不合理なエネルギー政策が大規模停電を招く
これは今年1月7日の動画だが、基本的な問題がわかってない人が多いので再掲しておく。いま問題になっている大規模停電の原因は、直接には福島沖地震の影響で複数の火力発電所が停止したことだが、もともと予備率(電力需要に対する供給の余裕率)が3%しかなかったので、供給能力が3%以上落ちると停電が起こることはわかっていた。
今は揚水発電で不足分を供給しているが、20時ごろにはそれも停止するので、絶対的な電力不足になると、計画停電が避けられない。
【引き続き #節電 にご協力をお願いいたします】
■揚水式水力発電所の発電可能容量(kWh)残量
17時点の揚水式水力発電所の発電可能容量(kWh)の残量です。
引き続き、節電へのご協力をお願いいたします。
<電気事業連合会「省エネ・節電お役立ち情報」>https://t.co/spR6AKZfmZ pic.twitter.com/iJJNrmdQTc— 東京電力パワーグリッド株式会社 (@TEPCOPG) March 22, 2022
ゆがんだ電力自由化で供給能力が激減した
こうなった根本原因は電力自由化である。もともと発送電分離は、規模の経済の大きい送電部門とそうでもない発電部門を分離し、発電部門を市場原理にゆだねるものだから、停電のリスクは増える。どこの国でも、自由化した直後には大停電が起こった。
しかし日本の電力自由化は、民主党政権によって原発の全面停止と同時に行われたため、市場原理が大きくゆがめられた。原発の停止で、電力供給の20%が失われ、それを高価なスポット価格のLNGで埋めたため、電気料金は1.5倍になった。
おまけに再エネ最優先で、40円/kWhという世界最高の価格でFIT(固定価格買い取り)を義務づけたため、太陽光発電に業者が殺到し、電力会社はそれを全量買い取るため、火力の稼働率が落ち、採算が取れなくなった。
「石炭火力を100基減らせ」という経産省の政策
さらに脱炭素化のため、経産省は石炭火力の新設を制限し、2030年までに非効率な石炭火力を100基減らせと電力会社に指示したため、古い石炭火力が廃止された。これは全国に150基ある石炭火力の7割をなくせということで、ざっくりいうと日本の発電能力の20%が失われる。

日本経済新聞より
特に(採算の悪化と規制による)石炭火力の廃止が、供給不足の最大の原因である。再エネの使えない時間に供給するベースロード電源が不足したのだ。今ごろになって、エネ庁はあわてて「石炭火力を廃止するときは事前に役所に報告しろ」と朝令暮改の行政指導をしているが、電力会社がそれに従う義務はない。
電力自由化した今は、発電会社に供給責任はない。昼間に高い価格で買い取ってもらい、夜になったら供給できない太陽光の尻ぬぐいをする義務はないのだ。これは市場原理で電力を供給した当然の結果である。
このゆがみを是正するベストの対策は、原発の再稼動である。原子力規制委員会が設置変更許可しても運転していない原発が7基ある。これを動かすだけで、予備率は大幅に向上する。
もう一つの対策は、現在のエネルギー規制を見直すことだ。特に100年後の地球の平均気温を1℃下げるために現在の生活を危険にさらす脱炭素規制には合理的根拠がない。これを機会に、エネルギー基本計画を始めとする日本の不合理なエネルギー政策を抜本的に見直すべきだ。

関連記事
-
福島第一原子力発電所の重大事故を契機に、原発の安全性への信頼は大きくゆらぎ、国内はおろか全世界に原発への不安が拡大しました。津波によって電源が失われ、原子炉の制御ができなくなったこと、そしてこれを国や事業者が前もって適切に対策をとっていなかったこと、そのため今後も同様の事故が発生するのではないかとの不安が広がったことが大きな原因です。
-
エジプトで開かれていたCOP27が終わった。今回は昨年のCOP26の合意事項を具体化する「行動」がテーマで新しい話題はなく、マスコミの扱いも小さかったが、意外な展開をみせた。発展途上国に対して損失と被害(loss and
-
100 mSvの被ばくの相対リスク比が1.005というのは、他のリスクに比べてあまりにも低すぎるのではないか。
-
アゴラ研究所は、9月27日に静岡で、地元有志の協力を得て、シンポジウムを開催します。東日本大震災からの教訓、そしてエネルギー問題を語り合います。東京大学名誉教授で、「失敗学」で知られる畑村洋太郎氏、安全保障アナリストの小川和久氏などの専門家が出席。多様な観点から問題を考えます。聴講は無料、ぜひご参加ください。詳細は上記記事で。
-
前稿で触れた「気候変動の真実 科学は何を語り、何を語っていないか」については、このアゴラでも既に杉山大志氏とノギタ教授の書評が出ており、屋上屋を架すの感なしとしないが、この本体価格2200円の分厚い本を通読する人は少ない
-
アゴラ研究所の運営するネット放送「言論アリーナ」。6月2日に「京都議定書はなぜ失敗したのか?非現実的なエネルギーミックス」を放送した。出演は澤昭裕氏(国際環境経済研究所所長、21世紀政策研究所研究主幹)、池田信夫氏(アゴラ研究所所長)、司会はGEPR編集者であるジャーナリストの石井孝明が務めた。
-
IAEA(国際原子力機関)の策定する安全基準の一つに「政府、法律および規制の安全に対する枠組み」という文書がある。タイトルからもわかるように、国の安全規制の在り方を決める重要文書で、「GSR Part1」という略称で呼ばれることもある。
-
原子力規制委員会、その下部機関である原子力規制庁による活断層審査の混乱が2年半続いている。日本原電の敦賀原発では原子炉の下に活断層がある可能性を主張する規制委に、同社が反論して結論が出ない。東北電力東通原発でも同じことが起こっている。調べるほどこの騒動は「ばかばかしい」。これによって原子炉の安全が向上しているとは思えないし、無駄な損害を電力会社と国民に与えている。
動画
アクセスランキング
- 24時間
- 週間
- 月間