日本も中国製太陽光発電パネルの輸入を止めるべきだ

dongfang zhao/iStock
米国バイデン政権は24日、ウイグルでの強制労働に関与した制裁として、中国企業5社の製品の輸入を禁止すると発表した(ホワイトハウス発表)。
対象となったのは、
(A)Hoshine Silicon Industry (Shanshan)
(B)Xinjiang Daqo New Energy
(C)Xinjiang East Hope Nonferrous Metals
(D)Xinjiang GCL New Energy Material Technology
(E)XPCC(Xinjiang Production and Construction Corps)
である。(注:Xinjiangは新疆のローマ字表記でシンジアンと読む)。
どのような会社か、説明しよう。
太陽光発電のパネルは、以下の3段階で製造される。
- 【金属精錬】 石英を採掘して高温で精錬しシリコン金属にする
- 【結晶製造】シリコン金属を高温で融解し、再結晶させて結晶シリコンを造る
- 【パネル製造】結晶シリコンをスライスし、化学処理して電極等を取付けた後、ガラス板で挟んでパネルを造る
このうち1. の金属精錬のダントツの最大手が (A)のHoshineであり、2. の結晶製造の大手が、(B) Daqo(4位)、(D) GCL(2位)、(C)East Hope(6位)である。
(E) XPCCは綿製品など様々な事業を手掛ける巨大企業で、強制労働に関与しているとされている。
中国には多くのパネル製造メーカーがあるが、それは上記企業から金属シリコン・結晶シリコンの供給を受けて成り立っている(図1)。

図1 Hoshineからシリコン金属供給を受けている企業。ヘレナ・ケネディーセンター報告による
図中、左側が金属精錬企業のHoshineであり、中央がシリコン製造企業のDaqo、GCLなどであり、右側がパネル製造メーカーである。
世界のソーラーパネルメーカーのランキングは表1のようになっているが、上位1位から5位までのLongi、Jinko、JA、Trina、Canadian Solarの全てがHoshineから供給を受けている。

表1 世界のソーラーパネルメーカーのランキング。ヘレナ・ケネディーセンター報告による
今回輸入禁止になるのは、「Hoshineによるシリコン供給を受けている製品、およびDaqo、GCL、East Hope、XPCCの製品」となっている。
これにより、中国製の太陽光パネルの大半が輸入禁止され、米国税関を通れなくなるだろう。
この措置に対して、中国は強く反発し、何等かの対抗措置を取るだろう。
その一方で、この措置自体の米国の太陽光発電市場への影響は、それほど大きくないとみられる。というのは、米国は以前から中国製太陽光パネルに対して、不公正貿易慣行を理由に高い関税を課しており、そのために中国製品はほとんど輸入されていなかったからだ。だがこれ故に、米国の太陽光パネルは中国製に比べて2倍の値段になっているという(CSIS報告)。
今回の措置で影響が大きいのは、むしろ日本など、中国製の太陽光パネルを大規模に輸入している国である。
図2は結晶シリコンの世界市場シェアである。何と世界の45%がウイグル地区のものだ。残りは30%がウイグル以外の中国であり、中国は合計で75%となっている。他の国々は全て合わせても25%だ。

図2 結晶シリコンの世界市場シェア。ヘレナ・ケネディーセンター報告による
日本も米国に続いて中国の太陽光パネルを輸入禁止にすべきだろうか。
日本の太陽光発電パネルはいまや8割が海外生産になっている(太陽光発電協会)。この中には中国製品が多く入っているだろう。
米国並みの中国製品の輸入禁止措置を日本も採れば、太陽光発電の導入には急ブレーキがかかり、価格高騰も避けられない。
だがそれでも、日本も断固とした措置を速やかに取るべきだ、と筆者は思う。
太陽光発電を導入している人々、ないしはその費用を負担している人々は、それが環境のため、ひいては人のために良いことだと思っている。
ところがそれが、強制労働を助長し、人権を侵害しているというのでは、本末転倒だ。
このままでは、あちこちに設置された太陽光発電パネルを見るたびに、おぞましい強制労働やジェノサイドを思い出さなければならないことになる。
そのような事態を、日本政府は許すべきだろうか。
■

関連記事
-
昨年夏からこの春にかけて、IPCCの第6次報告が出そろった(第1部会:気候の科学、第2部会:環境影響、第3部会:排出削減)。 何度かに分けて、気になった論点をまとめていこう。 縄文時代は「縄文海進期」と言われ、日本では今
-
IPCCの報告がこの8月に出た。これは第1部会報告と呼ばれるもので、地球温暖化の科学的知見についてまとめたものだ。何度かに分けて、気になった論点をまとめてゆこう。 論点⑫に「IPCCの気候モデルは過去の気温上昇を再現でき
-
田中 雄三 国際エネルギー機関(IEA)が公表した、世界のCO2排出量を実質ゼロとするIEAロードマップ(以下IEA-NZEと略)は高い関心を集めています。しかし、必要なのは世界のロードマップではなく、日本のロードマップ
-
ろくにデータも分析せずに、温暖化のせいで大雨が激甚化していると騒ぎ立てるニュースが多いが、まじめに統計的に検定するとどうなのだろう、とずっと思っていた。 国交省の資料を見ていたら、最近の海外論文でよく使われている「Man
-
国連総会の一般討論演説において、中国の習近平国家主席は「2060 年迄にCO2 排出量をゼロ」ように努める、と述べた。これは孤立気味であった国際社会へのアピールであるのみならず、日米欧を分断し、弱体化させるという地政学的
-
「必要なエネルギーを安く、大量に、安全に使えるようにするにはどうすればよいのか」。エネルギー問題では、このような全体像を考える問いが必要だ。それなのに論点の一つにすぎない原発の是非にばかり関心が向く。そして原子力規制委員会は原発の安全を考える際に、考慮の対象の一つにすぎない活断層のみに注目する規制を進めている。部分ごとしか見ない、最近のエネルギー政策の議論の姿は適切なのだろうか。
-
痛ましい事故が発生しました。 風力発電のブレード落下で死亡事故:原発報道とのあまりの違いに疑問の声 2日午前10時15分ごろ、秋田市の新屋海浜公園近くで、風力発電のプロペラ(ブレード)が落下し、男性が頭を負傷して倒れてい
-
アゴラ研究所の運営するエネルギーのバーチャルシンクタンクGEPR(グローバルエナジー・ポリシーリサーチ)はサイトを更新しました。
動画
アクセスランキング
- 24時間
- 週間
- 月間