地球が沸騰しているというデータを見てみる

Tr6/iStock
おなじみ国連のグテーレス事務総長が「もはや地球温暖化(global warming)ではなく地球沸騰(global boiling)だとのたまっている。
2023年7月は世界の平均気温が観測史上最高の月になるとされ、国連のグテーレス事務総長は「地球温暖化の時代は終わり、“地球沸騰”の時代が到来した」と危機感を訴えました。
しかしいくらなんでも地球が沸騰などするはずない。水の沸点は100℃で、地球の平均気温は15℃程度だ。地球温暖化といっても100℃になるわけがない。
この人は以前も「気候時限爆弾」などのキャッチフレーズを次々に生み出してきたので、今回もそのような「勢い」でモノを言っているだけだとおもえばそれまでで、ことさら目くじら立てなくてもよいのかもしれないが。しかし世界の指導的立場にある人がまるで非科学的で扇動家のような言葉を繰り出すのはいかがなものだろうか。
ちなみに、以前書いたように、科学的な間違いという点ではこの方はもっと悪質な間違いも繰り返してきた。「50年で世界の災害が5倍になった」などというのはその最たるものだ。
まあ「地球が沸騰」というのは大嘘であるにしても、今年の7月が暑かったのは確かなようだ。英国BBCは下記の図1を示している。これだと直線的に暑くなって、これは大変だ、という印象になる。

図1 BBCより
だがこの図はどうも変だと思って他のデータを見ると、まず地上2mの気温について欧州の機関がまとめたERA5は図2のようになっている。

図2 地上2mの平均気温
出典:Climate Etc.
また対流圏(上空9000メートルまで)の気温についての衛星観測UAHのデータは図3のようになっている

図3 対流圏の平均気温
出典:Climate Etc.
これを見ると図2から少なくとも一度はこの2023年7月のピークに匹敵する気温があったことが分かる。また図3を見ると似た様な気温ピークが過去に何回かあったことが分かる。
図1と、図2&3の違いは何かといえば、図1は7月の気温だけを取り出していることだ。7月以外の気温も取り出すと、過去に似た様な気温のスパイク的な上昇は何回か存在していた。いずれも短期間で終わっていたから、今回もそうなることが予想される。
なお図2と図3の違いは、図2には都市化の影響が混入している可能性が高いことだ。図2を見ると1回だけだが、図3を見ると過去3度にわたり、今回なみの気温スパイクがあったことが分かる。
ところで、2023年7月が史上最高の気温だったということは、以下の図4で説明されることがある。この図は毎年1月から12月までの世界平気の気温をプロットしたものだ。1月は寒く、7月が一番暑くなっている。毎年気温は異なるが、今年は全般に気温が高く推移し、2023年7月にはとても気温が高くなっている(図中の赤い太い線)。

図4
曲線同士を比較して見ると地球の平均気温はいまこの観測期間で「最高」になっているには違いないが、過去の最高記録と比べて何℃も高い訳では無く、コンマ何度しか違わない。「地球沸騰」なんて大げさにすぎる。
もう1つ気づくことは、毎年、1月と7月で4℃も違うことだ。夏暑いからあたりまえ・・・ではない。なぜなら、北半球が夏なら南半球は冬だからだ。ではなぜ7月に地球平均気温は高くなるかというと、北半球は陸地が多く、南半球は海洋が多いので、北半球の夏に地球平均の気温が高くなるという訳だ。
図2や図3の「地球平均気温」の図はよく見るけれども、じつはこれは正確に言えば地球平均気温ではなく「過去一定期間平均での同月の気温に比べてのその月の気温の差」の図なのだ。
地球温暖化で1℃上昇、2℃上昇、というけれども、じつはこのような毎年4℃も地球平均で上下しているものが少しずつずれていく、というのが正確な理解である。
2023年の短期的な気温スパイクの原因が何かは盛んに議論がされている。大気・海洋の自然変動、2022年のフンガトンガ噴火の影響(火山噴火は地球を冷やすことが多いがその逆もある)、2015年に規制が始まり2020年に義務化された船舶燃料からの硫酸塩エアロゾル排出量の変化(雲の生成を抑制し太陽光反射が減少する)、といった要因が検討されている。CO2による変化はゆっくりしたものだから、このような短期的な気温スパイクには別の理由があるはずだ。
■
関連記事
-
EU農業政策に対する不満 3月20日、ポーランドのシュチェチンで農民デモに遭遇した。主要道路には巨大なトラクターが何百台も整然と停まっており、その列は延々と町の中心広場に繋がっていた。 広場では、農民らは三々五々、集会を
-
東日本大震災以来進められてきた「電力システム改革」は、安定供給を維持しつつ、事業者間での競争を導入することで電気料金が下がるという約束で始まったはずである。 だが現実は違った。家計や企業の負担は重いまま、節電要請は何度も
-
前回報告した通り、6月のG7カナナスキスサミットは例年のような包括的な首脳声明を採択せず、重要鉱物、AI、量子等の個別分野に着目した複数の共同声明を採択して終了した。 トランプ2.0はパリ協定離脱はいうに及ばず、安全保障
-
これは今年1月7日の動画だが、基本的な問題がわかってない人が多いので再掲しておく。いま問題になっている大規模停電の原因は、直接には福島沖地震の影響で複数の火力発電所が停止したことだが、もともと予備率(電力需要に対する供給
-
過去の気温上昇について、気候モデルは観測に比べて過大評価していることは何回か以前に書いた(例えば拙著をご覧頂きたい)。 今回は、じつは海水温も、気候モデルでは熱くなりすぎていることを紹介する。 海水温は、気候システムに余
-
このタイトルが澤昭裕氏の遺稿となった論文「戦略なき脱原発へ漂流する日本の未来を憂う」(Wedge3月号)の書き出しだが、私も同感だ。福島事故の起こったのが民主党政権のもとだったという不運もあるが、経産省も電力会社も、マスコミの流す放射能デマにも反論せず、ひたすら嵐の通り過ぎるのを待っている。
-
昨年夏からこの春にかけて、IPCCの第6次報告が出そろった(第1部会:気候の科学、第2部会:環境影響、第3部会:排出削減)。 何度かに分けて、気になった論点をまとめていこう。 縄文時代は「縄文海進期」と言われ、日本では今
-
沖縄電力でシンプルガスタービン(GT)火力の設置を承認 2025年9月3日付の電気新聞は「エネ庁、沖縄で『GT単独』容認―火力の新設基準改正案」と題し、沖縄電力が計画するシンプルGT(ガスタービン)火力発電所の新設が、省
動画
アクセスランキング
- 24時間
- 週間
- 月間

















