COP28の結果を「化石燃料からの脱却」と言う印象操作

peshkov/iStock
先日、COP28の合意文書に関する米ブライトバートの記事をDeepL翻訳して何気なく読みました。
Climate Alarmists Shame COP28 into Overtime Deal to Abandon Fossil Fuels
以下はブライトバート記事の抜粋とDeepLの翻訳です。
The COP28 climate conference in Dubai seemed to be heading for an anticlimax on Tuesday, as the last scheduled day of negotiations passed without reaching the top goal of the climate movement: a worldwide agreement to phase out fossil fuels.
The conferees went into “overtime,” however, and were able to hammer out a “historic” deal to “transition away” from fossil fuels in a “just, orderly, and equitable manner” to “achieve net zero by 2050.”
There was still some grumbling about a much weaker agreement than the climate faithful wanted. The coming months will surely be filled with debate about what “transition away” means, compared to the originally desired language of “phase out,” and just how many exceptions will be granted under the rubric of “just, orderly, and equitable.”(太字は筆者)
火曜日にドバイで開催されたCOP28気候変動会議は、予定されていた交渉の最終日を化石燃料からの脱却という気候変動運動の最重要目標に到達することなく終え、拍子抜けに終わるかと思われた。
しかし、会議参加者たちは “延長戦 “に入り、”2050年までに正味ゼロを達成する “ために、”公正、秩序ある、公平な方法”で化石燃料から “脱却“するという “歴史的”合意を打ち出すことができた。
気候変動信奉者が望んでいたよりもはるかに弱い合意には、まだ不満の声もあった。今後数カ月は、「段階的な脱却」という当初望まれていた表現と比較して、「脱却」とは何を意味するのか、また、「公正、秩序ある、公平な」という名目で、どれだけの例外が認められるのか、といった議論に明け暮れることになるに違いない。(太字は筆者)
その後、12月19日付杉山大志氏のアゴラ記事を読みました。
NHKニュースを見るとCOP28では化石燃料からの脱却、と書いてあった。
だが、これはほぼフェイクニュースだ。こう書いてあると、さもCOP28において、全ての国が化石燃料から脱却する、と合意したように読める。
実際に決定したことは、「この会議(COP28)は、締約国に対し、化石燃料からトランジション・アウェイすることを呼び掛ける」というだけだ。
だからNHKの見出しは正確に書き直すと「COP28が参加国に化石燃料からの移行を呼び掛けた」である。
DeepLもNHKと同じように「transition away」を「脱却」と表現していました。
そこでGoogle翻訳でも同じ文章を試してみたところ、こちらは「移行」と訳してくれました。
ドバイで開催されたCOP28気候会議は火曜日、気候変動運動の最大の目標である化石燃料を段階的に廃止するという世界的な合意に達することなく予定された交渉の最終日を過ぎ、アンチクライマックスに向かうかに見えた。
しかし、会議出席者らは「延長戦」に入り、「2050年までに純ゼロを達成」するために「公正、秩序、公平な方法」で化石燃料から「移行」するという「歴史的」合意をまとめることができた。
気候変動の信奉者が望んでいたよりもはるかに弱い合意については、依然として不満の声があった。今後数カ月は、当初望まれていた「段階的廃止」という文言と比べて「移行」が何を意味するのか、そして「公正、秩序的、公平」という理念のもとにどれだけの例外が認められるのかについての議論で盛り上がることは間違いない。(太字は筆者)
移行と脱却ではまったく印象が異なります。どうやらDeepLはGoogle翻訳よりも気候危機論者のようです。海外の記事を読めるのはとても便利なのですが、訳文だけでなくちゃんと原文も読まなければならないなと改めて思いました。サボってはなりませんね。
続いて、報道をざっと見返したところ、ほとんどのメディアで「脱却」と表現されていました。
- 化石燃料から「脱却」を 成果文書を採択―COP28(12月13日付時事通信)
- 化石燃料からの「脱却」を10年で加速、COP28採択(12月13日付読売新聞)
- 10年で化石燃料から脱却加速 COP28成果文書採択(12月13日付日本経済新聞)
- 化石燃料からの「脱却」表明 COP28が文書採択し閉幕(12月13日付産経新聞)
- (社説)COP28閉幕 化石燃料脱却を確実に(12月17日付朝日新聞)
- COP28、化石燃料脱却への取り組みで合意-1日遅れで閉幕(12月13日付ブルームバーグ)
- COP28、化石燃料から脱却で合意 成果文書採択(12月13日付ロイター)
- COP28、化石燃料からの「脱却」で合意 「フェーズ・アウト」は含まれず(12月14日付BBCニュースジャパン)
COP28閉幕後、12月18日に環境省、外務省が結果概要をリリースしました。日本政府代表団の報告ではどこにも「脱却」という言葉はなく、すべて「移行」となっています。
「移行」について身近な例で考えると、たとえばスマートフォンの機種変更やパソコン更新時のデータ移行があります。もちろんデータを消去するわけではありません。ブライトバート記事にある通り、化石燃料の移行と言われても筆者には意味が分かりませんが(石炭を天然ガスにするなど?)、これを「脱却」とした場合には化石燃料の廃止をめざすという印象になります。
杉山氏の指摘通り、「脱却」と表現して世界中で化石燃料が廃止されるかのような印象を与える報道はフェイクニュースと言われても仕方がありません。
我々企業人を含め大半の国民は忙しいので日々の情報を報道から入手します。都度原文にあたる時間などないので、メディアは事実をそのままに、公正で公平に報じてほしいものです。
■

関連記事
-
2月のドイツ総選挙においてフリードリッヒ・メルツ氏が率いるCDU/CSU(キリスト教民主同盟、キリスト教社会同盟)が勝利(得票率2021年時24.2%→28.5%)を収める一方、現政権を構成するSPD(社会民主党)(25
-
眞鍋叔郎氏がノーベル物理学賞を受賞した。祝賀ムードの中、すでに様々な意見が出ているが、あまり知られていないものを紹介しよう。 今回のノーベル物理学賞を猛烈に批判しているのはチェコ人の素粒子物理学者ルボシュ・モトルである。
-
半世紀ほど前から原子力を推進することを仕事としていたが、引退したとたんに自分自身が原発事故で避難しなくてはならなくなった。なんとも皮肉な話だ。
-
GEPR・アゴラの映像コンテンツである「アゴラチャンネル」は4月12日、国際環境経済研究所(IEEI)理事・主席研究員の竹内純子(たけうち・すみこ)さんを招き、アゴラ研究所の池田信夫所長との対談「忘れてはいませんか?温暖化問題--何も決まらない現実」を放送した。
-
今年の7~8月、東京電力管内の予備率が3%ぎりぎりになる見通しで、政府は節電要請を出した。日本の発電設備は減り続けており、停電はこれから日常的になる。年配の人なら、停電になってロウソクで暮らした記憶があるだろう。あの昭和
-
EUの行政執行機関であるヨーロッパ委員会は7月14日、新たな包括的気候変動対策の案を発表した。これは、2030年までに温室効果ガスの排出量を1990年と比べて55%削減し、2050年までに脱炭素(=実質ゼロ、ネットゼロ)
-
小泉元首相を見学後に脱原発に踏み切らせたことで注目されているフィンランドの高レベル核廃棄物の最終処分地であるONKALO(オンカロ)。
-
アゴラ研究所の運営するエネルギーのバーチャルシンクタンクGEPRはサイトを更新しました。
動画
アクセスランキング
- 24時間
- 週間
- 月間