やっぱりね…早くもポストSDGsの議論がスタート

manbo-photo/iStock
「ポストSDGs」策定にらみ有識者会 外務省で初会合 日経新聞
外務省は22日、上川陽子外相直轄の「国際社会の持続可能性に関する有識者懇談会」の初会合を開いた。2030年に期限を迎える枠組み「SDGs(持続可能な開発目標)」の次の目標の国際議論を見据え、日本の独自案の策定に着手する。
現行のSDGsは3年間の議論を経て15年に国連総会で採択した。次期目標の本格的な調整が始まるのを前に「ポストSDGs」の検討を国内で進めて国際議論をリードする狙いがある。
「国際社会の持続可能性に関する有識者懇談会」第1回会合の開催(結果) 外務省
冒頭、上川大臣から、国際社会が様々な複合的危機に直面し、国際社会全体の持続可能性の確保に向けた取組が大きな困難に直面する中、今一度、様々なステークホルダーの方々の知見を広く得ながら、成長と持続可能性を同時に実現していくためのアプローチを改めて創造的に検討し、国際社会をリードしていくことが強く求められている旨指摘しつつ、今次有識者懇談会では、自由闊達な議論を通じ、2030年以降も見据えながら、我が国の持続的成長と国際社会全体の持続可能性の確保のあり方について、クリエイティブに検討を進めていきたい旨述べました。
筆者が2021年9月のアゴラ記事で述べた通り、ポストSDGsの議論がスタートしたようです。
さて、SDGsの目標達成年である2030年の未来を想像してみます。SDGsは必ず未達に終わります(ここだけは想像ではなく、断言します)。すると2031年以降に「ポストSDGs」が生まれるはずです。企業のサステナビリティ担当者や学生は、また勉強し直さなければなりません。
企業では、自社の活動とSDGs17分類との関連付け(SDGsタグ付け)もポストSDGsタグ付けとしてやり直しです。ポストSDGsコンサルタント(元CSRコンサルタント、元SDGsコンサルタント、元ESGコンサルタント)たちは「新たな世界目標ができました!」「日本企業は遅れています!」「バスに乗り遅れるな!」と言って企業を煽っている姿が目に浮かびます。
ポストSDGsの目標は果たして何項目になっているでしょうか。200項目?300項目?分量が多いほど、内容が難解なほど、そしてクライアントに成果や付加価値が現れないほど、ポストSDGsコンサルタントは儲かり、サステナブルなビジネスになります。
さらにその先の未来である2045年、もしくは2050年にポストSDGsの最終年を迎え、また未達に終わります(ここだけは想像ではなく、断言します)。するとその翌年には「ポストポストSDGs」が現れ、ポストポストSDGsコンサルタントはまた日本企業に対して……以下略。
もちろん時期なんて予想していませんでしたが、ポストSDGsの議論を始めるのが早いなぁという印象です。以前にGoogleトレンドで「SDGs」の検索量推移をまとめたことがありますが(2022年6月8日付アゴラ記事)、2024年4月23日現在の状況を見ると、2021年にピークアウトして以降の衰退が顕著です。

出典:Googleトレンド
ポストSDGsの議論が始まったのも頷けます。あのカラフルなバッジをつけたサラリーマンを見かける頻度ともなんとなく符合しているように感じます。
これから議論されるポストSDGsでも誰も否定できない美辞麗句が並べられ、「これがビジネスチャンスです」「取り組まないとサプライチェーンから排除されます」と言われて企業が取り組みを強要されます。しかし、コンサルや監査法人が儲かるだけで取り組む企業にとって付加価値はありません。
ビジネスチャンスとは本来、気がついた人が誰にも言わず秘かに取り組むことで利益を得るものです。したがって、国連や政府が作成し全世界に公開される文書がビジネスチャンスになるはずがありません。
仮にビジネスチャンスであれば、早く知った企業が独占したいはずだし、SDGsに価値を見出した企業が自由参加で取り組む方がビジネスチャンスを掴みやすいはずです。全企業に普及させようとするのは普及が自己目的化しているからにほかなりません。
また「新SDGsは世界目標!」「日本は新SDGs後進国!」と喧伝するコンサルタントや専門家がたくさん現れます。バッジもつくり直すのでしょうか。
■

関連記事
-
真夏の電力ピークが近づき、原発の再稼働問題が緊迫してきた。運転を決めてから実際に発電するまでに1ヶ月以上かかるため、今月いっぱいが野田首相の政治判断のタイムリミット・・・といった解説が多いが、これは間違いである。電気事業法では定期検査の結果、発電所が経産省令で定める技術基準に適合していない場合には経産相が技術基準適合命令を出すことができると定めている。
-
2022年にノーベル物理学賞を受賞したジョン・F・クラウザー博士が、「気候危機」を否定したことで話題になっている。 騒ぎの発端となったのは韓国で行われた短い講演だが、あまりビュー数は多くない。改めて見てみると、とても良い
-
気候変動対策を巡る議論は、IPCC報告書や各種の「気候モデル」が示す将来予測を前提として展開されている。しかし、その根拠となる気候モデルは、科学的厳密性を装いながらも、実は数々の構造的な問題点と限界を抱えている。 本稿で
-
麻生副総裁の「温暖化でコメはうまくなった」という発言が波紋を呼び、岸田首相は陳謝したが、陳謝する必要はない。「農家のおかげですか。農協の力ですか。違います」というのはおかしいが、地球温暖化にはメリットもあるという趣旨は正
-
前回に続いて、環境影響(impact)を取り扱っている第2部会報告を読む。 ■ 今回は2章「陸域・水域の生態系」。 要約と同様、ナマの観測の統計がとにかく示されていない。 川や湖の水温が上がった、といった図2.2はある(
-
日経新聞によると、経済産業省はフランスと共同開発している高速炉ASTRIDの開発を断念したようだ。こうなることは高速増殖炉(FBR)の原型炉「もんじゅ」を廃炉にしたときからわかっていた。 原子力開発の60年は、人類史を変
-
アメリカ人は暑いのがお好きなようだ。 元NASAの研究者ロイ・スペンサーが面白いグラフを作ったので紹介しよう。 青い曲線は米国本土48州の面積加重平均での気温、オレンジの曲線は48州の人口加重平均の気温。面積平均気温は過
-
ろくにデータも分析せずに、温暖化のせいで大雨が激甚化していると騒ぎ立てるニュースが多いが、まじめに統計的に検定するとどうなのだろう、とずっと思っていた。 国交省の資料を見ていたら、最近の海外論文でよく使われている「Man
動画
アクセスランキング
- 24時間
- 週間
- 月間