河野太郎氏の否定する「小型原子炉」は成長産業

2021年09月26日 13:15
アバター画像
アゴラ研究所所長


ここで河野氏のいう「今年3月のIAEAのファクトチェック」というのはネット上には見当たらない。IAEAは2020年から3年計画でSMRの経済性評価をしている途中なので、今年そういう「ファクトチェック」を出すことは考えられない。

これはおそらく今年3月にJAEA(日本原子力研究開発機構)の出した世界のSMR開発状況というレポートのことだと思われるが、そのどこにも「割高でコスト的に見合わない」とは書いてない。しいてさがせば8ページに

開発段階を終了して大型炉や競合電源に匹敵する経済性を実証した例はなく、ビジネスモデルとしての不確かさがあるが、以下の投資リスクの低減が期待される。

・1ユニット当たりの投資額の縮小
・投資回収期間の短縮
・サプライチェーンの簡素化

と書いてあるだけだ。商用炉がまだ運転していない(したがって経済性は実証されていない)のは事実だが、これはNRCの認可が遅れたためだ。河野氏のいう「1000台つくらないと採算に乗らない」などという話はどこにもない。

2050年カーボンニュートラルという野心的な目標を河野氏のいう「再エネ100%」で実現したら、電気代は今の4倍以上になり、日本経済は破滅する。今のうちに次世代原子炉を新設する準備が必要である。

SMRの特長は「電機製品」になること

SMRの完成予想図(ニュースケール社のホームページより)

SMRの最大の優位性は、JAEAも指摘するように炉心溶融が原理的に起こりえないので、安全審査が大幅に簡素化できることだ。

原発の発電単価(約11円/kWh)のほぼ半分は規制のコストで、その大部分は安全審査のコストである。今の大型軽水炉は建築物なので、日本のように原子力規制委員会が法的根拠なく原発を止めている状況では、規制の予見不可能性が大きい。

それに対してSMRは電機製品なので、標準化された製品が型式認定を受ければ、アメリカで生産されたSMRを輸入できる。日本でも最初の1基は安全審査が必要だが、あとは同じ機種ならほとんど審査なしで運転できる。

アメリカではアイダホ州でニュースケールのSMRが建設され、2029年にも商用運転を開始する予定である。これにはIHIと日揮が資本参加しており、日本メーカーの原子力技術はアメリカより上なので、日本でOEMで製造することもむずかしくない。

小型原子炉の国際競争が始まる

小型原子炉は、2030年代の世界のエネルギー情勢を大きく変える可能性がある。安全審査のボトルネックがない中国ではAP1000などの大型軽水炉が主力だが、アメリカではSMRが主力になるだろう。

今回、オーストラリアが突然、フランスへの潜水艦の発注をキャンセルしてアメリカに原潜を発注した背景には、アメリカの原子炉輸出戦略があるといわれる。原潜の原子炉はSMRを使えるからだ。

SMRは基本的には軽水炉なので、技術的にはむずかしくない。日立の出資している高速炉型のPRISMは核燃料サイクルと一体なのでリスクが大きいが、再処理工場を動かすなら必要になるだろう。

核のゴミについては今の軽水炉と同じで、河野氏も認めるようにサイト内で乾式貯蔵すれば問題は解決できる。PRISMならプルトニウムを消費する解になる。

いずれにせよ小型原子炉(SMRあるいはPRISM)の技術的課題は本質的に解決されており、経済性は量産効果との見合いなので、あとは政治の問題だというのが世界の常識である。河野氏がそれを知らないのか、取り巻きにだまされているのかはわからないが、後者である疑いが強い。

【追記】ツイッターで教えてもらったが、河野氏のいう「アイ・イー・イー・イーのファクトチェック」とは、IEEE Xploreに今年3月に掲載された論文のようだ。IEEEを「アイ・トリプルイー」と読むことも知らない人の話を相手にしてもしょうがないが、これは学会としての評価ではなく、個人の論文である。内容も「SMRは規模の経済性がない」という当たり前の話で、ここに書いたような政治的な要因は何も考えていない。

 

This page as PDF

関連記事

  • 国際エネルギー機関(IEA)の最新レポート「World Energy Outlook2016」は将来のエネルギー問題について多くのことを示唆している。紙背に徹してレポートを読むと、次のような結論が得られるであろう。 1・
  • 経営方針で脱炭素やカーボンニュートラルとSDGsを同時に掲げている企業が増えていますが、これらは相反します。 脱炭素=CO2排出量削減は気候変動「緩和策」と呼ばれます。他方、気候変動対策としてはもうひとつ「適応策」があり
  • 北海道はこれから冬を迎えるが、地震で壊れた苫東厚真発電所の全面復旧は10月末になる見通しだ。この冬は老朽火力も総動員しなければならないが、大きな火力が落ちると、また大停電するおそれがある。根本的な問題は泊原発(207万k
  • 8 月5 日にエネルギーフォーラム社の主催で敦賀発電所の破砕帯問題を技術面及びプロセス面の両面から評価するシンポジウムが開かれ、筆者も予てからこの問題に注目しており、このシンポジウムの様子をネット放送で視聴した。(第1部)(第2部)
  • 原子力規制委員会(以下「規制委」という)は、原子力規制委員会設置法に基づき2012年9月11日に発足した。規制委の正規メンバーである委員長・委員、規制委の事務局である原子力規制庁(以下「規制庁」という)の職員にとってこの3年間は、洪水のように押し寄せる業務の処理に悪戦苦闘する毎日であったに違いない。
  • 政府のエネルギー基本計画について、アゴラ研究所の池田信夫所長がコメントを示しています。内容が、世論からの批判を怖れ、あいまいであることを批判しています。
  • 3月7日から筆者の滞在するジュネーブにて開催された100年以上の歴史を誇るモーターショーを振り返りつつ雑感を述べたい。「Salon International de l’Auto」、いわゆるジュネーブ・モーターショーのことだ。いわゆるジュネーブ・モーターショーのこと。1905年から開催されている。
  • アゴラ研究所の運営するエネルギーのバーチャルシンクタンク、GEPRはサイトを更新を更新しました。 1)トランプ政権誕生に備えた思考実験 東京大学教授で日本の気候変動の担当交渉官だった有馬純氏の寄稿です。前回の総括に加えて

アクセスランキング

  • 24時間
  • 週間
  • 月間

過去の記事

ページの先頭に戻る↑