ブラックアウトの危機!「電力緊急事態宣言」を出すべきだ
電気が足りません。

電力緊急事態 理由その1 寒波による電力需要増大
理由は二つ。
まず寒波で電力需要が伸びていること。この寒さですし、日本海側は雪が積もり、太陽光の多くが何日間も(何週間も)“戦力外”です。
こうしたkW(発電設備の量)不足は、電力需要のピーク時(冬のこの時期は人々が灯りをつけ、食事の支度を始め、さらに太陽光発電が発電しなくなる夕方の時間帯)の電力需要を抑制できればしのげます。
確実に抑制できなければなりませんので(電力という財の特殊性は、需要と供給のバランスが崩れると一部の人が使えなくなるのではなく、全体が崩壊することになる。2018年9月に北海道で起きた”ブラックアウト”です)、工場などの大口顧客に電力使用を止めてもらう(その代わりに電気代は通年でかなり割り引く)ことなどが必要ですが、何度もお願いすると工場の生産計画がまるっきり狂ってしまうので留意が必要です。ただ、そうやって抑制すればしのぐことはできます。
電力緊急事態 理由その2 燃料不足
今回問題なのは、二つ目の理由。LNG(液化天然ガス)の不足です。
LNGの調達不足が全国的に深刻化している原因は、もう少し時間が経ってから分析する必要がありますが、中国での寒波や炭鉱事故、中国と豪州の政治問題から中国が豪州産石炭の輸入抑制措置を取り、その代替として天然ガス依存が高まったこと、韓国でも公害対策として石炭火力を16基停止させて天然ガスの利用が増えたなどの事象が重なり、東アジアのマーケットが影響を受けたこともあるのだろうと推測しています。
豪州やカタールなど天然ガスの産地でトラブルがあったという話も仄聞しています。
そういえば東日本大震災の後、「日本のLNG調達は長期契約で割高な買い物をしている」と批判を受けました。電力会社が「殿様の買い物」をしているという批判だったのですが、そうやって長期契約を減らしたことが影響している可能性もあるかもしれません(ここは私の推測にすぎません。燃料の契約については情報管理が徹底しているので)。
「こういう事態に備えて備蓄をしておけばよかったではないか」と思われるかもしれませんが、天然ガスは-162℃という超低温で液体にして輸送・貯蔵するので、低温冷却するタンクを大量にはもてませんし、LNGは長期保存には向かないのです(長くても1-2カ月)。
石油は半年分くらい国内備蓄がありますが(オイルショックの後にできた石油備蓄法という法律による)、LNGは2週間分程度しか国内に在庫がないのです。
しかもLNG船から陸にLNGを荷揚げするときには、太さ数十センチのパイプを接続します。冬の荒海でそのパイプを接続するなど至難の業で、荒れているときは荷揚げをできない日も当然あります。冬の日本海側でこの作業を安定的にできるなんて思っちゃいけません。
欧州では、域内に天然ガスのパイプラインが走っていて、ガスをガスのままやり取りしています。地続きの国は安価に安定的に(とはいえ、欧州もロシア産の天然ガス依存度を高めて、痛い目を見たことはありましたが)調達できるのですが、日本は液化して輸送してまた温度を上げてガスに戻して使うということをしないといけないので、コストも安定供給リスクも他国と同等に語れないのです。それなのに再エネ比率など含めて、
LNG調達のリードタイムに、通常2カ月程度は必要でしょうから、早く国民に周知して、電力の節約に努めてもらわねば、燃料が底をつくことになりかねません。
この危機を報じているメディアは一部ですし、いま各電力会社のHPを見たのですが、どの会社も節電のお願いを出していません。当初は、私の見落としに違いないと思ったのですが、見つけられない・・。異様です。
この危機は深刻になってからでは遅いのですから、一刻も早く国民の協力を仰ぐべきです。「コロナ危機でただでさえ大変なんだから、面倒起こさんとってくれ」という政治家あるいは官僚の要請でもあるのであれば、そんなのぶん殴ってでも危機を正確に伝えるべきです。そういうことをいう人が、いざという時に責任をとってくれた試しなどありません。
