地球温暖化の被害予測が「賞味期限切れ」になっている
地球温暖化というと、猛暑になる!など、おどろおどろしい予測が出回っている。
だがその多くは、非現実的に高いCO2排出を前提としている。
この点は以前からも指摘されていたけれども、今般、米国のピールキーらが詳しく報告したので、紹介しよう。(英文解説、論文)
温暖化問題の被害予測で用いられているCO2排出量のシナリオの多くは、すでに現実から大幅に乖離しており、今後数十年でさらに外れてゆく(図)。
図の横軸は年で、縦軸は世界のCO2排出量である。灰色になっている部分は、国連気候変動に関する政府間パネル(Intergovernmental Panel on Climate Change:IPCC)が2013年に報告した第5次評価で用いられた排出量シナリオの範囲である。No Climate Policies とあるのは、政策的にCO2を削減しないシナリオについてのみ表示していることを意味する。
これに対して、2019年に発表された複数の排出量予測が示してある: 。IEA(世界エネルギー機関)、EIA(米国エネルギー省)、英米の国際エネルギー企業であるBP、Exxonmobil。何れもこの業界では代表的なものだ。
見て取れることは、2019年に発表された予測は、何れもIPCCの予測範囲の下限に位置することだ。
IPCCのシナリオが上振れしている理由は、詳しくは論文に書いてあるが、第1に開発途上国における経済成長の想定が高すぎたこと、第2に石炭利用の劇的な拡大を想定していたことによる。
しかもこの2019年の予測はコロナ禍以前のものなので、実際にはもっとCO2排出は低くなるだろう。このように、IPCCの高いCO2排出シナリオは既に「賞味期限切れ」になっており、現実と乖離している。
それにもかかわらず、今もなお、非現実的に高いCO2排出を想定して被害を予測した論文が多数発表されている。
学術界というのはなかなか小回りが利かないことがある。過去の論文を引用するときに、じつはそれは既に誤りと判明している、ということはしばしば起きる。
だが、多大な費用が掛かる温暖化対策についての意思決定をしようというときに、現実離れしたCO2排出シナリオを使ったのでは、判断を誤る。
地球温暖化の被害の評価研究を見るときに、気を付けねばならない点である。

関連記事
-
東日本大震災で事故を起こした東京電力福島第一原子力発電所を5月24日に取材した。危機的な状況との印象が社会に広がったままだ。ところが今では現地は片付けられ放射線量も低下して、平日は6000人が粛々と安全に働く巨大な工事現場となっていた。「危機対応」という修羅場から、計画を立ててそれを実行する「平常作業」の場に移りつつある。そして放射性物質がさらに拡散する可能性は減っている。大きな危機は去ったのだ。
-
「リスクコミュニケーション」という考えが広がっています。これは健康への影響が心配される事柄について、社会で適切に管理していくために、企業や行政、専門家、市民が情報を共有し、相互に意見交換して合意を形成していくことを言います。
-
「もしトランプが」大統領になったらどうなるか。よく予測不能などと言われるが、ことエネルギー環境政策については、はっきりしている。 トランプ公式ホームページに公約が書いてある。 邦訳すると、以下の通りだ。 ドナルド・J・ト
-
福島第一原子力発電所の事故に伴う放射性物質の流出により、食品の放射能汚染がにわかにクローズアップされている。事故から10日あまりたった3月23日に、東京都葛飾区にある金町浄水場で1kgあたり210ベクレルの放射性ヨウ素が検出されたことが公になるや、首都圏のスーパーマーケットに置いてあったミネラルウォーターがあっという間に売り切れる事態に発展した。
-
前回に続いてルパート・ダーウオールらによる国際エネルギー機関(IEA)の脱炭素シナリオ(Net Zero Scenario, NZE)批判の論文からの紹介。 A Critical Assessment of the IE
-
菅首相の16日の訪米における主要議題は中国の人権・領土問題になり、日本は厳しい対応を迫られると見られる。バイデン政権はCO2も重視しているが、前回述べた様に、数値目標の空約束はすべきでない。それよりも、日米は共有すべき重
-
福島の原発事故以来、放射能への健康への影響、とくに飲食による内部被曝に不安を訴える人が増えています。現状では、ほとんど問題にする必要はありません。
-
札幌医科大学教授(放射線防護学)の高田純博士は、福島復興のためび、その専門知識を提供し、計測や防護のために活動しています。その取り組みに、GEPRは深い敬意を持ちます。その高田教授に、福島の現状、また復興をめぐる取り組みを紹介いただきました。
動画
アクセスランキング
- 24時間
- 週間
- 月間