誇張に満ち非現実的な気候運動家が貧しい人々を苦しめる

cifotart/iStock
今回はテッド・ノードハウス(ブレークスルー研究所所長 兼 キヤノングローバル戦略研究所International Research Fellow)が公開した記事を紹介する(The Economist 記事、そのブログによる紹介)。
今年も国連気候変動会議COPが開催された。予想通り、気候変動活動家たちの間では、世紀末的な破局が語られ、早急に社会的・政治的な変革を求める、という声が目立った。
だが、このような活動の方向性は適切だろうか。
実は、環境運動家の極端な主張とは裏腹に、気候変動は、それほど恐ろしいものではなく、世界全体による対応も期待できる。
どういうことか。
まず、経済成長によって防災能力が高まったことで、世界における気候関連の災害による死亡者数は、過去最低となっている。これは特に貧困層にも当てはまっている。
のみならず、排出量の増加を抑制するための長年の取り組みが功を奏し、世界の排出量はピークに達しつつある。
新たな予測では世界の温暖化は3度未満(COP26の公約が守られた場合は2度に近い)になる、とされている。
パリ協定の目標である2度に近づけることは大きな意味がある。しかしはっきり言って、このような「破局に向かってなどいない」という報告があるにも関わらず、環境運動家は気候安定化のゴールポストを動かし、産業革命以前に比べて1.5度上昇に抑制するという、ありえない目標を掲げることにした。
この極めて恣意的な目標を達成するためには、10年以内に世界経済を大規模に再構築する必要がある。この偉業には、存在しない技術や、環境運動家が真っ向から否定する技術(例:原子力や二酸化炭素回収)が同時に必要となる。
環境運動における誇張や非現実的な要求は、各国の指導者がより野心的な行動を取るように促すための、「役に立つ愚かさ」である、として大目に見られることが多い。しかし現実には、それでは済まない。特に、世界の貧困層に悪影響を与えていることは見逃せない。
豊かな国の環境運動家の要求に応えて、例えば、天然ガスに対する国際的な融資が枯渇し始めている。この動きは、天然ガスが発展途上国の重要なエネルギー源であることにお構いなしに起きている。
他方で富裕国の側はと言えば、自国のエネルギー需要を満たすために、依然として、天然ガスの使用を継続している。
欧米の指導者たちに、政治経済の現実に照らして不可能な要求を突きつけると、その代償を払うことになるのは、環境運動家ではなく、貧しい人々になる。
環境運動家は、このことをきちんと認識すべきだ。
■

関連記事
-
筆者はかねがね、エネルギー・環境などの政策に関しては、科学的・技術的・論理的思考の重要さと有用性を強調してきたが、一方で、科学・技術が万能だとは思っておらず、科学や技術が人間にもたらす「結果」に関しては、楽観視していない
-
エネルギー危機が世界を襲い、諸国の庶民が生活の危機に瀕している。無謀な脱炭素政策に邁進し、エネルギー安定供給をないがしろにした報いだ。 この年初に、英国の国会議員20名が連名で、大衆紙「サンデー・テレグラフ」に提出した意
-
11月1日にエネルギーフォーラムへ掲載された杉山大志氏のコラムで、以下の指摘がありました。 G7(主要7カ国)貿易相会合が10月22日に開かれて、「サプライチェーンから強制労働を排除する」という声明が発表された。名指しは
-
東京電力に寄せられたスマートメーターの仕様に関する意見がウェブ上でオープンにされている。また、この話題については、ネット上でもITに明るい有識者を中心に様々な指摘・批判がやり取りされている。そのような中の一つに、現在予定されている、電気料金決済に必要な30分ごとの電力消費量の計測だけでは、機能として不十分であり、もっと粒度の高い(例えば5分ごと)計測が必要だという批判があった。電力関係者とIT関係者の視点や動機の違いが、最も端的に現れているのが、この点だ。今回はこれについて少し考察してみたい。
-
東京都が「カーボンハーフ」を掲げている(次々とカタカナのキャッチフレーズばかり増えるのは困ったものだ)。「2030年までCO2を半減する」という計画だ。ではこれで、いったいどのぐらい気温が下がり、大雨の雨量が減るのか、計
-
アメリカでは地球温暖化も党派問題になっている。民主党系は「温暖化は深刻な脅威で、2050年CO2ゼロといった極端な温暖化対策が必要だ」とする。対して共和党系は「それほど深刻な問題ではなく、極端な対策は必要ない」とする。
-
5月13日に放送した言論アリーナでも話したように、日本では「原子力=軽水炉=福島」と短絡して、今度の事故で原子力はすべてだめになったと思われているが、技術的には軽水炉は本命ではなかった。1950年代から「トリウム原子炉の道?世界の現況と開発秘史」のテーマとするトリウム溶融塩炉が開発され、1965年には発電を行なった。理論的には溶融塩炉のほうが有利だったが、軽水炉に勝てなかった。
-
先日、和歌山県海南市にある関西電力海南発電所を見学させていただいた。原発再稼働がままならない中で、火力発電所の重要性が高まっている。しかし、一旦長期計画停止運用とした火力発電ユニットは、設備の劣化が激しいため、再度戦列に復帰させることは非常に難しい。
動画
アクセスランキング
- 24時間
- 週間
- 月間