河野太郎氏の否定する「小型原子炉」は成長産業
【SMR(小型モジュール原子炉)】
河野太郎「小型原子炉は割高でコスト的に見合わない。核のゴミも出てくるし、作って日本の何処に設置するのか。立地できる所は無い。これは【消えゆく産業が最後に足掻いている。そういう状況】」
なんつー言い方だよ😒
日本のリーダーを目指す人間が使う表現か❓ pic.twitter.com/QYbecUbIZv— ピーチ太郎2nd (@PeachTjapan2) September 26, 2021
ここで河野氏のいう「今年3月のIAEAのファクトチェック」というのはネット上には見当たらない。IAEAは2020年から3年計画でSMRの経済性評価をしている途中なので、今年そういう「ファクトチェック」を出すことは考えられない。
これはおそらく今年3月にJAEA(日本原子力研究開発機構)の出した世界のSMR開発状況というレポートのことだと思われるが、そのどこにも「割高でコスト的に見合わない」とは書いてない。しいてさがせば8ページに
開発段階を終了して大型炉や競合電源に匹敵する経済性を実証した例はなく、ビジネスモデルとしての不確かさがあるが、以下の投資リスクの低減が期待される。
・1ユニット当たりの投資額の縮小
・投資回収期間の短縮
・サプライチェーンの簡素化
と書いてあるだけだ。商用炉がまだ運転していない(したがって経済性は実証されていない)のは事実だが、これはNRCの認可が遅れたためだ。河野氏のいう「1000台つくらないと採算に乗らない」などという話はどこにもない。
2050年カーボンニュートラルという野心的な目標を河野氏のいう「再エネ100%」で実現したら、電気代は今の4倍以上になり、日本経済は破滅する。今のうちに次世代原子炉を新設する準備が必要である。
SMRの特長は「電機製品」になること

SMRの完成予想図(ニュースケール社のホームページより)
SMRの最大の優位性は、JAEAも指摘するように炉心溶融が原理的に起こりえないので、安全審査が大幅に簡素化できることだ。
原発の発電単価(約11円/kWh)のほぼ半分は規制のコストで、その大部分は安全審査のコストである。今の大型軽水炉は建築物なので、日本のように原子力規制委員会が法的根拠なく原発を止めている状況では、規制の予見不可能性が大きい。
それに対してSMRは電機製品なので、標準化された製品が型式認定を受ければ、アメリカで生産されたSMRを輸入できる。日本でも最初の1基は安全審査が必要だが、あとは同じ機種ならほとんど審査なしで運転できる。
アメリカではアイダホ州でニュースケールのSMRが建設され、2029年にも商用運転を開始する予定である。これにはIHIと日揮が資本参加しており、日本メーカーの原子力技術はアメリカより上なので、日本でOEMで製造することもむずかしくない。
小型原子炉の国際競争が始まる
小型原子炉は、2030年代の世界のエネルギー情勢を大きく変える可能性がある。安全審査のボトルネックがない中国ではAP1000などの大型軽水炉が主力だが、アメリカではSMRが主力になるだろう。
今回、オーストラリアが突然、フランスへの潜水艦の発注をキャンセルしてアメリカに原潜を発注した背景には、アメリカの原子炉輸出戦略があるといわれる。原潜の原子炉はSMRを使えるからだ。
SMRは基本的には軽水炉なので、技術的にはむずかしくない。日立の出資している高速炉型のPRISMは核燃料サイクルと一体なのでリスクが大きいが、再処理工場を動かすなら必要になるだろう。
核のゴミについては今の軽水炉と同じで、河野氏も認めるようにサイト内で乾式貯蔵すれば問題は解決できる。PRISMならプルトニウムを消費する解になる。
いずれにせよ小型原子炉(SMRあるいはPRISM)の技術的課題は本質的に解決されており、経済性は量産効果との見合いなので、あとは政治の問題だというのが世界の常識である。河野氏がそれを知らないのか、取り巻きにだまされているのかはわからないが、後者である疑いが強い。
【追記】ツイッターで教えてもらったが、河野氏のいう「アイ・イー・イー・イーのファクトチェック」とは、IEEE Xploreに今年3月に掲載された論文のようだ。IEEEを「アイ・トリプルイー」と読むことも知らない人の話を相手にしてもしょうがないが、これは学会としての評価ではなく、個人の論文である。内容も「SMRは規模の経済性がない」という当たり前の話で、ここに書いたような政治的な要因は何も考えていない。

関連記事
-
資産運用会社の経営者でありながら、原子力行政の「非科学的」「不公正」な状況を批判してきた森本紀行HCアセットマネジメント社長に寄稿をいただきました。原子力規制委員会は、危険性の許容範囲の議論をするのではなく、不可能な「絶対安全」を事業者に求める行政を行っています。そして政治がこの暴走を放置しています。この現状を考える材料として、この論考は公平かつ適切な論点を提供しています。
-
政府の第6次エネルギー基本計画(案)では、2030年までにCO2排出量を46%削減する、2050年までにCO2排出を実質ゼロにする、そのために再生可能エネルギーによる不安定電源を安定化する目的で水素発電やアンモニア発電、
-
(前回:温室効果ガス排出量の目標達成は困難②) 田中 雄三 ドイツ事例に見る風力・太陽光発電の変動と対策 発展途上国で風力・太陽光発電の導入は進まない <問題の背景> 発展途上国が経済成長しつつGHGネットゼロを目指すな
-
IPCCの報告がこの8月に出た。これは第1部会報告と呼ばれるもので、地球温暖化の科学的知見についてまとめたものだ。何度かに分けて、気になった論点をまとめてゆこう。 以前、「IPCC報告の論点⑥」で、IPCCは「温暖化で大
-
北海道大学名誉教授 金子 勇 マクロ社会学から見る「脱炭素社会」 20世紀末に50歳を越えた団塊世代の一人の社会学者として、21世紀の課題はマクロ社会学からの「新しい時代の経済社会システム」づくりだと考えた。 手掛かりは
-
東京都の資料「2030年カーボンハーフに向けた取り組みの加速」を読んでいたら、「災害が50年間で5倍」と書いてあった: これを読むと、「そうか、気候変動のせいで、災害が5倍にも激甚化したのか、これは大変だ」という印象にな
-
途上国の勝利 前回投稿で述べたとおり、COP27で先進国は「緩和作業計画」を重視し、途上国はロス&ダメージ基金の設立を含む資金援助を重視していた。 COP27では全体決定「シャルム・エル・シェイク実施計画」、2030年ま
-
人間社会に甚大な負の負担を強いる外出禁止令や休業要請等の人的接触低減策を講ずる目的は、いうまでもなく爆発的感染拡大(すなわち「感染爆発」)の抑え込みである。したがって、その後の感染者数増大を最も低く抑えて収束させた国が、
動画
アクセスランキング
- 24時間
- 週間
- 月間