地球温暖化の被害予測が「賞味期限切れ」になっている

2020年12月12日 17:00
アバター画像
キヤノングローバル戦略研究所研究主幹

地球温暖化というと、猛暑になる!など、おどろおどろしい予測が出回っている。

だがその多くは、非現実的に高いCO2排出を前提としている。

この点は以前からも指摘されていたけれども、今般、米国のピールキーらが詳しく報告したので、紹介しよう。(英文解説論文

温暖化問題の被害予測で用いられているCO2排出量のシナリオの多くは、すでに現実から大幅に乖離しており、今後数十年でさらに外れてゆく(図)。

図の横軸は年で、縦軸は世界のCO2排出量である。灰色になっている部分は、国連気候変動に関する政府間パネル(Intergovernmental Panel on Climate Change:IPCC)が2013年に報告した第5次評価で用いられた排出量シナリオの範囲である。No Climate Policies とあるのは、政策的にCO2を削減しないシナリオについてのみ表示していることを意味する。

これに対して、2019年に発表された複数の排出量予測が示してある: 。IEA(世界エネルギー機関)、EIA(米国エネルギー省)、英米の国際エネルギー企業であるBP、Exxonmobil。何れもこの業界では代表的なものだ。

見て取れることは、2019年に発表された予測は、何れもIPCCの予測範囲の下限に位置することだ。

IPCCのシナリオが上振れしている理由は、詳しくは論文に書いてあるが、第1に開発途上国における経済成長の想定が高すぎたこと、第2に石炭利用の劇的な拡大を想定していたことによる。

しかもこの2019年の予測はコロナ禍以前のものなので、実際にはもっとCO2排出は低くなるだろう。このように、IPCCの高いCO2排出シナリオは既に「賞味期限切れ」になっており、現実と乖離している。

それにもかかわらず、今もなお、非現実的に高いCO2排出を想定して被害を予測した論文が多数発表されている。

学術界というのはなかなか小回りが利かないことがある。過去の論文を引用するときに、じつはそれは既に誤りと判明している、ということはしばしば起きる。

だが、多大な費用が掛かる温暖化対策についての意思決定をしようというときに、現実離れしたCO2排出シナリオを使ったのでは、判断を誤る。

地球温暖化の被害の評価研究を見るときに、気を付けねばならない点である。

This page as PDF
アバター画像
キヤノングローバル戦略研究所研究主幹

関連記事

  • 「原発事故に直面した福島のガンの増加の可能性は、仮にあるとして、0.0002%?0.0000の間。それなのに人々は避難を強制され、毎日表示されるガイガーカウンターの数値に囲まれ生活している」。ナレーションの後に原発と、福島の人々の姿、そして除染の光景が示される。これは必要なことなのだろうか
  • 立春が過ぎ、「光の春」を実感できる季節になってきた。これから梅雨までの間は太陽光発電が最も活躍する季節となるが、再エネ導入量の拡大とともに再エネの出力制御を行う頻度が多くなっていることが問題となっている。 2月6日に行わ
  • 欧州のエネルギー環境関係者とエネルギー転換について話をすると、判で押したように「気候変動に対応するためにはグリーンエネルギーが必要だ。再生可能エネルギーを中心にエネルギー転換を行えば産業界も家庭部門も低廉なエネルギー価格
  • 今年5月、全米科学アカデミーは、「遺伝子組み換え(GM)作物は安全だ」という調査結果を発表しました。これは過去20年の約900件の研究をもとにしたもので、長いあいだ論争になっていたGMの安全性に結論が出たわけです。 遺伝
  • 日本でも縄文時代は今より暖かかったけれども、貝塚で出土する骨を見ている限り、食べている魚の種類は今とそれほど変わらなかったようだ。 けれども北極圏ではもっと極端に暖かくて、なんとブリや造礁サンゴまであったという。現在では
  • トランプ大統領の就任演説:新しい黄金時代の幕開け トランプ氏の大統領就任式が、現地時間1月20日に執り行われた。その後の就任演説の冒頭で、トランプ大統領はアメリカ国民に感謝の意を表明した上で、 The golden ag
  • 福島第一原発の南方20キロにある楢葉町に出されていた避難指示が9月5日午前0時に解除することが原子力災害現地対策本部から発表された。楢葉町は自宅のある富岡町の隣町で、私にも帰還の希望が見えてきた。
  • アメリカでは「グリーン・ニューディール」をきっかけに、地球温暖化が次の大統領選挙の争点に浮上してきた。この問題には民主党が積極的で共和党が消極的だが、1月17日のWSJに掲載された炭素の配当についての経済学者の声明は、党

アクセスランキング

  • 24時間
  • 週間
  • 月間

過去の記事

ページの先頭に戻る↑