トリチウムの処理は韓国に学べ

2019年09月03日 18:00
アバター画像
アゴラ研究所所長

日韓関係の悪化が、放射能の問題に波及してきた。 このところ立て続けに韓国政府が、日本の放射能について問題提起している。8月だけでも、次のようなものが挙げられる。

  • 8月8日 韓国環境部が、ほぼ全量を日本から輸入する石炭灰の放射性物質の検査強化を発表
  • 16日 韓国環境部が、日本からのリサイクル用廃棄物を輸入する際、放射性物質と重金属の検査を強化することを発表
  • 19日 韓国外交部がソウルにある日本大使館の公使を呼び、福島第一原発のトリチウムなどを含む処理水について説明を要求
  • 20日 韓国オリンピック委員会が、東京オリンピック選手村の食事に福島の食材を使うことに懸念を表明
  • 21日 韓国環境部が、日本から食品を輸入する際の放射性物質の検査について、17品目の検査を強化すると発表

韓国のねらいは明白である。 日本が半導体材料の輸出管理を強化したのに対して、韓国は通商問題で有効な反撃のカードを持っていないため、日本の弱点である放射能の問題をねらっているのだ。

これは世界貿易機関(WTO)の成功体験があるからだろう。今年4月、WTO上級委員会は、福島県の水産物輸入を規制している韓国の措置を不当とした一審判断を取り消し、科学的には安全性に問題ないとしながら、韓国の輸入規制を容認した。

このパターンは、慰安婦問題でアメリカ議会や国連人権理事会が「性奴隷」を非難する決議をしたのと同じだ。韓国が「女性の人権を守れ」という(それ自体は正しい)スローガンを英語で繰り返すと、事実と違っていても英語圏では通ってしまう。

そのとき外務省は「今まで十分おわびした」と反論し、事実誤認に反論しなかった。今回の処理水の問題でも「現況や今後の処理計画について国際社会に誠実に説明する」という表現を繰り返し、韓国に正面きって反論しない。

これは放射能が、国内でもタブーになっているからだ。たとえば柏崎刈羽原発6・7号機は、原子力規制委員会の OK が出たのに、地元の合意が得られないため、いまだに再稼働できない。こういう法令を超える過剰なコンセンサスを求めることが日本人の弱点だということを、韓国は知っているのだ。

しかし経産省の調べによると、世界中の原発からトリチウムは排出されており、韓国の月城原発や古里原発からも毎年、数十兆ベクレルの処理水が排出されている。

福島第一原発では、1000基のタンクに100万トン近い処理水が貯まっているが、このまま貯水を続けると2022年には敷地が足りなくなる。この解決法は簡単である。韓国もやっているように、トリチウムを環境基準以下に薄めて流せばいいのだ。

国内の過剰なコンセンサスを外交に持ち込むことが、日本が韓国に負け続ける原因である。安倍政権は今回の問題を契機に、科学的データと法令にもとづいて処理水を海洋放出し、その安全性を世界にアピールすべきだ。

This page as PDF

関連記事

  • 集中豪雨に続く連日の猛暑で「地球温暖化を止めないと大変だ」という話がマスコミによく出てくるようになった。しかし埼玉県熊谷市で41.1℃を記録した原因は、地球全体の温暖化ではなく、盆地に固有の地形だ。東京が暑い原因も大部分
  • 前回に続き、米国マンハッタン研究所の公開論文「エネルギー転換は幻想だ」において、マーク・ミルズが分かり易い図を発表しているので簡単に紹介しよう。 どの図も独自データではなく国際機関などの公開の文献に基づいている。 205
  • 電力・電機メーカーの技術者や研究機関、学者などのOBで構成する日本原子力シニアネットワーク連絡会は3日、「原子力は信頼を回復できるか?」をテーマとしたシンポジウムを都内で開いた。ここでJR東海の葛西敬之会長が基調講演を行い、電力会社の経営状態への懸念を示した上で、「原発再稼動が必要」との考えを述べた。
  • 福島県内で「震災関連死」と認定された死者数は、県の調べで8月末時点に1539人に上り、地震や津波による直接死者数に迫っている。宮城県の869人や岩手県の413人に比べ福島県の死者数は突出している。除染の遅れによる避難生活の長期化や、将来が見通せないことから来るストレスなどの悪影響がきわめて深刻だ。現在でもなお、14万人を超す避難住民を故郷に戻すことは喫緊の課題だが、それを阻んでいるのが「1mSvの呪縛」だ。「年間1mSv以下でないと安全ではない」との認識が社会的に広く浸透してしまっている。
  • 近年における科学・技術の急速な進歩は、人類の発展に大きな寄与をもたらした一方、その危険性をも露わにした。典型的な例は、原子核物理学の進歩から生じた核兵器であり、人間の頭脳の代わりと期待されたコンピュータの発展は、AI兵器
  • 2025年初頭の米国によるパリ協定離脱表明を受け、欧州委員会(EU)は当初「気候変動対策を堅持する」との姿勢を示していた。しかし現在、欧州は主要な気候政策の緩和へと舵を切り始めている。 これについて、ニューヨーク・タイム
  • アゴラ研究所の運営するエネルギーのバーチャルシンクタンクであるGEPR(グローバルエナジー・ポリシーリサーチ)はサイトを更新しました。
  • 政府は、7月から9月までの3カ月間という長期にわたり、企業や家庭に大幅な節電を求める電力需要対策を決定しました。大飯原子力発電所3、4号機の再稼働が認められないがゆえに過酷な状況に追い込まれる関西電力では、2010年夏のピーク時に比べて15%もの節電を強いられることになります。電力使用制限令の発令は回避されたものの、関西地域の企業活動や市民生活、消費に大きなマイナス要因です。ただでさえ弱っている関西経済をさらに痛めつけることになりかねません。

アクセスランキング

  • 24時間
  • 週間
  • 月間

過去の記事

ページの先頭に戻る↑