炭素税で「炭素の配当」を実現する提言

2019年03月06日 10:00
アバター画像
アゴラ研究所所長

アメリカでは「グリーン・ニューディール」をきっかけに、地球温暖化が次の大統領選挙の争点に浮上してきた。この問題には民主党が積極的で共和党が消極的だが、1月17日のWSJに掲載された炭素の配当についての経済学者の声明は、党派を超えた経済学者のコンセンサスといえよう。

1951年以降の地球の気温上昇(NASAウェブサイトより)

1951年以降の地球の気温上昇(NASAウェブサイトより)

この提言は4人のFRB議長経験者と27人のノーベル賞受賞者を含む3508人によるもので、経済学者の政策提言としては史上最大である。これは炭素税を課税してその税収を国民に還元することを提言し、そのメリット(炭素の配当)はコストより大きいとしている。提言は次の5項目である(強調は引用者)。

  1. 炭素税は、必要な規模とスピードで炭素排出量を削減するもっとも費用対効果の高い方法である。 よく知られている市場の失敗を修正することによって、炭素税は強力な価格シグナルを送り、市場の目に見えない手を利用して経済主体を低炭素の未来に向かわせるだろう。
  2. 炭素税は、排出削減の目標が達成されるまで毎年増やし、税収中立にして政府の規模をめぐる議論を避けるべきである。 絶えず上昇する炭素価格は技術革新と大規模なインフラ開発を促進する。 それは炭素効率の高い財・サービスの普及も促進するだろう。
  3. 十分強力で徐々に増える炭素税は、効率の悪いさまざまな炭素規制の必要性を置き換えるだろう。 面倒な規制の代わりに価格シグナルを使用すると経済成長が促進され、企業がクリーンエネルギー技術に長期投資するために必要な規制の確実性が確保される。
  4. 炭素の漏出を防ぎ、アメリカの競争力を守るために、国境を越えた炭素調整システムを確立する必要がある。 このシステムは世界の競合企業よりエネルギー効率の高いアメリカ企業の競争力を強化するだろう。 それは他の国々にも同様の炭素価格を設定するインセンティブとなる。
  5. 増加する炭素税の公正さと政治的実行可能性を最大にするため、すべての税収は一律の払い戻しとしてアメリカ市民に直接返還されるべきである。 もっとも弱い立場にある人々を含む大多数のアメリカ人家族は、エネルギー価格の上昇で支払うより多くの「炭素の配当」を受け取り、経済的に利益を得るだろう。

温室効果ガスの削減方法についてはいろいろな議論があり、これまでは排出権取引が主流だったが、しくみが複雑でうまく行かない。他方で炭素税には負担増に対する企業の反対が強く、ほとんど実現していない。この提言は炭素税を国民にすべて還元することを明確にし、その政治的障害を取り除こうとするものだ。

炭素税のもう一つの問題は、炭素を使う工業製品の価格が上がって国際競争で不利になることだが、これについては輸出品を免税にし、輸入品に課税する国境調整を提案している。税率としては当初は40ドル/トン程度で、徐々に引き上げていくと想定している。

このような大規模な増税は政治的には非常に困難であり、気候変動に無関心なトランプ政権では不可能だが、民主党が政策として掲げれば次の政権で前進する可能性もある。少なくとも財源のあてのないグリーン・ニューディールよりは現実的だろう。

This page as PDF

関連記事

  • はじめに 原子力発電は準国産エネルギーとされているが、周知のとおり日本にはウランがない。それでも「準国産」として扱われるのはなぜなのかを論ずる。 原子力発電の燃料は火力発電の100万分の1 原子力発電の燃料が準国産とされ
  • 元静岡大学工学部化学バイオ工学科 松田 智 前稿で、現代の諸問題について現役の学者・研究者からの発言が少ないことに触れた。その理由の一つに「同調圧力」の存在を指摘したが、大学が抱えている問題はそれだけではない。エネルギー
  • IPCCの報告がこの8月に出た。これは第1部会報告と呼ばれるもので、地球温暖化の科学的知見についてまとめたものだ。何度かに分けて、気になった論点をまとめてゆこう。 正直言ってこれまでの報告とあまり変わり映えのしない今回の
  • 都知事選では、原発を争点にすべきではないとの批判がある。まさにそうだ。都知事がエネルギー政策全体に責任を持てないし、立地自治体の首長でもないから、電力会社との安全協定上の意見も言えない。東電の株主だと言っても、原発は他の電力会社もやっている。
  • まもなく3・11から10年になる。本書は当時、民主党政権の環境相として福島第一原発事故に対応した細野豪志氏の総括である。当時の政権の誤りを反省し、今も続くその悪影響を考えている。 本人ツイッターより あの事故が民主党政権
  • 福島第一原発の「廃炉資金」積み立てを東京電力に義務づける、原子力損害賠償・廃炉等支援機構法の改正案が2月7日、閣議決定された。これは原発の圧力容器の中に残っているデブリと呼ばれる溶けた核燃料を2020年代に取り出すことを
  • 昨年夏からこの春にかけて、IPCCの第6次報告が出そろった(第1部会:気候の科学、第2部会:環境影響、第3部会:排出削減)。 何度かに分けて、気になった論点をまとめていこう。 縄文時代は「縄文海進期」と言われ、日本では今
  • GEPRはエネルギー問題をめぐる情報を集積し、日本と世界の市民がその問題の理解を深めるために活動する研究機関です。 福島の原発事故以来、放射能への健康への影響に不安を訴える人が日本で増えています。その不安を解消するために

アクセスランキング

  • 24時間
  • 週間
  • 月間

過去の記事

ページの先頭に戻る↑