「再エネ100%」表示も企業行動指針に反する
「再エネ100%で製造しています」という(非化石証書などの)表示について考察する3本目です。本来は企業が順守しなければならないのに、抵触または違反していることとして景表法の精神、環境表示ガイドラインの2点を指摘しました。
さらに、各社が自主的に策定している企業行動指針注1)も順守できていません。1月10日付記事で大手企業50社の企業行動指針について調査した結果を示しましたが、各社の行動指針には「顧客対応」「消費者課題」「コミュニケーション」などの項目があり、この中で「虚偽広告をしない」「誇大広告をしない」「不当表示をしない」旨の宣言があります。
通常の購入電力で製造しており現実にはCO2を排出しているのに、カーボンオフセットによって「再エネ100%」と表示することは企業行動指針に明確に反する宣伝行為と言えます。
3回にわたって述べてきた内容をまとめると、「再エネ100%」表示はハードローである景表法の精神に抵触しており、ソフトローである環境表示ガイドライン、ならびに企業が自ら策定し宣言している行動指針に対しては明確に反しています。
非化石証書やJ-クレジットは国が認めている制度だから問題ないという姿勢は思考停止と言わざるを得ません。狭義の法令違反さえ避ければよいのであれば、そもそも行動指針なんてものを策定しわざわざ外部に宣言する必要はないはずです。
これは企業倫理の問題なのです。「この製品は再エネ100%(つまりCO2排出ゼロ)です」と子供の目を見て言えるのでしょうか。消費者や顧客に優良誤認を与えないよう、企業や広告主など情報を発信する側には高い倫理観と節度が求められます。
そもそも、CSRやサステナビリティは企業が利益最優先、ビジネス最優先にならないために配慮しなければならいものとして生まれました。企業は儲けるためなら何をやってもよいのではなく、公害防止や人権保護、競争法など様々なルールや規範に則ってビジネスを行わなければなりません。
脱炭素は環境配慮、サステナビリティの一環のはずですが注2)、いまや利益最優先、ビジネス最優先のための錦の御旗となり産業界全体が様々なルールを無視して暴走しているように筆者には感じます。その結果、サプライチェーンにおける下請けいじめ、強制労働やジェノサイドへの加担、消費者・顧客に対する誇大広告などが蔓延する社会になってもよいのでしょうか。
最後に、企業担当者には分かりやすいと思いますので、前々回記事で整理した表を再掲します。自社の脱炭素への取り組みがこれらに反していないか、これらに反してまで進めなければならないものなのか、虚心坦懐に見直してみることをおすすめします。
■
注1)行動憲章、CSR規範、サステナビリティポリシー、コードオブコンダクト、ESG憲章、など名称は各社各様。
注2)太陽光発電については、ウイグル問題、間欠性、将来の廃棄物処理、格差拡大、森林破壊、防災など課題山積でありサステナビリティの一環とは言えない。詳細は『メガソーラーが日本を救うの大嘘』をご覧いただきたい。
【関連記事】
・企業の脱炭素は自社の企業行動指針に反する①
・企業の脱炭素は自社の企業行動指針に反する②
■
関連記事
-
運転開始から40 年前後が経過している原子炉5基の廃炉が決まった。関西電力の美浜1、2号機、日本原子力発電の敦賀1号機、中国電力島根1号機、九州電力玄海1号機だ。これは40年を廃炉のめどとする国の原子力規制のルールを受けたものだ。ただしこの決定には問題がある。
-
6月23日、ドイツのハーベック経済・気候保護相は言った。「ガスは不足物資である」。このままでは冬が越せない。ガスが切れると産業は瓦解し、全世帯の半分は冬の暖房にさえ事欠く。 つまり、目下のところの最重要事項は、秋までにガ
-
アゴラチャンネルで池田信夫のVlog、「トヨタが日本を出て行く日」を公開しました。 ☆★☆★ You Tube「アゴラチャンネル」のチャンネル登録をお願いします。 チャンネル登録すると、最新のアゴラチャンネルの投稿をいち
-
情報の量がここまで増え、その伝達スピードも早まっているはずなのに、なぜか日本は周回遅れというか、情報が不足しているのではないかと思うことが時々ある。 たとえば、先日、リュッツェラートという村で褐炭の採掘に反対するためのデ
-
サウジアラビアのサルマン副皇太子が来日し、「日本サウジアラビア〝ビジョン2030〟ビジネスフォーラム」を開いた。これには閣僚のほか、大企業の役員が多数詰めかけ、産油国の富の力とともに、エネルギー問題への関心の強さを見せた。
-
2月24日にロシアがウクライナに侵攻して以来、世界各地でインフラの「不具合」が相次いでいる。サイバー攻撃が関与しているのか、原因は定かではないが・・・。 1. ドイツの風力発電 ドイツでは、2022年3月4日時点で、約6
-
米国の元下院議長であった保守党の大物ギングリッチ議員が身の毛がよだつ不吉な予言をしている。 ロシアがウクライナへの侵略を強めているのは「第二次世界大戦後の体制の終わり」を意味し、我々はさらに「暴力的な世界」に住むことにな
-
私の専門分野はリスクコミュニケーションです(以下、「リスコミ」と略します)。英独で10年間、先端の理論と実践を学んだ後、現在に至るまで食品分野を中心に行政や企業のコンサルタントをしてきました。そのなかで、日本におけるリスク伝達やリスク認知の問題点に何度も悩まされました。本稿では、その見地から「いかにして平時にリスクを伝えるのか」を考えてみたいと思います。
動画
アクセスランキング
- 24時間
- 週間
- 月間