欧米では「脱炭素を止め石油・ガス増産」の大合唱

2022年03月05日 06:50
アバター画像
キヤノングローバル戦略研究所研究主幹

Huyangshu/iStock

ウクライナの戦争を招いたのは、ロシアのガスへの依存を招いたEUの自滅的な脱炭素・反原発政策だったことを糾弾し、欧州は、域内に莫大な埋蔵量があるガスの採掘拡大を急ぐべきだ、とする大合唱が起きている。

ドイツ政府も、これまでの極端なグリーン政策を見直すことになった。脱石炭・脱原発を再考してしばらく利用すること、これまで無かったLNG基地を建設することを検討しているという。

ちなみに「2045年CO2ゼロという目標は変えずに」これをするというが、本気で整合性を考えているとは思えない。

政策声明を見ると、この政策転換は「責任ある、将来を見据えたエネルギー政策が、我々の経済や気候だけでなく、安全保障にとっても極めて重要である」ことが理由だそうだ。

ということは、これまでの政策は、無責任で将来を見据えていなかった大失敗だった、と考えるほか無い。

これまで、環境問題を理由として欧州では事実上禁止されていたシェールガス採掘も開始すべきだという意見も強い。欧州には十分な埋蔵量があり、米国なみに開発すれば、本来はロシアから輸入などせず、ガスは自給できるはずなのだ。

米国では、与党の民主党に属しながら造反してバイデン政権のグリーンインフラ整備「ビルド・バック・ベター」法案を葬り去ったジョー・マンチン議員が、「ロシアからのあらゆる輸入を止め、国内の石油・ガスを大増産して自由世界に提供すべきだ」としている。

もとより共和党はバイデンを批判して石油・ガス増産を訴えているから、民主党の造反者と共に、米国議会からは、石油・ガス増産を可能にする法律が出てくると予想される。いまだに脱炭素にこだわっているバイデン政権も従わざるを得ないのではないか。

欧米は、いまこそ結束して原子力・ガス・石油を大増産しなければならない、という訴えがある。日本もこれに伍して、原子力再稼働、石炭火力フル稼働を図り、LNGを節約することで、欧州を助けるべきではないか。

This page as PDF
アバター画像
キヤノングローバル戦略研究所研究主幹

関連記事

  • 3月7日から筆者の滞在するジュネーブにて開催された100年以上の歴史を誇るモーターショーを振り返りつつ雑感を述べたい。「Salon International de l’Auto」、いわゆるジュネーブ・モーターショーのことだ。いわゆるジュネーブ・モーターショーのこと。1905年から開催されている。
  • 「気候危機説」を煽り立てるために、現実的に起きそうな範囲を大きく上回るCO2排出シナリオが用いられ続けてきた。IPCCが用いるSSP5-8.5排出シナリオだ。 気候危機論者は、「いまのままだとこのシナリオに沿って排出が激
  • 今回は気候モデルのマニア向け。 気候モデルによる気温上昇の計算は結果を見ながらパラメーターをいじっており米国を代表する科学者のクーニンに「捏造」だと批判されていることは以前に述べた。 以下はその具体的なところを紹介する。
  • 福島第一原子力発電所の津波と核事故が昨年3月に発生して以来、筆者は放射線防護学の専門科学者として、どこの組織とも独立した形で現地に赴き、自由に放射線衛生調査をしてまいりました。最初に、最も危惧された短期核ハザード(危険要因)としての放射性ヨウ素の甲状腺線量について、4月に浪江町からの避難者40人をはじめ、二本松市、飯舘村の住民を検査しました。その66人の結果、8ミリシーベルト以下の低線量を確認したのです。これは、チェルノブイリ事故の最大甲状腺線量50シーベルトのおよそ1千分の1です。
  • 気候変動を気にしているのはエリートだけだ――英国のアンケート結果を紹介しよう。 調査した会社はIpsos MORIである。 問いは、「英国で今もっとも大事なことは何か?」というもの。コロナ、経済、Brexit、医療に続い
  • 前稿において欧州委員会がEUタクソノミーの対象に原子力を含める方向を示したことを紹介した。エネルギー危機と温暖化対応に取り組む上でしごく真っ当な判断であると思う。原子力について国によって様々な立場があることは当然である。
  • IPCCの報告がこの8月に出た。これは第1部会報告と呼ばれるもので、地球温暖化の科学的知見についてまとめたものだ。何度かに分けて、気になった論点をまとめてゆこう。 京都の桜の開花日が早くなっているという図が出ている(図1
  • 環境教育とは、決して「環境運動家になるよう洗脳する教育」ではなく、「データをきちんと読んで自分で考える能力をつける教育」であるべきです。 その思いを込めて、「15歳からの地球温暖化」を刊行しました。1つの項目あたり見開き

アクセスランキング

  • 24時間
  • 週間
  • 月間

過去の記事

ページの先頭に戻る↑