日本も中国製太陽光発電パネルの輸入を止めるべきだ

2021年06月26日 07:00
アバター画像
キヤノングローバル戦略研究所研究主幹

dongfang zhao/iStock

米国バイデン政権は24日、ウイグルでの強制労働に関与した制裁として、中国企業5社の製品の輸入を禁止すると発表した(ホワイトハウス発表)。

対象となったのは、

(A)Hoshine Silicon Industry (Shanshan)
(B)Xinjiang Daqo New Energy
(C)Xinjiang East Hope Nonferrous Metals
(D)Xinjiang GCL New Energy Material Technology
(E)XPCC(Xinjiang Production and Construction Corps)

である。(注:Xinjiangは新疆のローマ字表記でシンジアンと読む)。

どのような会社か、説明しよう。

太陽光発電のパネルは、以下の3段階で製造される。

  1. 【金属精錬】 石英を採掘して高温で精錬しシリコン金属にする
  2. 【結晶製造】シリコン金属を高温で融解し、再結晶させて結晶シリコンを造る
  3. 【パネル製造】結晶シリコンをスライスし、化学処理して電極等を取付けた後、ガラス板で挟んでパネルを造る

このうち1. の金属精錬のダントツの最大手が (A)のHoshineであり、2. の結晶製造の大手が、(B) Daqo(4位)、(D) GCL(2位)、(C)East Hope(6位)である。

(E) XPCCは綿製品など様々な事業を手掛ける巨大企業で、強制労働に関与しているとされている。

中国には多くのパネル製造メーカーがあるが、それは上記企業から金属シリコン・結晶シリコンの供給を受けて成り立っている(図1)。

図1 Hoshineからシリコン金属供給を受けている企業。ヘレナ・ケネディーセンター報告による

図中、左側が金属精錬企業のHoshineであり、中央がシリコン製造企業のDaqo、GCLなどであり、右側がパネル製造メーカーである。

世界のソーラーパネルメーカーのランキングは表1のようになっているが、上位1位から5位までのLongi、Jinko、JA、Trina、Canadian Solarの全てがHoshineから供給を受けている。

表1 世界のソーラーパネルメーカーのランキング。ヘレナ・ケネディーセンター報告による

今回輸入禁止になるのは、「Hoshineによるシリコン供給を受けている製品、およびDaqo、GCL、East Hope、XPCCの製品」となっている。

これにより、中国製の太陽光パネルの大半が輸入禁止され、米国税関を通れなくなるだろう。

この措置に対して、中国は強く反発し、何等かの対抗措置を取るだろう。

その一方で、この措置自体の米国の太陽光発電市場への影響は、それほど大きくないとみられる。というのは、米国は以前から中国製太陽光パネルに対して、不公正貿易慣行を理由に高い関税を課しており、そのために中国製品はほとんど輸入されていなかったからだ。だがこれ故に、米国の太陽光パネルは中国製に比べて2倍の値段になっているという(CSIS報告)。

今回の措置で影響が大きいのは、むしろ日本など、中国製の太陽光パネルを大規模に輸入している国である。

図2は結晶シリコンの世界市場シェアである。何と世界の45%がウイグル地区のものだ。残りは30%がウイグル以外の中国であり、中国は合計で75%となっている。他の国々は全て合わせても25%だ。

図2 結晶シリコンの世界市場シェア。ヘレナ・ケネディーセンター報告による

日本も米国に続いて中国の太陽光パネルを輸入禁止にすべきだろうか。

日本の太陽光発電パネルはいまや8割が海外生産になっている(太陽光発電協会)。この中には中国製品が多く入っているだろう。

米国並みの中国製品の輸入禁止措置を日本も採れば、太陽光発電の導入には急ブレーキがかかり、価格高騰も避けられない。

だがそれでも、日本も断固とした措置を速やかに取るべきだ、と筆者は思う。

太陽光発電を導入している人々、ないしはその費用を負担している人々は、それが環境のため、ひいては人のために良いことだと思っている。

ところがそれが、強制労働を助長し、人権を侵害しているというのでは、本末転倒だ

このままでは、あちこちに設置された太陽光発電パネルを見るたびに、おぞましい強制労働やジェノサイドを思い出さなければならないことになる。

そのような事態を、日本政府は許すべきだろうか。

クリックするとリンクに飛びます。

This page as PDF
アバター画像
キヤノングローバル戦略研究所研究主幹

関連記事

  • 一枚岩ではない世界システム 2022年2月24日からのロシアによるウクライナへの侵略を糾弾する国連の諸会議で示されたように、世界システムは一枚岩ではない。国家として依拠するイデオロギーや貿易の実情それに経済支援の現状を考
  • 厚生労働省は原発事故後の食品中の放射性物質に係る基準値の設定案を定め、現在意見公募中である。原発事故後に定めたセシウム(134と137の合計値)の暫定基準値は500Bq/kgであった。これを生涯内部被曝線量を100mSv以下にすることを目的として、それぞれ食品により100Bq/kgあるいはそれ以下に下げるという基準を厳格にした案である。私は以下の理由で、これに反対する意見を提出した。
  • アゴラ研究所の運営するエネルギー・環境問題のバーチャルシンクタンクGEPRはサイトを更新しました。 今週のアップデート 1)企業家が活躍、米国農業-IT、遺伝子工学、先端技術を使用 米国の農業地帯を8月に記者が訪問、その
  • 原子力発電の先行きについて、コストが問題になっています。その資金を供給する金融界に、原発に反対する市民グループが意見を表明するようになっています。国際環境NGOのA SEED JAPANで活動する土谷和之さんに「原発への投融資をどう考えるか?--市民から金融機関への働きかけ」を寄稿いただきました。反原発運動というと、過激さなどが注目されがちです。しかし冷静な市民運動は、原発をめぐる議論の深化へ役立つかもしれません。
  • 自治体で2050年迄にCO2排出をゼロにするという宣言が流行っている。環境省はそれを推進していて、宣言をした自治体の状況を図のようにまとめている。宣言した自治体の人口を合計すると7000万人を超えるという。 だがこれらの
  • 高速増殖炉もんじゅ(福井県敦賀市) 政府は、高速増殖炉(FBR)「もんじゅ」を廃炉にする方針を明らかにした。これはGEPR(記事「「もんじゅ」は研究開発施設として出直せ」)でもかねてから提言した通りで、これ以外の道はなか
  • 以前、中国製メガソーラーは製造時に発生したCO2の回収に10年かかると書いた。製造時に発生するCO2を、メガソーラーの発電によるCO2削減で相殺するのに、10年かかるという意味だ(なおこれは2030年のCO2原単位を想定
  • 先日、COP28の合意文書に関する米ブライトバートの記事をDeepL翻訳して何気なく読みました。 Climate Alarmists Shame COP28 into Overtime Deal to Abandon F

アクセスランキング

  • 24時間
  • 週間
  • 月間

過去の記事

ページの先頭に戻る↑