台湾有事は韓国エネルギー有事、日米台韓の連携が必要だ

2024年06月17日 06:50
アバター画像
キヤノングローバル戦略研究所研究主幹

1xpert/iStock

台湾有事となると、在韓米軍が台湾支援をして、それが中国による攻撃対象になるかもしれない。この「台湾有事は韓国有事」ということが指摘されるようになった。

これは単なる軍事的な問題ではなく、シーレーンの問題でもある。

実際のところ、台湾有事となると、貨物船は、台湾近海は勿論通れなくなる。のみならず、韓国周辺の海域に対しても、中国(あるいは北朝鮮、ロシア)がミサイルやドローンで威嚇すると、貨物船は航行を取りやめてしまうかもしれない。いま紅海ではイエメンのフーシ派がまさにそのような威嚇によって親イスラエル諸国(=先進国)の航行を停止に追い込んでいる。

韓国が海上封鎖を受けると、もちろん経済的な被害は甚大になるが、とくにアキレス腱となるのがエネルギーである。

台湾のエネルギー事情は日本とよく似ている。エネルギー源としては化石燃料依存が高い。その化石燃料はほぼ全量を海外から輸入している。図2から、国産エネルギーは原子力しかないこと、一次エネルギー供給の大半を化石燃料に依存していることが分かる。

石油の備蓄はIEAの備蓄ルールに則って実施されていて、官民合わせて185日以上あるとされる。しかし天然ガスは在庫に加えて37日分の備蓄があるに過ぎない。しかもこれは冬季の寒波による需要増や荒天に備えるためのものであって、海上封鎖に備えたものではない。

韓国は海上封鎖を受けると、エネルギーを節約しながら使っても、3か月も経てば発電用の化石燃料は底をつくだろう。電力が無ければ、経済活動はできず、食料供給もままならなくなって、餓死者が出るかもしれない。現代の食料供給はエネルギーに依存している。平時では、食料1カロリーを得るために、その10倍の10カロリーのエネルギーを使用している。エネルギーがなければ、輸送も、冷蔵も、冷凍もできないから、特に大都市ではたちまち食料にありつけなくなる。

食料の備蓄も心配だ。韓国は米を備蓄しており年間45万トンを政府が買い上げている。だが人口5163万人(2022年)で割ると1人あたり8.7キログラムに過ぎない。これでは海上封鎖されるとたちまち底をついてしまう。食料自給率も日本と同様に低くなってしまっている。

韓国は原子力発電が稼働しているので日本よりも発電部門については恵まれているが、中国・北朝鮮・ロシアと地理的に近い分、海上封鎖の脅威はより増す。

台湾有事に備えて、台湾はもちろん、日本も、シーレーン、そしてエネルギー供給および食料供給の確保が喫緊の課題である。現状では、日・韓・台のいずれも海上封鎖をされるとエネルギーも食料もたちまち不足する。このことは以前書いたが、韓国も全く同じ脆弱性を抱えている。

この状況を改善するためには、日・米・韓・台は「エネルギー同盟」を構築し、備蓄の強化や米国からのエネルギー輸入の安定的な確保を図るべきであろう

This page as PDF
アバター画像
キヤノングローバル戦略研究所研究主幹

関連記事

  • パリ協定が合意される2か月前の2015年10月、ロンドンの王立国際問題研究所(チャタムハウス)で気候変動に関するワークショップが開催され、パネリストの1人として参加した。欧州で行われる気候変動関連のワークショップは概して
  • 米軍のソレイマニ司令官殺害への報復として、イランがイラク領内の米軍基地を爆撃した。今のところ米軍兵士に死者はなく、アメリカにもイランにもこれ以上のエスカレーションの動きはみられないが、原油価格や株価には大きな影響が出てい
  • 米国シェールガス革命に対する欧州と日本の反応の違いが興味深い。日本では、米国シェールガス革命によって日本が安価に安定的に燃料を調達できるようになるか否かに人々の関心が集中している。原子力発電所の停止に伴い急増した燃料費負担に苦しむ電力会社が行った値上げ申請に対し、電気料金審査専門委員会では、将来米国から安いシェールガスが調達できることを前提に値上げ幅の抑制を図られたが、事ほど左様に米国のシェールガス革命に期待する向きは大きい。
  • 国際環境経済研究所主席研究員 中島 みき 4月22日の気候変動サミットにおいて、菅総理は、2050年カーボンニュートラルと整合的で野心的な目標として、2030年度の温室効果ガスを2013年度比で46%削減、さらには50%
  • (前回:COP29の結果と課題①) 新資金目標に対する途上国の強い不満 ここでは2035年において「少なくとも1.3兆ドル」(パラグラフ7)と「少なくとも3000億ドル」(パラグラフ8)という2つの金額が示されている。
  • エネルギー・環境問題の「バーチャルシンクタンク」であるグローバルエナジー・ポリシーリサーチ(GEPR)を運営するアゴラ研究所は、インターネット上の映像配信サービスのニコニコ生放送で「アゴラチャンネル」を開設して、映像コンテンツを公開している。3月15日はエネルギー研究者の澤昭裕氏を招き、池田信夫アゴラ研究所所長との間で「電力改革、電力料金は下がるのか」という対談を行った。
  • 「カスリーン台風の再来」から東京を守ったのは八ッ場ダム 東日本台風(=当初は令和元年台風19号と呼ばれた)に伴う豪雨は、ほぼカスリーン台風の再来だった、と日本気象学会の論文誌「天気」10月号で藤部教授が報告した。 東日本
  • 7月21日、政府の基本政策分科会に次期エネルギー基本計画の素案が提示された。そこで示された2030年のエネルギーミックスでは、驚いたことに太陽光、風力などの再エネの比率が36~38%と、現行(19年実績)の18%からほぼ

アクセスランキング

  • 24時間
  • 週間
  • 月間

過去の記事

ページの先頭に戻る↑