IPCC報告の論点㊷:メタンによる温暖化はもう飽和状態

Francesco Scatena/iStock
メタンはCO2に次ぐ温室効果ガスとして知られている。IPCC報告を見ると、過去、CO2による温暖化が約0.8℃だったのに対してメタンは約0.5℃の温暖化を引き起こした、としている(下図の左から2番目のMethane)。

Figure SPM.2
そして、メタンの濃度は600ppb程度で過去2000年の間安定していたが、1850年ぐらいから急激に上昇し、いまでは約3倍の1866ppbに達したとされる。

Figure TS.9
・・・と見ていると、すわ、メタンを減らさないと大変だ、という気分になりがちだが、じつはそうでもない。
本文5章中にある次の図を見ると、メタンには
- 人為的発生源(Anthoropogenic)として、化石燃料産業や酪農・水田、それに廃棄物処理等があるが、
- 湿地などの自然排出源(Natural sources)も大きい。
加えて、
- 大気中ではOHラジカルとの反応で9年程度で分解される等、自然減もある(Total Sinks)
ということが分かる。
大気中のメタン濃度はこのバランスで決まるが、結構な振動がある。だいたいは右肩上がりで増えてきたが、2000年代初めの数年は、いくら人為的にメタンを排出しても、まったく濃度が増えなかった(図中の折れ線、右軸)

なぜこんな不思議なことが起きるかというと、詳細は議論が百出している状態で理由は定かになっていない。
ただ言えることは、メタン濃度が高くなった現在の状態では、メタンの分解量が多くなり、人為的な排出量とほぼバランスしているということだ。
Connolly(2020)の分かり易い図を紹介しよう。

すなわち、(a)でメタン濃度は徐々に増えているが、(b)を見ると人為的排出が増えているのに対して、濃度は殆ど増えていない。(c)でairborne fraction(大気に残る割合)としているのは、大気中のメタン量の増加を人為的排出量で割った値である。すると、平均して、人為的排出量の僅か7%ずつしか大気中のメタンの量は増えていない。
メタンの濃度がほぼ飽和していることは、IPCCのシナリオにも反映されてきた。Connollyによる下図を見ると、極端に排出が増えるRCP8.5は例外として、より現実的で排出量が今後あまり変化しないRCP4.5やRCP6.0の場合でも、大気中の濃度は今後は急上昇をすることなく、あまり増加せずほぼ横ばいである。Airborne fractionをみても、過去の平均の0.7よりもさらに低くなっている。(図中でThis studyとなっている部分は説明を割愛する)