こういう危機に対応するのは
「原発無くても電気は足りる」と仰る原発反対の方たちでもなく
「CO2を大量に出す石炭火力をまだやってるんですか?!」と仰る温暖化対策に熱心な方たちでもなく
「既存電力は腐ってるから自由化して競争させなきゃだめだ」と仰って電力システム改革をした政治家や官僚の方たちでもなく
「石炭火力の比率が高い電力会社からは投資を引き上げる」と仰る金融関係の方たちでもありません。
そんなの古いと言われながらもエネルギーミックスの必要性を訴えていた、電力会社の人たちです。そして何かあった時に責任を押し付けられるのも、その人たち。
私も家の暖房を抑え、ダウンジャケットを羽織っています。電力危機を遠ざけることができるように、皆さんも身の回りでできる節電にご協力をお願いします・・。
*なお、既存電力に腐った部分がたくさんあるのは否定しません。中にいたからこそ、私自身が批判的に見ています。ただ、それと安定供給を誰が担うのか、どうやって担える制度・体制を作るのかという話は別です。
*念のため正確に申し上げると、政府(規制機関)が出す権限を持っているのは「電力緊急事態宣言」ではなく「節電要請」というものです。
編集部より:この記事は、国際環境経済研究所理事・主席研究員の竹内純子氏のnote 2020年1月8日の記事に、竹内氏が加筆したものを転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方はこちらをご覧ください。
関連記事
-
先週の「言論アリーナ」は、竹内純子さんにエネルギー産業の長期ビジョンの話をうかがった。電力会社は原発再稼動など目の前の問題で精一杯だが、2050年に電力産業がどうなっているかという「長期均衡」から逆算すると、別のストーリ
-
前回紹介したビル・ゲイツ氏の変節は日本国内でもよく知られています。他方、実はゲイツ氏よりも世界中の産業界における脱炭素・ESG推進に対して多大な影響を及ぼしてきた代表格である人物も変節したのでご紹介します。 カナダのマー
-
EUの行政執行機関であるヨーロッパ委員会は7月14日、新たな包括的気候変動対策の案を発表した。これは、2030年までに温室効果ガスの排出量を1990年と比べて55%削減し、2050年までに脱炭素(=実質ゼロ、ネットゼロ)
-
(GEPR編集部より)GEPRは民間有識者などからなるスマートメーター研究会(村上憲郎代表)とともに、スマートグリッドの研究を進めている。東京電力がスマートメーターを今年度300万台、今後5年で1700万台発注のための意見を募集した。(同社ホームページ)同研究会の意見書を公開する。また一般読者の方も、これに意見がある場合に、ご一報いただきたい。連絡先は info@gepr.org この意見書についての解説記事
-
我が国では、脱炭素政策の柱の一つとして2035年以降の車両の電動化が謳われ、メディアでは「日本はEV化に遅れている」などといった報道が行われている。 自動車大国である米国の現状はどうなっているのか? 米国の新排出抑制基準
-
ウクライナの戦争は、地政学上の再編をもたらした。ロシアは中国との結びつきを強めた。対ロシア制裁に加わるようにトランプに関税で威嚇されたインドは、かえってロシアとの結びつきを強めてしまった。 この地政学上の再編は、エネルギ
-
2030年の電源構成(エネルギーミックス)について現時点で予断はできない。だが、どのようなミックスになるにせよ、ヒートポンプ・EVを初めとした電気利用技術は温暖化対策の一つとして有力である。さらに、2030年以降といった、より長い時間軸で考えると、電力の低炭素化は後戻りしないであろうから、電力化率(=最終エネルギーに占める電力の割合)の上昇はますます重要な手段となる。
-
原発事故当時、東京電力の福島第1原発所長だった、吉田昌郎氏が7月9日に亡くなった。ご冥福をお祈りします。GEPRでは、吉田氏にインタビューしたジャーナリスト門田隆将氏の講演。
動画
アクセスランキング
- 24時間
- 週間
- 月間















