台湾有事は韓国エネルギー有事、日米台韓の連携が必要だ

1xpert/iStock
台湾有事となると、在韓米軍が台湾支援をして、それが中国による攻撃対象になるかもしれない。この「台湾有事は韓国有事」ということが指摘されるようになった。
これは単なる軍事的な問題ではなく、シーレーンの問題でもある。

図1 韓国と周辺の地理
実際のところ、台湾有事となると、貨物船は、台湾近海は勿論通れなくなる。のみならず、韓国周辺の海域に対しても、中国(あるいは北朝鮮、ロシア)がミサイルやドローンで威嚇すると、貨物船は航行を取りやめてしまうかもしれない。いま紅海ではイエメンのフーシ派がまさにそのような威嚇によって親イスラエル諸国(=先進国)の航行を停止に追い込んでいる。
韓国が海上封鎖を受けると、もちろん経済的な被害は甚大になるが、とくにアキレス腱となるのがエネルギーである。
台湾のエネルギー事情は日本とよく似ている。エネルギー源としては化石燃料依存が高い。その化石燃料はほぼ全量を海外から輸入している。図2から、国産エネルギーは原子力しかないこと、一次エネルギー供給の大半を化石燃料に依存していることが分かる。

図2 韓国のエネルギー需給
石油の備蓄はIEAの備蓄ルールに則って実施されていて、官民合わせて185日以上あるとされる。しかし天然ガスは在庫に加えて37日分の備蓄があるに過ぎない。しかもこれは冬季の寒波による需要増や荒天に備えるためのものであって、海上封鎖に備えたものではない。
韓国は海上封鎖を受けると、エネルギーを節約しながら使っても、3か月も経てば発電用の化石燃料は底をつくだろう。電力が無ければ、経済活動はできず、食料供給もままならなくなって、餓死者が出るかもしれない。現代の食料供給はエネルギーに依存している。平時では、食料1カロリーを得るために、その10倍の10カロリーのエネルギーを使用している。エネルギーがなければ、輸送も、冷蔵も、冷凍もできないから、特に大都市ではたちまち食料にありつけなくなる。
食料の備蓄も心配だ。韓国は米を備蓄しており年間45万トンを政府が買い上げている。だが人口5163万人(2022年)で割ると1人あたり8.7キログラムに過ぎない。これでは海上封鎖されるとたちまち底をついてしまう。食料自給率も日本と同様に低くなってしまっている。
韓国は原子力発電が稼働しているので日本よりも発電部門については恵まれているが、中国・北朝鮮・ロシアと地理的に近い分、海上封鎖の脅威はより増す。
台湾有事に備えて、台湾はもちろん、日本も、シーレーン、そしてエネルギー供給および食料供給の確保が喫緊の課題である。現状では、日・韓・台のいずれも海上封鎖をされるとエネルギーも食料もたちまち不足する。このことは以前書いたが、韓国も全く同じ脆弱性を抱えている。
この状況を改善するためには、日・米・韓・台は「エネルギー同盟」を構築し、備蓄の強化や米国からのエネルギー輸入の安定的な確保を図るべきであろう。
■

関連記事
-
鹿児島県知事選で当選し、今年7月28日に就任する三反園訓(みたぞの・さとし)氏が、稼動中の九州電力川内原発(鹿児島県薩摩川内市)について、メディア各社に8月下旬に停止を要請する方針を明らかにした。そして安全性、さらに周辺住民の避難計画について、有識者らによる委員会を設置して検討するとした。この行動が実現可能なのか、妥当なのか事実を整理してみる。
-
自然エネルギーの利用は進めるべきであり、そのための研究開発も当然重要である。しかし、国民に誤解を与えるような過度な期待は厳に慎むべきである。一つは設備容量の増大についての見通しである。現在、先進国では固定価格買取制度(FIT)と云う自然エネルギー推進法とも云える法律が制定され、民間の力を利用して自然エネルギーの設備増強を進めている。
-
スマートフォン向けゲームアプリ「ポケモンGO(ゴー)」。関係なさそうな話だが、原子力やエネルギーインフラの安全についての懸念を引き起こす出来事が、このゲームによって発生している。
-
前回の英国に引き続き今度はアイルランドのアンケートの紹介。 温暖化対策のためにエネルギー(電気、ガス、石油、ディーゼル)へ課税することに、82%が反対、賛成は14%のみ(図1)。 他の項目は図2のとおり。 図の一番下の2
-
IPCCの報告がこの8月に出た。これは第1部会報告と呼ばれるもので、地球温暖化の科学的知見についてまとめたものだ。何度かに分けて、気になった論点をまとめてゆこう。 IPCC報告の「政策決定者向け要約」を見ると、北極海の氷
-
政策アナリストの6月26日ハフィントンポストへの寄稿。以前規制委員会の委員だった島崎邦彦氏が、関電の大飯原発の差し止め訴訟に、原告の反原発運動家から陳述書を出し、基準地震動の算定見直しを主張。彼から規制委が意見を聞いたという内容を、批判的に解説した。原子力規制をめぐる意見表明の適正手続きが決められていないため、思いつきで意見が採用されている。
-
最近出たお勧めの本です。 著者のマイケル・シェレンバーガーは初めは環境運動家だったが、やがてその欺瞞に気づき、いまでは最も環境に優しいエネルギーとして原子力を熱心に推進している。 地球温暖化に関しては小生とほぼ意見は同じ
-
表面的に沈静化に向かいつつある放射能パニック問題。しかし、がれき受け入れ拒否の理由になるなど、今でも社会に悪影響を与えています。この考えはなぜ生まれるのか。社会学者の加藤晃生氏から「なぜ科学は放射能パニックを説得できないのか — 被害者・加害者になった同胞を救うために社会学的調査が必要」を寄稿いただきました。
動画
アクセスランキング
- 24時間
- 週間
- 月間