メタンの地球規模のバランスについてはまだ科学的によく分からないことが多いが、すでに大気中のメタンの量は飽和状態にあり、現在の世界の排出量を継続してもほとんど増えなくなっているということは朗報だ。今後、メタンによる温暖化が激しくなることを心配しなくてよいからだ。
■
1つの報告書が出たということは、議論の終わりではなく、始まりに過ぎない。次回以降も、あれこれ論点を取り上げてゆこう。
【関連記事】
・IPCC報告の論点①:不吉な被害予測はゴミ箱行きに
・IPCC報告の論点②:太陽活動の変化は無視できない
・IPCC報告の論点③:熱すぎるモデル予測はゴミ箱行きに
・IPCC報告の論点④:海はモデル計算以上にCO2を吸収する
・IPCC報告の論点⑤:山火事で昔は寒かったのではないか
・IPCC報告の論点⑥:温暖化で大雨は激甚化していない
・IPCC報告の論点⑦:大雨は過去の再現も出来ていない
・IPCC報告の論点⑧:大雨の増減は場所によりけり
・IPCC報告の論点⑨:公害対策で日射が増えて雨も増えた
・IPCC報告の論点⑩:猛暑増大以上に酷寒減少という朗報
・IPCC報告の論点⑪:モデルは北極も南極も熱すぎる
・IPCC報告の論点⑫:モデルは大気の気温が熱すぎる
・IPCC報告の論点⑬:モデルはアフリカの旱魃を再現できない
・IPCC報告の論点⑭:モデルはエルニーニョが長すぎる
・IPCC報告の論点⑮:100年規模の気候変動を再現できない
・IPCC報告の論点⑯:京都の桜が早く咲く理由は何か
・IPCC報告の論点⑰:脱炭素で海面上昇はあまり減らない
・IPCC報告の論点⑱:気温は本当に上がるのだろうか
・IPCC報告の論点⑲:僅かに気温が上がって問題があるか?
・IPCC報告の論点⑳:人類は滅びず温暖化で寿命が伸びた
・IPCC報告の論点㉑:書きぶりは怖ろしげだが実態は違う
・IPCC報告の論点㉒:ハリケーンが温暖化で激甚化はウソ
・IPCC報告の論点㉓: ホッケースティックはやはり嘘だ
・IPCC報告の論点㉔:地域の気候は大きく変化してきた
・IPCC報告の論点㉕:日本の気候は大きく変化してきた
・IPCC報告の論点㉖:CO2だけで気温が決まっていた筈が無い
・IPCC報告の論点㉗:温暖化は海洋の振動で起きているのか
・IPCC報告の論点㉘:やはりモデル予測は熱すぎた
・IPCC報告の論点㉙:縄文時代の北極海に氷はあったのか
・IPCC報告の論点㉚:脱炭素で本当にCO2は一定になるのか
・IPCC報告の論点㉛:太陽活動変化が地球の気温に影響した
・IPCC報告の論点㉜:都市熱を取除くと地球温暖化は半分になる
・IPCC報告の論点㉝:CO2に温室効果があるのは本当です
・IPCC報告の論点㉞:海氷は本当に減っているのか
・IPCC報告の論点㉟:欧州の旱魃は自然変動の範囲内
・IPCC報告の論点㊱:自然吸収が増えてCO2濃度は上がらない
・IPCC報告の論点㊲:これは酷い。海面の自然変動を隠蔽
・IPCC報告の論点㊳:ハリケーンと台風は逆・激甚化
・IPCC報告の論点㊴:大雨はむしろ減っているのではないか
・IPCC報告の論点㊵:温暖化した地球の風景も悪くない
・IPCC報告の論点㊶:CO2濃度は昔はもっと高かった
■
関連記事
-
先進国では、気候変動対策の一つとして運輸部門の脱炭素化が叫ばれ、自動車業界を中心として様々な取り組みが行われている。我が国でも2020年10月、「2050年カーボンニュートラル」宣言の中で、2035年以降の新車販売は電気
-
国のエネルギーと原子力政策をめぐり、日本で対立が続いている。いずれも国民の幸せを願ってはいるのだが、その選択は国の浮沈に関わる重大問題である。東京電力の福島第1原発事故の影響を見て曇るようなことがあってはならない。しかし、その事故の混乱の影響はいまだに消えない。
-
温暖化問題はタテマエと実態との乖離が目立つ分野である。EUは「気候変動対策のリーダー」として環境関係者の間では評判が良い。特に脱原発と再エネ推進を掲げるドイツはヒーロー的存在であり、「EUを、とりわけドイツを見習え」とい
-
前回に続き、最近日本語では滅多にお目にかからない、エネルギー問題を真正面から直視した論文「燃焼やエンジン燃焼の研究は終わりなのか?終わらせるべきなのか?」を紹介する。 (前回:「ネットゼロなど不可能だぜ」と主張する真っ当
-
トランプ前大統領とハリス副大統領の討論会が9月10日に開催される。大統領選に向けた支持率調査によると、民主党の大統領候補であるハリス副大統領が42%、共和党候補のトランプ前大統領が37%で、ハリス氏がリードを広げていると
-
IPCC報告には下記の図1が出ていて、地球の平均気温について観測値(黒太線)とモデル計算値(カラーの細線。赤太線はその平均値)はだいたい過去について一致している、という印象を与える。 けれども、図の左側に書いてある縦軸は
-
「気候変動の真実 科学は何を語り、何を語っていないか」については分厚い本を通読する人は少ないと思うので、多少ネタバラシの感は拭えないが、敢えて内容紹介と論評を試みたい。1回では紹介しきれないので、複数回にわたることをお許
-
1. 三菱商事洋上風力発電事業「ゼロからの見直し」 2021年一般海域での洋上風力発電公募第1弾、いわゆるラウンド1において、3海域(秋田県三種沖、由利本荘沖、千葉県銚子沖)全てにおいて、他の入札者に圧倒的大差をつけて勝
動画
アクセスランキング
- 24時間
- 週間
- 月間

















