大衆の叛逆を恐れた英政府、家庭脱炭素計画の発表延期
日本に先行して無謀な脱炭素目標に邁進する英国政府。「2050年にCO2を実質ゼロにする」という脱炭素(英語ではNet Zeroと言われる)の目標を掲げている。
加えて、2035年の目標は1990年比で78%のCO2削減だ。これは現時点からでも6割CO2を削減しなければならない。あと14年でこれを達成するのは、どう考えても不可能だ。

xavierarnau/iStock
今年末に英国は国連気候会議を主催することもあり、目標達成までの計画を作成している。その一環として、2035年までに住宅用の暖房・給湯においてガス使用を禁止して電気式(ヒートポンプ)に置き換えるという計画を発表する予定だったが、秋まで延期される模様だ。
住宅用のガスボイラは英国のCO2排出の3分の1を占めている。2035年目標を本当に達成するなら、確かに禁止しないと辻褄が合わない。
だがこの計画の検討状況が明るみに出て、世帯当たり数百万円のコストがかかることが分かり、大衆紙サンなどで反論が盛り上がった結果、計画の発表にボリス・ジョンソン首相が待ったをかけたと報じられている。
英国政府は、経済影響について再検討し、低所得者への補償・補助を検討しているという。さらには、ガス使用を禁止するのではなく、電気式暖房に補助を付けて推進するにとどめるかもしれない、という。
英国は与党保守党の中でも意見の対立が目立つようになってきた。急先鋒は、ブレクジット運動のときのボリス・ジョンソンの盟友、元ブレクジット大臣のベイカー議員だ。ベイカーは経済的負担が莫大になることを重要な問題であるとみており、「脱炭素反対を、ブレクジットに次ぐ聖戦とする」として、激しく与党の脱炭素政策を非難している。
他方で環境運動サイドから見ると、英国の脱炭素政策は甚だ不十分である。2035年の目標達成に必要な削減量の5分の1しか政策によって担保されていないという。英国政府は最近新たなガス火力発電所の建設も認可している。北海油田での開発活動も止めていない。ボリス・ジョンソン政権は、与党内で脱炭素推進派と反対派の板挟みに逢っている。
国連気候会議では先進国が総額1千億ドルに上る資金を拠出して開発途上国の温暖化対策を支援する約束になっているが、英国政府は既存のODAの振り替えで対応することが発覚し、「グリーンウォッシング(緑に見せかけているだけ)」であると環境運動家や開発途上国に批判されている。
しかもこれはODAの総額自体をGDPの0.7%から0.5%へと年間40億ポンド(=6000億円)程度引き下げるという決定の直後の出来事であったことが、ますます反感の種となっている。
このように、英国では、経済的負担が明らかになるにつれ、脱炭素の無謀さが発覚し、公の場で反論が噴出するようになった。
日本でもいま年末の国連気候会議に向けてエネルギー基本計画や温暖化対策計画が政府によって検討されている。
日本の議員もメディアも、その経済的負担が莫大になることに早々に気づき、叛乱を起こすべきだ。そうしないと、知らないうちに、ご無体な経済活動規制や重い税負担に苛まれることになる。
■
関連記事
-
筆者は昨年からたびたびESG投資を巡る気候カルテルについて指摘してきました。 米下院司法委が大手金融機関と左翼活動家の気候カルテルを暴く 気候カルテルの構図はまるで下請け孫請けいじめ 気候カルテルは司法委員会の調査から逃
-
原子力政策の大転換 8月24日に、第2回GX(グリーントランスフォーメーション)実行会議が開催された。 そこでは、西村康稔経産大臣兼GX実行推進担当大臣が、原子力政策に対する大きな転換を示した。ポイントは4つある。 再稼
-
長期停止により批判に直面してきた日本原子力研究開発機構(JAEA)の高速増殖炉の原型炉「もんじゅ」が、事業の存続か断念かの瀬戸際に立っている。原子力規制委員会は11月13日、JAEAが、「実施主体として不適当」として、今後半年をめどに、所管官庁である文部科学省が代わりの運営主体を決めるよう勧告した。
-
はじめに 本記事は、エネルギー問題に発言する会有志4人(針山 日出夫、大野 崇、小川 修夫、金氏 顯)の共同作成による緊急提言を要旨として解説するものである。 緊急提言:エネルギー安定供給体制の構築を急げ!~欧州発エネル
-
2020年10月の菅義偉首相(当時)の所信表明演説による「2050年カーボンニュートラル」宣言、ならびに2021年4月の気候サミットにおける「2030年に2013年比46%削減」目標の表明以降、「2030年半減→2050
-
昨年9月1日に北海道電力と東北電力の電力料金値上げが実施された。これで、12年からの一連の電力値上げ申請に基づく料金値上げが全て出そろったことになる。下表にまとめて示すが、認可された値上げ率は各電力会社の原発比率等の差により、家庭等が対象の規制部門で6・23%から9・75%の範囲に、また、工場やオフィスビルを対象とする自由化部門で11・0%から17・26%である。
-
きのうの言論アリーナで、諸葛さんと宇佐美さんが期せずして一致したのは、東芝問題の裏には安全保障の問題があるということだ。中国はウェスティングハウス(WH)のライセンス供与を受けてAP1000を数十基建設する予定だが、これ
-
3.11から7年が経過したが、我が国の原子力は相変わらずかつてない苦境に陥っており、とくに核燃料サイクルやバックエンド分野(再処理、プルトニウム利用、廃棄物処分など)では様々な困難に直面している。とりわけプルトニウム問題
動画
アクセスランキング
- 24時間
- 週間
- 月間

















