節電ポイントより「再エネピーク課金」を
夏の電力不足の対策として、政府が苦しまぎれに打ち出した節電ポイントが迷走し、集中砲火を浴びている。「原発を再稼動したら終わりだ」という批判が多いが、問題はそう簡単ではない。原発を動かしても電力危機は終わらないのだ。
電力自由化で火力の固定費が回収できなくなった
2000年代に八田達夫氏などが電力オークションを提案したとき想定されていたのは火力と原子力だったが、今回の電力不足の最大の問題は、天気まかせでコントロールできない再エネが増えたことだ。
再エネがマイナーだったころは、多少足りなくても大手電力(旧一電)が尻ぬぐいしてくれたが、2016年に発送電分離が始まったときから大手電力は尻ぬぐいをやめ、火力を廃止し始めた。次の図のように、2030年までに火力は1600万kW以上も純減する予定だ。これは九州電力の総発電量が丸々なくなるぐらいの量である。なぜこんなことになったのか。

エネ庁資料より
一つの原因は2030年までに温室効果ガスを46%減らすというエネルギー基本計画だが、もう一つは供給責任のない新電力が大量に参入したことだ。昔の総括原価主義のころは、大手電力が地域独占する代わりに供給責任を負っていたが、新電力はオークションの落札価格で売るだけで、その供給量が足りるかどうか考えない。
再エネはFITで固定費を回収できるので、余剰電力のオークションではkWh当たりの限界費用で応札できるが、火力は燃料費がかかるので固定費が回収できない。しかも火力は再エネの発電していないときしか電力を売れないので、稼働率が落ちて撤退する。これは一時的な不足ではなく、電力システム改革の制度設計ミスなのだ。
設計ミスを認めないで開き直る松村敏弘氏
ところがそういう批判に対して、この制度を設計した松村敏弘氏は「電力逼迫に騒ぎすぎだ」と開き直っている。今年3月に電力逼迫警報が出た原因は3つの稀な偶然が重なったことだから、停電のリスクをゼロにする必要はないという。
ゼロエミッション社会実現に向けて変動再エネが増加していく中で、需給逼迫が起こる度に危機とあおり立て、古い電力村の発想に基づく制度への揺り戻しが起これば、ただでさえ高い電力コストはどこまで高くなるかわからないし、既にその兆候が現れていると懸念している。
「古い電力村」という言葉に、旧一電を敵視して新電力の利益をはかる松村氏の立場がよく出ている。彼は「旧一電が火力を安易にたたむのが電力不足の原因だ」と批判するが、それこそ電力自由化の目的としたインフラ効率化ではないのか。
ゼロリスクを目ざすべきではないというのは正しいが、効率化による値下げは実現したのか。大停電リスクが高まった上に電気代が20%以上も上がった電力自由化は、再エネ業者以外の誰の利益になったのか。

日本経済新聞より
これはウクライナ戦争などの要因もあるが、最大の要因は「ゼロエミッション社会実現に向けて変動再エネが増加」したことだ。昨年のFIT賦課金は2.7兆円。家計負担になるだけでなく、産業用では電気料金の20%にのぼる。固定価格で全量買い取りを義務づけるFITは統制経済であり、電力自由化とは相容れない。

エネ庁資料より
2012年に40円/kWhで買い取りの決まった業者は、何も企業努力しなくても20年間同じ価格で売れるので、ピーク時に需要が増えても発電量を増やさない。今年からFIPが始まったが、これからもFIT賦課金は増え続け、2030年までに総額40兆円に及ぶ。
エネルギー政策の優先順位を考え直そう
このように日本の電力システム改革は、発送電分離(電力インフラ効率化)と再エネFIT(脱炭素化)という矛盾する制度改革を同時にやったため、再エネという不安定な電源に補助金を出す逆インセンティブになった。おかげで莫大な利益が確実に上がる再エネに投資が集中し、火力が過少投資になったのだ。
それが今の混乱の原因なので、競争条件を対等にする必要がある。20年買い取る約束のFIT補助金を今から打ち切るわけには行かないが、これまで再エネ業者のあげた超過利潤を還元させる再エネピーク課金を創設してはどうだろうか。
電力需給の逼迫している真夏と真冬の時期に限って、バックアップ設備をもたない再エネ業者に政府が従量課金し、それを小売り料金に上乗せする。節電要請するより、ピーク時の電気料金を上げて価格メカニズムで解決すべきだ。
本来の電力自由化はそういう目的だったが、ピーク時にも固定価格で買い取るFITが価格メカニズムを阻害しているので、火力との競争条件を対等にするのだ。このような発電側課金はこれまでも提案されているが、河野太郎氏を初めとする再エネ議連の反対で実現していない。
電力需給の逼迫している今は、エネルギー政策の優先順位を考え直すときである。脱炭素化は緊急でも最優先でもない。2050年に日本がゼロエミッションにしても、地球の平均気温は0.01℃も下がらない。電力需給を改善してから、100年単位でゆっくり考えればいい。
関連記事
-
2年半前に、我が国をはじめとして、世界の潮流でもあるかのようにメディアが喧伝する“脱炭素社会”がどのようなものか、以下の記事を掲載した。 脱炭素社会とはどういう社会、そしてESGは? 今回、エネルギー・農業・人口・経済・
-
田中 雄三 国際エネルギー機関(IEA)が公表した、世界のCO2排出量を実質ゼロとするIEAロードマップ(以下IEA-NZEと略)は高い関心を集めています。しかし、必要なのは世界のロードマップではなく、日本のロードマップ
-
監督:太田洋昭 製作:フィルムボイス 2016年 東日本大震災、福島第一原子力発電所事故から5年間が過ぎた。表向きは停電も電力不足もないが、エネルギーをめぐるさまざまな問題は解決していない。現実のトラブルから一歩離れ、広
-
GEPRとアゴラでは、核燃料サイクル問題について有識者の見解を紹介した。そして「日本の核武装の阻止という意図が核燃料サイクル政策に織り込まれている」という新しい視点からの議論を示した。
-
2011年3月11日の東北地方太平洋沖地震直後の誘発地震で、それまでに考慮されていなかった断層に地表地震断層を生じたことから、翌年、国は既設原子力発電所の敷地内破砕帯を対象に活動性の有無に関するレヴューを行なった。
-
8月中旬、ジャカルタで第2回AZEC(アジア・ゼロ・エミッション共同体)閣僚会合が開催された。 AZECは脱炭素化を推進するアジア諸国による枠組みとして岸田首相が2022年1月の施政方針演説で提唱したものであり、日本の技
-
筆者はかねがね、エネルギー・環境などの政策に関しては、科学的・技術的・論理的思考の重要さと有用性を強調してきたが、一方で、科学・技術が万能だとは思っておらず、科学や技術が人間にもたらす「結果」に関しては、楽観視していない
-
はじめに インターネットでウランを売買していた高校生が摘発された。普通、試験管に入った量程度のウランを売買するのに国への報告が必要になるとは気が付かないが、実はウランは少量でも国に報告しなければならないことになっている。
動画
アクセスランキング
- 24時間
- 週間
- 月間
















