多数のアメリカ人家族は、エネルギー価格の上昇で支払うより多くの「炭素の配当」を受け取り、経済的に利益を得るだろう。
温室効果ガスの削減方法についてはいろいろな議論があり、これまでは排出権取引が主流だったが、しくみが複雑でうまく行かない。他方で炭素税には負担増に対する企業の反対が強く、ほとんど実現していない。この提言は炭素税を国民にすべて還元することを明確にし、その政治的障害を取り除こうとするものだ。
炭素税のもう一つの問題は、炭素を使う工業製品の価格が上がって国際競争で不利になることだが、これについては輸出品を免税にし、輸入品に課税する国境調整を提案している。税率としては当初は40ドル/トン程度で、徐々に引き上げていくと想定している。
このような大規模な増税は政治的には非常に困難であり、気候変動に無関心なトランプ政権では不可能だが、民主党が政策として掲げれば次の政権で前進する可能性もある。少なくとも財源のあてのないグリーン・ニューディールよりは現実的だろう。
関連記事
-
英国のエネルギー政策をめぐる政府部内の対立は、オズボーン財務大臣対デイビー・エネルギー気候変動大臣の対立のみならず、連立与党である保守党対自民党の対立でもあった。
-
「脱炭素社会の未来像 カギを握る”水素エネルギー”」と題されたシンポジウムが開かれた。この様子をNHKが放送したので、議論の様子の概略をつかむことができた。実際は2時間以上開かれたようだが、放送で
-
福島原発事故をめぐり、報告書が出ています。政府、国会、民間の独立調査委員会、経営コンサルトの大前研一氏、東京電力などが作成しました。これらを東京工業大学助教の澤田哲生氏が分析しました。
-
補助金で値下げし節約を要請する高市政権の迷走するエネルギー政策 イラン情勢の緊迫化による原油の供給不安を受け、5月の大型連休明けにも国民にガソリンなどの節約や節電を要請する案が政府内で浮上している。ホルムズ海峡の事実上の
-
東洋経済オンラインに掲載された細野豪志氏の「電力危機に陥る日本「原発再稼働」の議論が必要だ」という記事は正論だが、肝心のところで間違っている。彼はこう書く。 原発の再稼働の是非を判断する権限は原子力規制委員会にある。原子
-
各社のカーボンニュートラル宣言のリリース文を見ていると、2030年時点で電力由来のCO2排出量が46%近く減ることを見込んでいる企業が散見されます。 先日のアゴラで、国の2030年目標は絶望的なのでこれに頼る中期計画が経
-
本稿では、11月30日に開催されたOPEC総会での原油生産合意と12月10日に開催されたOPECと非OPEC産油国との会合での減産合意を受け、2017年の原油価格動向を考えてみたい。
-
CO2排出を2050年までに「ネットゼロ」にするという日本政府の「グリーン成長戦略」には、まったくコストが書いてない。書けないのだ。まともに計算すると、毎年数十兆円のコストがかかり、企業は採算がとれない。それを実施するに
動画
アクセスランキング
- 24時間
- 週間
- 月間















